専修大学国際コミュニケーション学部日本語学科

専大日語・コラム

専大日語の教員による、月替わりのコラムです。

2023年8月:平仮名を覚える順番は?

日本語学科の1年次前期に「日本語学総合」という必修科目があります。 この授業では、日本語学科の専任教員全員が交代で(リレー形式で)で、自分の専門領域の面白さを紹介する講義をしていきます。

私は4月25日に「日本語の文字・表記」について話しました。 その中で、「平仮名を書けるようになるために、どの順番で覚えたらよいと思いますか?」というアンケートをしてみました。選択肢は、次のa.からe.のようにしました。

a. あいうえお…の順
b. あかさたな…の順
c. いろはに…の順
d. くへしついこ…などの順(簡単な平仮名から)
e. あおをぬれ…などの順(複雑な平仮名から)

回答者数は70人で、その約85%の人がa.「あいうえお…の順」と答えました。

実際には、小学校1年生の書写では簡単なものから平仮名を書く練習をしています。『しょしゃ』の教科書では、出版社によって少し違いがありますが、「くつへしこいうり…」(東京書籍)、「くつしことりいけり…」(教育出版)、「くつかいのともそえんますこい…」(光村図書)の順に書くように構成されています。

また、東京都内の公立小学校では、「くへしつこいりけうかにたのとをてそひんえさきちらろるよまはほなすむおみめぬあゆわねれもやせふ」の順に平仮名を学ぶことになっています。

はっきりした順序の決まりは見て取れないのですが、「く」「へ」のように線を一度折り曲げる字形、「つ」「し」のように線をカーブさせる字形、「い」「こ」「り」は2本の棒の位置や長さに違いがある字形など、字形が単純なものから書かせる傾向が見られます。この傾向は、書店で市販されている学齢期前の幼児用の平仮名ドリルでも同じでした。

日本語学では、こうした平仮名の字体の「単純さ・複雑さ」について、基準を設定して数値化した研究があり、客観的に平仮名の難易度を示すことができます。

ところで、どの文字から覚えるかという議論は、文字の習得段階ではとても大切なことですが、日本語学の文字論の立場から見ると、それほど重要なことではありません。

というのは、平仮名のような表音文字は、「最終的には体系に含まれる文字全部を覚えなければ実用にならない」からです。平仮名の場合は、最終的には五十音図、濁音、半濁音、拗音のすべてを読み書きできないと実用になりません。英語の場合でも、アルファベットA~Zの大文字・小文字を読み書きできないと実用になりません。

一方で、漢字のような表意文字(表語文字)は、すべての文字を覚えていなくてもかまいません。むしろ、全部を覚えるというのは不可能に近いので、社会が文字体系そのものの範囲を限定してしまう場合もあります。例えば、漢字は、『大漢和辞典』(大修館書店)の見出しで数えると約5万字あります。しかし、日本では2010年改定の「常用漢字表」(平成22年内閣告示第2号)では、2,136字を示しています。これは、日常生活に用いる漢字の範囲を限定していくことで、書き言葉によるコミュニケーションを効率化する工夫でもあります。

斎藤達哉


<参考文献>
  1. 樺島忠夫・佐竹秀雄(1973)「ひらがなの字形に順序を与える」『計量国語学』66、計量国語学会、1973年6月 [OPAC]
  2. 樺島忠夫・続木敏郎・関口泰次(1985)『事典 日本の文字』、大修館書店、1985年4月 [OPAC]

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