宇佐美 洋 教授
授業について
- — 宇佐美先生の担当されている授業について教えていただけますか。
- 主に「現代日本語の研究1・2」「日本語言語政策史1」という科目を担当しています。
- 「現代日本語の研究」では、言語の「ルール」というものが持つ意味について問い直していきます。ルールというと、上から押し付けられていやいや従うもの、というイメージを持っている人が多いかもしれません。一方で、ルールに無批判に従うのでなく、「なぜそういうルールが存在するのか」について考えたり、「こういうときにはこういうふうにことばを使うとうまくいく」ということに気づき、それを「マイルール」として意識的に活用していったりすることによって、言語をよりよく生きていくために活用することができるようになります。言語ルールの「あたり前」を疑うことを出発点として、ものごとをより深く考えていく手がかりを得ていきます。
- 「日本語言語政策史」では、言語を「個人と社会」という視点から捉え直していきます。ひとはだれでも、自分の意図を自分らしく伝えるために、言語使用において新しい工夫を行う自由を持っています。一方で個人が言語を完全に好き勝手に使用すると、他者との意思疎通は成り立ちません。個人の言語使用に対し、ある程度の枠を設定することは必要ですが、しかしその枠が、多数派の価値観を少数派に押し付けたり、言語使用についての新しい工夫を阻害したりするようなものとなるのは望ましくありません。この授業では、言語使用における個人の自由を可能な限り認めると同時に、社会全体を円滑に運営していくための調整装置として言語政策を捉え、その望ましいあり方について考察を深めていきます。
ゼミナールについて
- — 次に、宇佐美ゼミの活動内容について教えてください。
- 宇佐美ゼミが目標としていることは、「異なる言語や文化(価値観)を持っている人々同士が、どちらかがどちらかに一方的に合わせる、というのではなく、それぞれの違いを理解し、尊重しつつ、ともに生きていけるようになるにはどうしたらいいか」を考える、ということです。近年日本社会の中にも、外国で生まれ育ち、日本人とは異なる言語・文化をもつ人びとが増えてきています。そういう人びとに対し、一方的に日本語・日本文化を知ってもらおうとだけすることは、ややもったいないことのようにも思われます。ひとは保守的なものですから、それまであまり出会ったことのない価値観や行動様式に接することに違和感を持ってしまうのはやむを得ないことです。しかしそうした違和感は、新しい価値観について、開かれた心を持つための絶好の機会とも言えます。そもそも、いわゆる日本人同士であっても、価値の捉え方は様々です。個々人が、異なる価値のあり方を受け入れる「心の余裕」を持てるよう促していくことは、結局のところ誰にとっても生きやすい社会を作ることにつながるのです。
研究について
- — では、先生のご研究について教えてください。
- — 最後に、受験生や在学生にメッセージをお願いします。
- これまで自分が正しいと思ってきたことについて、一度疑ってみる、という勇気を持ってみてください。高校までは、「正しいとされていること」をそのまま受け入れていればよかったかもしれません。しかし大学では、そこを疑うことが求められます。特にこれからの社会では、これまで広く受け入れられてきた価値観が、短期間で大きく組み変わっていく、ということがありそうです。そのような中で、周囲の状況を観察しつつ、しかし周囲の考え方に流されることなく、「自分はどういう人間なのか、どういう人間でありたいのか」ということを考えながら、自分がどういう道を進んでいくのがよいか、考えていってください。
私自身も、上で「ゼミの目標」として示したことを実現するために、様々な形での研究を行っています。
博士論文をまとめた書籍『「非母語話者の日本語」は、どのように評価されているか』(2014年、ココ出版より刊行)では、日本語を母語としない人が書いた謝罪文を、日本語母語話者がどのように評価しているか(どういう観点を、どういう順番で見ているか、ある観点を見る際にどういう価値を重視しているか)を詳細に検討し、同じ日本語母語話者であっても評価において準拠する価値観や評価のプロセスは大きく異なること、そうしたプロセスは一見多様に見えても、その裏には共通の原理も存在していることを示すとともに、そうしたプロセスの多様性と共通性をともに表現できる「評価プロセスモデル」を提案しました。このモデルは、自分自身がどのようなプロセスで評価を行っているかを内省するための手がかりとして非常に有効なものと考えられます。
最近では、将来的に言語教育に携わろうとしている人々に対し、自分が教育において重視している価値観のあり方を、他の人の持っている価値観との比較によって明確に認識してもらうとともに、その価値を実現するための教育プログラムを立案してもらう、という教育活動を行っています。そしてそうした活動の中で、参加者がどのような気づきを得ているかを分析し、教育活動を改善していくための研究なども行っています。
メッセージ
宇佐美 洋 (教授)
1997年、東京大学大学院人文社会系研究科単位取得退学。新潟大学留学生センター専任講師、国立国語研究所日本語教育センター研究員、日本語教育研究・情報センター准教授、東京大学大学院総合文化研究科言語情報科学専攻教授等を経て、2026年4月より現職。
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