専修大学国際コミュニケーション学部日本語学科

専大日語・コラム

専大日語の教員による、月替わりのコラムです。

2022年10月:開催報告「専大日語の夏フェス 2022」

2021年度の夏休み、「新型コロナウイルスの影響で、ゼミの夏合宿に行けなくなってしまった、そんな鬱憤を晴らそう!」 という意図で、「専大日語の夏フェス 2021」を企画・開催しました (その時の模様は、こちらのコラム をどうぞ)。 あれから1年、今年の夏休みも感染拡大に見舞われ、またしてもゼミ合宿には行けないことに(涙)。 コロナ禍での生活も3年目、影響はいつまで続くのでしょうか...

そんな中、専大日語の1年生から4年生を対象に、今年もやりました。題して、

「専大日語の夏フェス 2022」!

専大日語で展開している各ゼミナールから発表を持ち寄り、全体でシェアする「合同ゼミナール」の企画です。 今年は特別講演も含めて14件の発表が集まりました。9月15日(木)、9:30から17:00まで オンラインで「専大日語の夏フェス 2022」を開催しました。

当日のポスターとプログラムは以下(タップ・クリックで拡大)。


個人研究、ゼミ内でのグループ研究、異なるゼミ間での共同研究に加えて、国内外での日本語教育実習の報告、特別講演など、今年も充実したラインナップとなりました。

以下、当日の発表について、スライドとともに、少しずつ紹介します。


1. 「フワちゃんのSNS分析」(阿部ゼミ)

フワちゃんがSNSで発信している話し言葉・書き言葉を、テキストマイニングの手法で分析した研究です。 話し言葉はYouTubeで配信されている動画(約3.5時間分)、 書き言葉はTwitter(1年分)の投稿、Instagramの全投稿を、それぞれデータ化しました。 話し言葉ではポジティブな形容詞が「見て」と共起する場合が多いこと、 書き言葉では感嘆符「!」や「しまぁす」のような捨て仮名が 多用されていることを明らかにしました。 最後に分析結果を応用した「フワちゃん12ヶ月カレンダー」を作成しました。


2. 「「だ」の活用体系はこれ「だ」」(須田ゼミ)

コピュラ「だ」の活用体系を語形の観点から整理しようとする研究です。 学校文法における助動詞「だ」の活用表に、意味的な観点(未然形・仮定形・命令形)と統語的な観点(連用形・終止形・連体形)が混在していること、 「だ」系統と「な」系統の語形が混在していることを指摘した上で、 「終止用法・連体用法・連用用法」という三つの語形に分類することを提案しました。


3. 「A TOOL for 日本語教育 ~檀国大学での実習報告~」(丸山ゼミ・王ゼミ)

夏休み、「日本語教育実習B」の授業で壇国大学(韓国)に日本語教育実習に行った報告です。 最初に、クイズ・アンケートが作成できるアプリ「Kahoot!(カフート)」の紹介・デモとして、クイズ大会になりました(教員3名が本気で1位を取り合いました)。 その後、壇国大学での教育実習で、中級クラス・ビジネスクラス(初級クラス、高級クラス)を担当した経過の報告がありました。 Kahoot! を使ったクイズの終了後にランキングが表示されるため、とても盛り上がったとのことでした。


4. 「古典仮名表記の情報学 A班 ―字体と頻度の関係―」(斎藤ゼミ)

「頻度の高い仮名は字体が単純ではないか?」という仮説を、『新古今集』『西行物語絵巻』など12種の資料で検証した研究です。 全ての仮名の「字母となる漢字の画数」を調査し、47音中、43音が10画以下であることを明らかにしました。 さらに、高頻度の字体と低頻度の字体とを、(1) 複雑度(棒の数、折れ曲がり)、(2) 起筆の違い、(3) 長短(縦長か横長か)、 (4) 大小(上下の文字と比べて大きめか小さめか)、(5) 連続性(上の文字から連綿するかしないか)という5点で調査しました。


5. 「古典仮名表記の情報学 B班 ―平仮名と同じ字母の仮名の特徴―」(斎藤ゼミ)

『百人一首』『古今集』『新古今集』『貫之集』などの資料を対象に、 文章中に出てくる文字の種別・字母とその頻度を調査しました。 全体的に「現行の平仮名と同じ字母」が主流という傾向が見られました。 さらに、現行の平仮名と異なる字母が多い「カ」について、 語の1拍目は「加」が使われる傾向があること、同じ行にカがあると異なる表記となる傾向があること、 などを明らかにしました。


6. 「古典仮名表記の情報学 C班 ―仮名字体と音韻の関係―」(斎藤ゼミ)

「ハの仮名の音韻」について12の古典作品を調査し、 「/wa/ ワ」「/ɸa/ ファ」「/ba/ バ」それぞれの読みと漢字表記の対応関係を調べました。 また、敬語表現で使われる「給」「御」「侍」の字形について調べ、 字形の種類が多く、作者によって字形が異なること、 作者ごとが自分の書きやすい形で書いていること、 「の+給」や「侍+る」のように連綿することが多いこと、などを指摘しました。


7. 「クマオーンチャンネルの制作過程」(王ゼミ)

王ゼミで配信している、stand.fm でのラジオ番組「クマオーンチャンネル」、 その制作過程の裏側を、「原稿」「録音」「編集」という三つの観点から発表しました。 原稿の執筆は「1分間に300字」「時事問題に目を向ける」、録音作業は「録音環境」「ポーズ、話速」、 編集は「発話者の声にあったBGM」など、制作・編集の過程で配慮する項目が分かりやすく論じられました。


8. 「鳥取城北日本語学校での実習報告」(王ゼミ・阿部ゼミ)

9月上旬、鳥取城北日本語学校で行った日本語教育実習の報告でした。 全校生徒56名、ベトナム人の学生たちが主体の日本語学校で、授業見学、教壇実習、交流会などを体験してきた様子が報告されました。 生徒さんからは「先生皆さんが文法パターンを非常に簡単に、非常に熱心に説明しました。本当にすばらしかったです」などの感想をもらったとのこと。 写真が豊富で実習の内容がよく分かる発表でした。


9. 「外来語言い換え提案2022」(丸山ゼミ)

2002年から2006年に国立国語研究所で実施された「「外来語」言い換え提案」。 分かりにくい外来語が伝わりにくい場面では分かりやすく言い換えようと提案したものでしたが、 そこで取り上げられた外来語が現代ではどのように定着しているのかを、コーパスとアンケートで調査した研究です。 20年前と比較すると、外来語が外来語のまま定着したものから、現代でもなお意味が浸透していないものまで、幅があることが分かりました。


10. 「日本人学生と留学生のプロミネンス比較」(王ゼミ)

日本人学生と留学生の発話を音響分析し、プロミネンスにおける音の強弱(インテンシティ)を比較した研究です。 刺激文に含まれる文節数に違いを設け、各文節のインテンシティをPraatで分析したところ、 日本人学生は特定の文節のみを強調させて読んだのに対し、留学生はほぼ全ての文節を同じくらい強調して(または同じくらい強調せずに)読んだ、 という結果が得られました。


11. 特別講演「日本語学教師としての異文化コミュニケーション」

特別講演として、韓国蔚山科学大学校の劉相溶(ユウ・サンヨン)先生に、異文化コミュニケーションをテーマにお話をしていただきました。 異文化の定義、異文化を勉強する理由、外国人の視線から見る日本語など、国際コミュニケーション学部の学生・教員にとって、とても示唆に富むお話でした。 韓国の食文化についても豊富な写真で解説していただき、たいへん勉強になりました。劉先生、どうもありがとうございました。


12. 「マンダリンと広東語の発音の比較」(王ゼミ)

日本語・マンダリン(中国語の公用語)・広東語(粤語)という三つの言語を対象に、発音の実態を実験的に探った研究です。 「散歩」「簡単」「確定」という3語を各母語話者に発音してもらい、Praatで音響分析を行いました。 「簡単」の場合、日本語と広東語では軟口蓋音、マンダリンでは歯茎音が生じるなど、違いが観察されました。


13. 「中国語母語話者にとっての「そうだ」「ようだ」「らしい」「みたい」の使い分け」(高橋ゼミ)

日本語母語話者・中国語を母語とする日本語学習者を対象に、モダリティ形式「そうだ・ようだ・らしい・みたい」の使い分けについてアンケート調査を実施しました。 「ずいぶん寒くなってきたね」「ええ、さっき天気予報を見たよ。今晩は雪が降る(  )」の括弧を埋める形式を選ばせ、その選択理由を尋ねました。 使い分けの理由を分析したところ、「様態か伝聞か」「インフォーマル化フォーマルか」という二つの基準で使い分けられていることが分かりました。


14. 「みんな大好きホラー映画のキャッチコピー【完結編】」(阿部ゼミ)

「なぜホラー映画のキャッチコピーは怖いと感じるのか」を問いとして、900件以上のキャッチコピーを収集し、分析しました。 収集したキャッチコピーを、「禁止系」(「その少女を助けてはいけない」)、「疑問問いかけ系」(「なぜ、善良な人々が死ぬのか」)など9種類に分類し、 さらにその応用として、ホラーなキャッチコピーを独自に作成しました。昨年と同様、凝りに凝ったスライドで、とても楽しませてくれました。うふふ。うふふ。


最後に、教員による一日の総括がありました。 前回の夏フェスに増して研究テーマが大きく広がったこと、 先行研究をしっかりと調べ、自分たちの研究を既存の研究の流れの中に位置付けることが大切なこと、 特に4年生は卒業論文に向けて研究をしっかりと進めてほしいこと、などが述べられました。

以上、「専大日語の夏フェス 2022」の開催報告でした。参加した学生・教員のみなさん、おつかれさまでした。 来年度の夏フェスではどんな発表が出てくるか、今から楽しみにしています!

丸山岳彦

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