専修大学国際コミュニケーション学部日本語学科

阿部 貴人 准教授

授業について

— まず、阿部先生の担当されている授業について教えていただけますか。
主に「社会言語学」「日本語の社会的研究」の科目を担当しています。
「社会言語学」では、「言語現象の中に潜むメカニズムを解明する」ための基礎知識を学びます。実際の言語現象の中からメカニズムを解明するためには、理論という武器が必要になります。ことばは性別や年齢によってどう/なぜ違うのか、人がことばを切り替えるときにどのような行為を行うのか、複数のことばが接触するとどのように変化するのか、ことばに対してどのような意識を持って行動しているのかなど、これまでの研究成果を概観することで、メカニズムを解明するための理論武装を目指しています。
「日本語の社会的研究」では、「やさしい日本語」の活動に取り組んでいます。「やさしい日本語 」とは、日本語を母語としない日本語学習者(初級終了程度)に、簡単な日本語で情報を伝える活動です。1995年の阪神淡路大震災をきっかけに始まりました。
「やさしい日本語」の授業中の写真です。
災害時には様々な情報を入手することが重要です。その人の母語に翻訳して伝えることができれば、それがベストです。しかし、災害が起きた直後の様々な情報を、瞬時に複数の言語に翻訳することは現在の翻訳技術ではまだ困難な面があります。そこで、初級終了程度の日本語で情報を伝えることで、多くの外国人に災害時の情報を伝えようとするのです。
講義形式で「やさしい日本語」の作成ルールを学んだあとで、防災マニュアルなどの「やさしい日本語」バージョンを作成する授業活動を行っています。

ゼミナールについて

— 次に、先生のゼミについて教えてください。
「社会言語学」を研究テーマとしてゼミを展開しています。社会言語学とは、「社会を通して言語を見つめる」学問領域のことです。言語調査という手法を用いながら、ことばと社会がどう関わるのかを解明しようとしています。「社会言語学」のページも参照してください。
— ことばと社会が関わる現象には、どのようなものがあるのですか?
地域社会で話される方言と全国共通語との関係や、若者語・キャンパスことば、新語・流行語、敬語、発音や文法の変化など、多岐に渡ります。
例えば、テレビジョンを省略した「テレビ」や、コンビニエンスストアを省略した「コンビニ」といった略語というものがありますね。こういった略語は、だいたい仮名3文字か4文字に省略されています。「バイト」「パソコン」「国連」などもそうですね。私たちは自由にことばを変形させているようで、実は、ことばの規則性に則って言語活動を行っているのです。
このようなことばの規則性を導き出すこと、つまり、「言語現象の中に潜むメカニズムを解明する」のが社会言語学です。
社会言語学にはもう1つの側面があります。それは、「ことばに関わる社会問題を解決する」というものです。例えば、東日本大震災では、(意外かもしれませんが)ことばに関係する社会問題が多発しました。病状を方言で伝えても東京から来た医師に理解してもらえなかったり、ことばが原因で避難先に馴染めなかったり、といったように。
こういったことばの社会問題に対して、私たちは何ができるでしょう。簡単に解決できることではありません。しかし、誰かがやらなければいけない課題です。その課題に学生とともに取り組んでいこうとしています。
方言辞典の写真です。

研究について

— では、先生のご研究について教えてください。
ゼミでも取り上げている「社会言語学」が専門領域です。特に、アンケート調査や現地で実施するフィールドワークを通して、ことばと社会の関係に迫ろうとしています。
専修大学に来るまでは、国立国語研究所が実施した『岡崎敬語調査』 『鶴岡調査』 といったフィールドワークに携わってきました(図1)。どちらの調査も、一定の期間を空けて、基本的に同じ質問・同じ方法で繰り返し行うことばの調査で、半世紀以上にわたって実施してきました。こういった繰り返し行う調査を経年調査と言います。経年調査を行うことで、ことばがどのように/なぜ変化してきたのかを解明するとともに、この先どのように変化していくのかといったことも予測することができます。
実は、半世紀以上にわたって実施されている経年調査というものは、世界的に見ても非常に稀なのです。これは言語研究に限らず、社会学や医学といった他分野を併せてもかなり珍しいのです。こういった調査を今後も実施していくためには、ことばに関する基礎研究の積み重ねが必要です。この先の半世紀を見つめることのできる言語調査を目指して、基礎研究にも取り組んでいます。
円グラフです。
図1:『鶴岡調査』における調査結果の一部

メッセージ

— 最後に、受験生や在学生にメッセージをお願いします。
世の中には様々な出来事・現象があり、私たちはそれに対処していかねばなりません。そのために必要なものは、その出来事・現象をしっかりと見つめる分析力と、それを応用する問題解決力だと思います。社会言語学は、ことばを通してその2つの力を養うことができます。専大の日本語学科での学びを通して、その2つの力を養ってほしいと思います。
阿部貴人

阿部あべ 貴人たかひと(准教授)

2007年、大阪大学大学院文学研究科 単位取得退学。国立国語研究所研究員を経て、2015年から専修大学文学部日本語学科。

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