専修大学国際コミュニケーション学部日本語学科

専大日語・コラム

専大日語の教員による、月替わりのコラムです。

2021年9月:開催報告「専大日語の夏フェス 2021」

新型コロナウイルスの拡大が始まって早一年半、ワクチン接種が進んできているものの、なかなか出口が見えない状況が続いています。 感染者数の爆発的な拡大で、専修大学ではゼミ活動が大幅に縮小され、今年の夏も宿泊を伴うゼミ合宿は中止となってしまいました。

私のゼミでは、せめて日帰りのフィールドワークにでも出かけようと計画を立てていましたが、こちらも状況を鑑みて、中止せざるを得ませんでした。 厳しい制約で思うような活動ができず、学生のみなさんもフラストレーションが溜まっていることと思います。

そんな状況を打開しようと、専大日語のゼミナールに所属する2年生以上を対象に、オンラインでの合同ゼミを企画しました。題して、

「専大日語の夏フェス 2021」!

専大日語で展開している各ゼミナールから発表を持ち寄り、全体でシェアしようという企画です。 発表を募集したところ、15件もの発表が集まりました。9月10日(金)、9:30から17:00まで(!)まる一日かけて、 オンラインで「日語の夏フェス」を開催しました。

当日のポスターとプログラムは以下。魅力的な発表タイトルが並んでいるでしょう? (^^)


個人発表、ゼミ内でのグループ発表、異なるゼミでの共同研究など、多彩な発表形態がありました。当日は全教員(9名)と多くの日語の学生が集まり、非常に充実した合同ゼミとなりました。

以下、当日の発表について、スライドの表紙とともに、少しずつ紹介してみたいと思います。


1. 「日本語学習者によるフィラーとオノマトペ」

『多言語母語の日本語学習者横断コーパス』(I-JAS)を使って、日本語学習者によるフィラーとオノマトペの使用状況を、日本語母語話者と比較した研究です。発表冒頭、聴衆を指名してインタビューをし、自然なフィラーの例を引き出すなど、楽しい工夫が見られました。学習者の習熟度によってフィラー・オノマトペの使用状況が変わるかを調べることが、今後の課題として挙げられました。


2.「王ゼミの紹介(文学部)」

生田キャンパスの文学部で展開されている王伸子ゼミナール(3年生以上)の活動を紹介してくれました。音声グループ・日本語教育グループ・対照言語学グループに分かれて実施しているゼミで、各グループでの活動に関して報告がありました。Audacity、Praat、ELANなど、さまざまなツールの紹介もありました。


3.「合成音声による読み上げとヒトによる読み上げの違い」

プロのナレーター・アナウンサーによる読み上げ音声と、合成音声による読み上げ音声を比較し、文間のポーズ、ピッチの変化、母音長などを分析した研究です。感情豊かなヒトの音声に比べて、合成音声には「感情がなく、無機質なイメージ」があることが確かめられました。現在の音声合成技術では、ヒトの豊かな感情を音声で表現することは難しいのが現状です。その実現には、どのようなパラメタを準備して音声を調整すればよいかの研究が必要だろう、などの議論が交わされました。


4.「比較表現の使い分けについて」

「A より・よか・よりかは・よりは・よりも・よりか B」という構文で出てくる「比較表現」について、『日本語話し言葉コーパス』(CSJ)、『日本語日常会話コーパス』(CEJC)での出現状況を調査し、その量的な分布について論じた研究です。また、例えば「赤 よりは・よりも 白が良いな」のような例文を豊富に挙げ、比較表現を構成する各形式が表す意味や語用論的な効果についても論じました。定性的分析・定量的分析という二つの側面を兼ね備えた発表でした。


5.「日英のタイトルの訳し方の違いについて」

「邦画のタイトルの英訳」および「洋画のタイトルの邦訳」の例を収集し、その訳し方にどのようなタイプが見られるかを探った研究です。「魔女の宅急便」→「Kiki's Delivery Service」、「Up」→「カールじいさんの空飛ぶ家」など、邦題←→英題 の対応を取ってみると、確かにさまざまなパタンが認められます。データの数を増やすこと、本や音楽などほかのメディアにも目を向けること、時代による違いを見てみること、などが課題として挙げられました。


6.「現代日本語の動詞述語文の用法調査」

高橋太郎他(2005)『日本語の文法』に挙げられていた、主語の形(~φ、~が、~は)と述語の品詞の対応関係、およびそれらが表す意味(運動・状態・特性)を、『現代日本語書き言葉均衡コーパス』(BCCWJ)を使って検証した研究です。「記述文法書における記述項目をコーパスで検証する」という研究の実践例として、とても意欲的な試みでした。


7.「日本文化としての居合道」

斎藤達哉先生による、居合道の実演(!)を交えたお話でした。「日本語学科で学んだ皆さんが海外に出たときに、現代の日本文化だけでなく、伝統に根差した日本文化についても、紹介できるようになってほしい」という目的が掲げられていました。専修大学体育会居合道部の演武の動画も披露され、さらに国際交流基金でベトナムに赴任している久和野崇司先生も現地から登場してくださいました。「反りが合わない」「元の鞘に収まる」「切羽つまる」「焼きを入れる」など、日本語表現の学修への発展可能性についても言及されていました。


8.「王ゼミの紹介(国際コミュニケーション学部)」

神田キャンパスの国際コミュニケーション学部で展開されている王伸子ゼミナール(2年生)のみなさんが、日ごろのゼミ活動を紹介してくれました。AudacityやPraatによる音声の録音と分析のデモ、日本語母語話者と中国語母語話者が促音(「ラッコ」「ほっぺた」など)を発音する際の持続時間の比較、stand.fm で音声を配信 している活動など、盛りだくさんの内容でした。


9.「日韓の映像作品における婉曲表現」

日本語・韓国語のドラマ・映画・アニメなどを対象として、「ごまかす」「遠回しに言う」「礼儀正しく話す」「気取って話す」などで特徴づけられる「婉曲表現」がどのくらい現れるかを調査した研究です。婉曲表現の出現数、表現の差、話し手と聞き手の関係性などを総合し、どのような状況で婉曲表現が使われているかをまとめました。


10.「ホラー映画を集めて最恐のキャッチコピーを作ろうとしている件について【仮】」

1410作品のホラー映画を対象に、ポスター上に書かれたキャッチコピーを集め、その言語表現を分析した研究です。「決してドアを開けてはならない」を「脅迫系」と分類するなど、合計5通りのタイプが設定されていました。最終的には、「実際にありそうなホラー映画のポスター」を作成するのが目的とのこと。発表では、スライドの中にホラーな仕掛けが満載で、聞いていて背筋が寒くなるような(褒め言葉)発表でした。うふ。うふふ。


11.「日本文化としての相撲」

斎藤先生の「居合道」に続いて、大学院生の戸田隼介さんから「日本文化としての相撲」と題した発表がありました。専修大学の相撲部に所属していた戸田さん、カナダやミャンマーで開催した相撲ワークショップの経験をもとに、相撲の歴史、力士や行司の階級、ちゃんこの由来など、知っているようで知らない情報を丁寧に教えてくれました。「揚げ足を取る」「待ったなし」「胸を借りる」など、相撲に由来する日本語表現についても紹介してくれました。


12.「文末表現を分析しますです」

「求められますですね」「思いましたです」「救いだったですね」のように、一見すると不自然に感じられる文末表現を、話し言葉コーパスをもとに分析する研究です。『日本語話し言葉コーパス』(CSJ)、『昭和話し言葉コーパス』(SSC)という2種類のコーパスを使って実例を収集し、その音声を聞かせてくれました。フロアからは、「私も無意識のうちに言ってる気がする」「話者の出身地と関連があるのではないか」「体育会系では『食べたっす』のような言い方をする」などのコメントが出されました。


13.「日本語の表記への印象について」

ひらがな・カタカナ・漢字という異なる表記が読み手に与える印象と、その共通性・規則性を実験的に探ろうとする研究です。『現代日本語書き言葉均衡コーパス』(BCCWJ)から刺激文を抽出し、「かばん・きゅうり・ごま・ねこ」の4語×3通りの表記を空欄に当てはめさせる実験を実施したところ、文体・表記意識・文字構成比・語のイメージ・関連語の有無、という5つの条件から表記の選好性が分類できるという結論を得ました。


14.「『しますか?』をどのように発音しますか?」

「~しますか?」という文末表現の発話意図を「疑問・提案・確認・申し出・依頼」と分類した上で、イントネーションの型との対応を分析した研究です。『日本語日常会話コーパス』(CEJC)から「~しますか?」の例を収集し、発話意図およびイントネーションの型(上昇・平板・下降)をアノテーション(付与)して、両者を対応付けたところ、上昇調は「疑問」と、下降調は「提案・疑問」と、それぞれ強く結びつくことが明らかになりました。三枝ゼミ・丸山ゼミ所属の学生2名による、共同研究でした。


15.「小田原市変体仮名マップの試み」

斎藤ゼミで進めている「変体仮名マップ プロジェクト」、今年度は小田原市を対象に、『モヤっと小田原歴史文字探検』という名称で計画を進めています。小田原の街中で見られる「歴史文字」を収集し、一般に公開していこうとするこのプロジェクト、「実際の街中に出ていく日本語研究」という点で、とても重要な試みだと思います。


朝から夕方まで続いた15件の発表に対して、最後に教員による総括がありました。「夏フェスという名にふさわしく、楽しい時間で、あっという間だった」「専大日語が多様な研究領域をカバーしていることが改めてよく分かった」「次回もぜひ学生と一緒に参加したい」などの意見が出ました。

また、終了後、参加者のみなさんにアンケートを実施したところ、「先輩たちの発表がすごく勉強になりました」「卒論へのモチベーションが上がった」「発表のテクニック、研究テーマの選び方や分析の進め方、ツールの利用法など、とても勉強になりました」「定期的にこのような機会があると、学びに対する意識もより一層深まるのではないか」「今度は先生方のガチの研究発表も見てみたいなー」などの意見が聞かれました。

以上、「専大日語の夏フェス 2021」の開催報告でした。参加した学生・院生・教員のみなさん、長時間おつかれさまでした。実に楽しい企画だったので、ぜひまたやりましょう。当日は参加できなかった専大日語のみなさん、次回はぜひご参加ください!

丸山岳彦

バックナンバー

バックナンバーのページ へどうぞ。

トップに戻る