専修大学国際コミュニケーション学部日本語学科

山下 直 教授

授業について

— まず、山下先生の担当されている授業ついて教えていただけますか。
日本語学関係の授業として「日本語学入門」、国語科の教員免許取得に関わる授業として「国語科教育法」などを担当しています。
「日本語学入門」は、主に1年生の皆さんに向けた日本語学の基礎的・基本的な内容についての講義です。日本語学の面白さに触れてもらえれば有難いと思っています。日本語を研究するには、日本語の表記や音韻、文法などについて分析的に捉える必要があります。ただ、それらの分析を行う際に、私たちの生活場面での自然な日本語運用の実態を常に視野に入れておくことも必要です。ですから、講義においても、できるだけ私たちの生活場面での日本語運用の実態と乖離しないようにしながら、日本語研究の面白さを考えていきたいと思っています。
「国語科教育法」では、学習指導要領について基本的に理解するとともに、国語科の授業をどのように構想し、どのように授業をしていくかについて考えていきます。国語科に限らず各教科の授業は、文部科学省から公示されている学習指導要領に基づいている必要があります。ですから、まずは、学習指導要領について基本的なことを理解することが必要となります。その上で、単元や授業をどのように構想していくかについて理解を深めていきます。学生が教師役、生徒役に分かれて、自分たちで考えた授業を実際に行ってみる模擬授業も行います。
国語科の授業を考えていく上で、教師自身が教材に対して自分なりの明確な解釈を持つことも大切なことです。日本語学を学ぶ皆さんは、ぜひ日本語学の知見を教材解釈に生かせるようになって欲しいと思います。授業を通してそのためのサポートもしたいと考えています。

ゼミナールについて

— 次に、山下ゼミについて教えて下さい。
日本語学と国語教育の関わりについて考える「日本語学・国語教育ゼミ」として活動することをねらいとします。

皆さんは大学に入学するまで、国語科でどのような勉強をしてきましたか。評論文の筆者の主張を読み取ったり、文学作品の登場人物の気持ちを解釈したりすることが多かったでしょうか。意見を書いたり、感想を書いたり、スピーチやインタビューなどをしたりした人もいるかもしれません。国語科の学習内容には、「話すこと・聞くこと」「書くこと」「読むこと」の三つの領域があります。評論文や文学作品を読むのは「読むこと」、意見や感想を書くのは「書くこと」、スピーチやインタビューは「話すこと・聞くこと」の学習です。

これらの学習活動と日本語学の研究成果との間に、直接的な関わりを見つけることは容易なことではありません。しかしながら、これらの学習活動はいずれも言語を運用する活動にほかなりません。このように考えれば、国語科の学習活動の研究に日本語学の研究成果を取り入れることは、大変意義のあることと言えると思います。

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国語教育で行われる教育的側面と日本語学の研究的側面、この二つの側面の橋渡しをするにはどうすればよいのか、このゼミではそんなことを考えてみたいと思っています。
— 日本語研究と国語教育の関わりをどのように考えるのですか。

日本語学と国語教育との関わりを考えるためには、まず国語科がどのような教科なのかを知ることが大切ですね。「国語科はどんなことを学ぶ教科なのですか」とストレートに尋ねられた時、明快に答えられる人はそれほど多くないのではないでしょうか。そこで、このゼミではまず国語科という教科についていろいろと考え、どのような教科として捉えるべきかについて一人一人の認識を深めていくことを目指します。国語科ではどのような能力を、どのように育成していくべきなのか、漢字や語彙、文法などの学習はどのように行うのが効果的なのか、このような疑問に自分なりの答えを持つことで、国語科についての認識を深めていきましょう。

また、社会生活を円滑に行うために、言語を適切に運用することが重要であることは言うまでもありません。言語運用能力を高めることは、国語科の重要なねらいの一つでもあります。では、言語運用能力とはどのような能力のことを言うのでしょうか。また、言語運用能力はどのようにすれば育成することができるのでしょうか。このようなことを考えていくと、日本語学と国語教育との関わりをさぐるための手がかりを見つけられるかもしれません。
日本語学と国語教育をうまく橋渡しできるように、国語科の学習や日本語について様々な角度から考察していきましょう。

研究について

— では、先生のご研究について教えてください。
私の研究テーマは、日本語を母語とする学習者が適切な日本語運用能力を身に付けるための、効果的な指導について考えることです。
例えば、私たちは小学生の時から漢字を学習する(させられる?)のですが、なぜ漢字を学習しなければいけないのかということについて、明快に説明できる教師がどのくらいいるでしょうか。日本語の表記を全てかな書きにすれば、漢字を覚える苦労はなくなり、その空いた時間を他のことに使うことができるはずです。けれども、そういうことが起こらないのは、漢字を使用することに日本語を運用する上での合理的な利便性があるからと考えるべきでしょう。
また、日本語で文や文章を書く時に「。」や「、」を用いますね。「。」を打つ箇所がわからないという人はあまりいないかもしれませんが、「、」をどの箇所に打つべきかを明快に説明できる人は、それほど多くいないのではないでしょうか。これについても、「、」をどこに打つべきかを厳密に定めないことに、日本語を運用する上での合理的な利便性があるからだと考えられます。
具体的にどのような利便性があるのかを明らかにするためには、日本語学の知見を活用することが不可欠です。そして、これらのことを明らかにしていくことは、国語科の学習内容について、なぜそれを学習する必要があるのか、どのように学習すると効果的なのかを明確にすることにもつながります。ですが、国語教育の世界では、これらは「当たり前」のこととして疑問を持たれることなく、これまでのやり方を無反省に踏襲しているような面があります。そのため、実際の言語運用から乖離した指導が行われていることが少なくありません。私は、このような点に着目し、国語教育で「当たり前」と思われてきたことを、日本語学の視点からもう一度見直してみたいと考えています。
— 国語教育とはどのように関わってこられたのでしょうか。
高等学校の教師として10年間、文部科学省の教科書調査官として14年間、2014年からは大学教員として、それぞれの立場から国語教育に携わってきました。その間、学習指導要領の作成に協力したり、現場の先生方の実践に対して助言を行ったりする機会を持つことができ、それらは今の私にとって大変貴重な経験となっています。2017年3月に新しい学習指導要領が公示されましたが、その理念をこれからの国語教育にどのように生かしていくべきかについて考えることも、私の重要な研究テーマの一つです。

メッセージ

— 最後に、受験生や在学生にメッセージをお願いします。
はるか昔、自分が大学に入学した頃のことを振り返ると、高校までの自分が考えてもみなかったものの見方や考え方が講義で示され、大変な驚きを覚えた記憶があります。大学で勉強することの意義を実感した体験でもあります。私の講義が皆さんにそのような思いを抱かせることができるかどうかはわかりませんが、大学でこれまで経験したことのない新たなものの見方や考え方に触れてほしいと思います。
山下直

山下やました なおし(教授)

1990年、筑波大学大学院修士課程教育研究科教科教育専攻国語教育コース修了。東京学芸大学附属高等学校教諭、文部科学省教科書調査官、文教大学教育学部教授を経て、2021年より専修大学国際コミュニケーション学部日本語学科。

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