専修大学国際コミュニケーション学部日本語学科

楊 凱栄 特任教授

授業について

— 先生の担当されている授業について教えてください。
主に「日本語文章理解」、「応用日本語表現」、「一般日本事情」などの科目を担当しています。「日本語文章理解」の授業では様々なアカデミックな文章を読んで、理解できるようにし、さらに文章理解に欠かせない重要語句や文型などに関するチェックや練習も行います。それを通じて、読解の技術や思考力の向上を目指します。
「応用日本語表現」では実践的な練習として、様々なテーマについて自身の考えを発表する形式で行います。日本語の表現能力だけでなく、プレゼンテーションに関する基礎的な知識、方法、スキルなども学習していきます。
「一般日本事情」では日本の社会、文化、生活、教育、経済などに関する文章や新聞記事などを読み、日本という国を様々な角度や観点からよりよく理解を深めていきます。 私自身も以前留学生として来日し、大学院などで日本語の勉強や専門の研究をしてきたので、そうした経験を授業や学生の指導に生かしたいと思います。

研究について

— 次に、先生のご研究について教えてください。
私の研究領域は主として日本語と中国語の対照研究です。両言語の対照研究なので、ある意味事象を中心に立て、両者の相違は何なのかを考察します。言語が異なれば自ずと表現も違います。二つの言語を比較したとき、その間にずれが生じるのは当然です。そしてそのずれはそれぞれの言語特有の仕組みや構造を反映したり、その言語の使用者のものの見方、とらえかたを反映したりするものです。対照研究は実は異なる言語の違いだけでなく、共通性も教えてくれます。つまり対照研究は言語の普遍性と個別性に気づかせてくれるのです。普遍性と個別性は一見してまったく関係ないもののように見えますが、実は密接につながっています。人間の言語である以上、何か普遍的なものが存在するはずです。ただし異なるのはそれぞれの事象を言語化するときの表現方法です。実際に個別言語の持っている多くの興味深い現象はしばしばこうした比較対照を通じて明らかになってきたのも事実です。比較対照によって、異なる言語のパースペクティブに気づき、そこからなにか新しい発見なり、知見なり出てくるかもしれません。そうした発見や知見は言語の理論的な研究のみならず、外国語教育にも役立つものなのです。  
— 具体的には、どんなテーマを研究してきたのでしょうか。
私がこれまで対照研究として取り上げてきたテーマは多岐にわたりますが、おもに、1. 日中の使役やヴォイス、2. 日中のアスペクト、3. 日中授受・受益表現、4. 日中の類似や頻度を表す副詞表現、5. 日中の連体修飾表現、6. 日中の全称表現、7. 日中の証拠性における対照研究、といったようなテーマを取り上げてきました。

本の写真です。
証拠性の日中対照について具体的に言えば、日本語では自分の感情について「(私は)うれしい」と直接に表現できますが、他人の感情については「×彼女はうれしい」とは言えず、「彼女はうれしがっている」とか、「彼女はうれしそうだ」など、他人であることを示す標識(助動詞)を加える必要があります。つまり、日本語では自分の感情は直接に表出できますが、他人の感情が直接には分からないので、何らかの標識を用いて、それが他人のものであることを示す必要があるということです。
しかし、他人の感情だから直接に分からないのは中国人も同じですが、中国語の場合、特に他人であるという標識をつけ加える必要はありません。たとえば“我很高兴”(私はうれしい)、“她很高兴”(彼女はうれしい)のように、自分と他人の違いを文法標識で示す必要はありません。

このような日中の違いをどのように考えればよいのかについて、従来いろいろな説明がなされてきましたが、証拠性(evidentiality )という理論を用いると、よりわかりやすく説明できるのではないかと考えています。この理論をここで詳しく紹介する余裕はありませんが、要するに、ある事象もしくは出来事を他人に伝えるときに、情報源をどのように示すかということです。言い換えれば、ある言語では他人に関する出来事を伝えるときには文法的な標識を用いる必要があっても、ほかの言語では語彙的な手段ないし無標識でもよいということがあり得ます。上に示した日中の違いはその一例に過ぎません。このように、情報源をどのように示すかという観点から見れば、証拠性という言語の共通性を認識できると同時に、日中両言語に見られる多くの違いについても、説明することができるのではないかと考えています。

メッセージ

— 最後に、受験生や在学生にメッセージをお願いします。
学習の喜びは発見の喜びでもあります。一方的に伝授される知識や与えられる正解を鵜呑みにするのではなく、なぜそうであるのかを問いかけ、自らそれを確かめる探索の作業も必要です。大学はそのための訓練の場所であると思います。探索の過程において、大きな発見ができるのかもしれません。学生のみなさん、大いに発見の喜びを楽しみましょう。
楊凱栄

よう 凱栄がいえい(特任教授)

1988年筑波大学文芸・言語研究科博士課程修了(文学博士取得)、九州国際大学助教授、東京大学総合文化研究科助教授、准教授、教授を経て、2022年4月から専修大学コミュニケーション学部日本語学科特任教授。

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