専修大学国際コミュニケーション学部日本語学科

専大日語・コラム

専大日語の教員による、月替わりのコラムです。

2022年1月:年賀状の宛名の「文字」

「今では1年に1回年賀状のやりとりだけの付き合いになってしまった」という表現があります。若年層では年賀状をやりとりする習慣が衰退している(メールやSNSにとってかわられている)と言われていますが、年齢が高い世代では人とのつながる重要なツールとして認識されています。

今回のコラムでは、年賀状の宛名で使われる文字の書体について取り上げてみたいと思います。

1998~2019年までに私が頂戴した年賀状の宛名の文字について調査してみました。どういうわけか2007~2014年の年賀状は見当たらず、ここ数年は寒中見舞いなどにせざるを得ませんでした。下に示すグラフでは、毎年の経年調査のように見えますが、断絶がありますのでご注意ください。

まず、宛名の表記を「手書き」しているか、「印字」しているかの割合を示したのが図1の棒グラフです。

1998、1999年は「手書き」が90%を超えていました。以降、2006年にかけて「印字」の割合が増えていきます。それでも2006年の時点で「手書き」は半数を割ることはありませんでした。しかし、2015~2019年を見ると、2017年で「手書き」の方が多かったものの、「印字」の方が半数を超える傾向が読み取れます。

次に、「印字」された宛名のフォントについて調べてみましょう。

ここでは、フォントを筆字由来のものと、活字由来のものとに分けて比べてみます。あくまで便宜的なのですが、ここでは、行書体、楷書体、隷書体、宋朝体といった毛筆で書かれた文字に基づくフォントを「筆字由来」のフォント呼び、明朝体、ゴチック体といった印刷活字用にデザインされたフォントを「活字由来」のフォントと呼ぶことにします。

図2の折れ線グラフで実数(年賀状の枚数)の推移を見ると、1998~2006年も2015~2019年も一貫して「筆字由来」のフォントの方が多いという状況が読み取れます。2002年までは「筆字由来」の方がやや多い程度でしたが、2003年以降「筆字由来」のフォントが増えてきていることが読み取れます。

年賀状の宛名は印字が主流になっても、手書き風あるいは毛筆風が好まれていることが分かります。印刷物でよく見かける明朝体・ゴチック体で宛名を印字すると、事務的で無味乾燥な印象を受けてしまいます。しかし、行書体・楷書体を使って毛筆に近付けることで、そうした感覚を和らげることができそうです。同じ文字であっても見た目を変えることで、伝わるものが変わるのです。

一方で、新春名刺広告(新聞に掲載される名刺)では、従来最多だった毛筆表記が減っていき、明朝体表記が主流になってきたという研究もあります。年賀状とは別の傾向として注目されます。

いずれにしても、文字・表記の研究者にとって、正月は色々と考えさせられる時期なのです。

斎藤達哉


<参考文献>
  1. 備前徹(2018)「日常生活環境における毛筆文字分布について ―言語景観としての新春名刺広告―」『専修国文』103, pp.1-23. [link]

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