専修大学国際コミュニケーション学部日本語学科

備前 徹 教授

授業について

—まず、備前先生の授業ではどんなことを勉強するのか教えてください。
講義科目として「現代日本語の研究」を、実習科目として「日本語教育実習B」などを担当しています。
「現代日本語の研究」は、音声、語彙・意味、文法、方言、敬語、ことばの獲得など、現代日本語の分野全般について、過去にどのようなことが研究されてきたかを、資料をもとに解説していきます。
いろいろな論文に載っているグラフや表などを見ながら、何が明らかになったのか、どういうことが研究のテーマになっているかを理解してもらうことを目的にしています。卒業論文のテーマを考えるときなどにも手助けになるのではないかと思います。
本棚の写真です。
「日本語教育実習B」では、夏休み中に韓国の大学に教育実習に行きます。4月から準備を始め、夏休み中に現地で教育実習を行い、夏休みのあとは実習中に撮影した授業の様子を見ながら、授業内容について履修者どうしで検討しています。
—教育実習の期間はどのくらいでしょうか?
出発から帰国までだいたい2週間です。ただ、実習の授業はその2週間だけで終わってしまうのではありません。今話したように、夏休み前の準備期間と、夏休み明けの事後期間がとても大切です。
—具体的にはどんな準備をしていくんですか?
実習先で使っている教科書がどんな内容になっているかを知ることが必要ですし、実際に実習で担当することになる内容をどういうふうに教えるかも考えておく必要があります。実習授業の準備には相当時間がかかるんですよ。
海外教育実習の写真です。
また、実習を終えて帰国してからは、撮影したビデオを見ながら、よかった点や足りなかった部分などを履修者どうしで検討していきます。これもまた、今後に生かすためにとても大切なプロセスだと思います。
—韓国に実習に行くなら、韓国語を勉強しておくほうがいいですか。
韓国語ができれば、実習期間中の生活面では役に立つと思います。それに、韓国人の日本語学習者にとって日本語のどのようなところが難しいかがわかる、ということもありますね。ただ、韓国語ができなくても、実習そのものにはあまり影響はないので、その点は心配する必要はありません。

ゼミナールについて

—次に、備前先生のゼミではどんなことを勉強するのか教えてください。
私のゼミでは、大きく分けて以下の二つを柱としています。
  1. 「外国人留学生が日本の大学で学ぶためにはどのような日本語力が必要か」を考える。
  2. 日本語学の論文を毎回1本ずつ読むことで、日本語を観察するのに必要な見方や考え方を習得しつつ、自分の卒業論文でテーマにしたいことを発見する。
最初の「外国人留学生が日本の大学で学ぶためにはどのような日本語力が必要か」は「アカデミック・ジャパニーズ」と呼ばれているものですが、よく考えてみると、これは留学生だけに限った話でないことがわかると思います。
アカデミック・ジャパニーズは、究極的には、日本語を母語とする人たちにとっても「自分が考えていることが相手に伝わるように表現できるかどうか」というところにつながっていくもので、この能力は実社会に出てからも常に求められるものです。その能力を高めていくことがゼミナールの目標の一つです。
実際の授業ではゼミ生のプレゼンテーションを中心に授業を進めていきますが、プレゼンテーションに際しては、それに先だって、発表の内容だけでなく、その伝え方(話し方)についても十分な準備が必要になります。つまり、私のゼミナールはスポーツで言うトレーニングに相当するものと考えています。
—具体的にはどんなトレーニングになるのでしょうか。
一般的なことは、大学から配布される『新・知のツールボックス』の第6章に詳しく書かれていますね。まずはこの章をじっくり読んでみるといいと思います。
ゼミナールでどのようなものを題材にしてプレゼンテーションするかということですが、上の2番目に書いた「日本語学の論文を毎回1本ずつ読む」がそれにあたります。社会言語学の論文が中心になりますが、社会言語学というのは要するに「社会の中でことばがどのように使われているか」を観察する分野なので、音声・文法・語彙・意味・文字・語用論など、題材にする論文の範囲は多岐にわたります。また、アカデミック・ジャパニーズを根本に据えていますから、日本語教育の論文ももちろんその中に含まれます。
ゼミナールの写真です。
—社会言語学と日本語教育って関係があるんですか。
日本語学習者は、日本に住んでいるかどうかは別にして、日本語社会の中で日本語を駆使していくことになります。ということは、敬語や方言など、ことばの使い分けも日本語教育に関わりがあることになります。
初級の日本語教育では社会言語学との関わりはあまりないかもしれませんが、学習者のレベルが上がれば上がるほど、日本語教育と社会言語学は切っても切れない関係を持つことになりますね。
—ゼミナールの延長線上にある卒業論文というのはどのように書いたらいいのでしょうか。
ゼミナールでは毎週1本の論文を読んでいきます。年間で30回の授業があるとすると、2年生と3年生の2年間で60本の論文を読むことになります。論文の内容はいろいろですが、その中には、「このテーマは面白い」とか「これだったら自分自身の問題としてもテーマに仕立て上げられそう」と思えるものが必ずあるはずです。そこを出発点にして取り組んでいくといいのではないかと思っています。

研究について

—備前先生の研究について教えてください。
私は、学部の卒業論文では日本語の方言をテーマにしました。もう何十年も前の話ですけれどね。そしてそのあと、大学院の修士論文では日本語の文法をテーマにしました。さらにそのあとは、また、日本語教育の中で日本語の方言をどのように扱っていったらいいか、つまり社会言語学について考えたりしてきました。
研究者は1つのテーマについて深く掘り下げていくのが普通だし、それが望ましいとも思うのですが、私の場合、どうも一貫性がないといった感じです。よく言えば、いろいろな分野に興味があるということかもしれませんが、私自身はどうも「これが自分の専門だ」という意識が持てないでいます。
専大キャンパスの写真です。
でも最近は、日常生活の中で目に入ってくる文字に注目しています。街の中の看板や標識に書かれている文字、テレビ番組のタイトルや雑誌の表紙などに使われている文字などです。言語景観学という分野です。
—そういうところに注目することにはどんな意味があるんですか。
文字というのは、それが表す意味内容だけでなく、文字そのものがどんな「表情」をしているかということも大切な要素だと思います。例えば専修大学の神田キャンパスには図1の文字が掲げられていますし、生田キャンパスの正門には図2の文字が掲げられていますが、これがもし図3のような文字だったらどうでしょうか。

図1 神田キャンパスの「専修大学」

図2 生田キャンパスの「専修大学」

図3 ピグモ00フォントの「専修大学」
—何だかちょっと変ですね。
そうでしょう。普段はほとんど気にしていないのですが、「気にしていない」ということはだいたいにおいていかにもそれらしい姿の文字が使われているからなので、裏を返せば、こういったところも「社会の中で日本語がどのように使われているか」という社会言語学の研究範囲ということになると思うのです。こんなところに目を向けながら街の中を歩くのも楽しいんじゃないでしょうか。

メッセージ

—何か学生へのメッセージはありますか。
若いときは、自分のやりたいことが見つからなかったり、逆にいろいろやりたいことがあって絞りきれなかったり、ということがあるのではないかと思いますが、まずは目の前の課題に取り組んでみるというのが、現在の生活を打開する一つの方法になるのだと思います。
る授業で出された課題に一つ一つ真剣に取り組んでみるとか、あるいは、大学での勉強には限りません、今何となく興味が感じられることにのめり込んでみるというのもいいと思います。そこから新たな世界が発見できるということもあるのではないかと思っています。
—ありがとうございました。
備前徹

備前びぜん とおる(教授)

1982年、東京外国語大学大学院外国語学研究科日本語学専攻修了。ウィーン大学、東海大学、滋賀大学を経て、1998年から専修大学。

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