社会言語学
社会の中で使われる言語を見つめる
専大日語では、文学部創設(1966年)以来の伝統として、社会言語学に関する授業が充実しています。
社会言語学とは、「社会を通してことばを見る」学問領域です。ことばは、社会の中で使われることによって、コミュニケーション・ツールとしての役割を果たします。社会の中でのことばの役割、ことばと社会との関係について分析する学問が、社会言語学です。
例えば、方言と共通語の関係、敬語を使ったコミュニケーション、若者ことばやキャンパスことば、震災時における言語問題など、社会と関わる言語現象は全て、研究の対象となります。
また、ことばは常に変化するものです。その変化は、社会的な状況が原因となって起こることが少なくありません。社会言語学は、ことばが変化する際のメカニズムの解明にも焦点を当てています。
国立国語研究所 刊行 『日本言語地図』より
ことばは社会を反映する
では、ことばが社会を反映するとは、具体的にはどういうことなのでしょうか。方言を例に見ていきましょう。
つい最近まで、方言は「良いことば」とは意識されていませんでした。方言を「悪いことば」「恥ずかしい」「コミュニケーション上の支障にしかならない」などと考え、方言を撲滅しようとする運動が行われたことさえありました。日常的に方言を使用して生活している人でさえ、方言に対してある種のコンプレックスを感じていた時代もありました。
現代はどうでしょうか。首都圏出身の学生に尋ねると、方言は「かわいい」「かっこいい」と意識されるようです。かつて無口な人の代表と意識されていた東北人は、今や「おしゃべり好き」とイメージされてもいます。地方出身者も、方言を使うことにあまり抵抗を感じなくなっているようです。むしろ、方言を持っていない人が、そのことにコンプレックスを感じることもあるくらいです。
現代では、以下の表のように、地元の方言と共通語の両方を肯定的に意識し、両者を積極的に使い分けようとする、いわば「方言バイリンガル」の存在も珍しくなくなりました。
積極的方言話者 | 生育地の方言が好きでどの場面でも方言を使う。(近畿・中国・四国) |
共通語話者 | どの場面でも共通語を使う。方言と共通語の使い分け意識は低い。(首都圏・北海道) |
消極的使い分け派 | 生育地の方言は好きだが方言使用はどの場面でも消極的。(北関東・甲信越・北陸・東海) |
積極的使い分け派 | 生育地の方言も共通語も好きで、相手によって方言と共通語を積極的に使い分ける。(沖縄・九州・東北・中国) |
これは、方言の価値が向上したことに由来するのでしょう。共通語しか使わない人も、方言を使う人も、方言というものを文化の一部として肯定的に評価します。自分と異なるものをも認める、そんな社会の変化に伴って、方言の価値も変化してきたのだと考えられます。
ことばの「なぜ」を解明する
日常の言語現象には「なぜ」が詰まっています。さきほどの方言の価値がなぜ向上したのかもその一つでしょう。他にも、なぜ人は敬語を使うのか、なぜ若者は若者ことばを生み出すのか、なぜ大阪弁を話す人にはおしゃべりなイメージがあるのか、等々。
これらの「なぜ」は、社会を通して見ることによってはじめて解釈できることが少なくありません。社会と関わることばの「なぜ」=「言語現象のメカニズム」を解明する学問、それが社会言語学なのです。
<参考文献>
田中ゆかり・前田忠彦(2012)「話者分類に基づく地域類型化の試み ―全国方言意識調査データを用いた潜在クラス分析による検討―」『国立国語研究所論集』3, 国立国語研究所. [link]
<参考シラバス>