専修大学文学部日本語学科

専大日語・コラム

専大日語の教員による、月替わりのコラムです。

2021年1月:2020年度のオンライン授業を振り返る

みなさん、明けましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願いします。

今月の専大日語コラムは、少し趣向を変えて、2020年度のオンライン授業を振り返ってみたいと思います。私が実施したオンライン授業の実践報告をしながら、その長所・短所について考えてみることにします。

実践報告:2020年度のオンライン授業

昨年は新型コロナウイルス感染症の影響で、私たちの生活も、大学での授業も、大きな影響を受けました。2020年5月に私が書いた 前回のコラムでは、最後に以下のように述べました。

さて、もうすぐ授業が始まりますね。専大では前例のない「オンライン授業」。現在、教職員が一丸となってその準備を進めています。 みなさんと一緒に授業が始められる日を、心待ちにしています。それまで、どうぞ健康でいてください。

5月11日から始まった専修大学での前期授業は、大半がオンラインでの実施となりました。私が担当した授業では、講義科目(「日本語の語彙・意味」など)や演習科目(「日本語情報処理」など)は、Google Classroom で講義音声と授業資料を配信し、受講者にはそれを視聴しながら課題に取り組んでもらう「オンデマンド方式」で実施しました。一方、ゼミナールや大学院での授業は、Google MeetやZoomによる「ライブ方式」としました。

オンデマンド式授業では、一つの講義音声は10~15分程度とし、その内容に関する課題に取り組んでもらって、課題を提出したら次の講義音声+課題に移り、全体が90分程度で終わる、という構成にしました。科目によっては、たまにライブ方式の授業を取り入れ、グループワークで議論をしたり、PowerPoint で発表したりする活動を取り入れました。

一方、ライブ方式の授業では、グループワークを中心として、学生同士が話せる機会をできるだけ多く設けるようにしました。授業の冒頭には「雑談タイム」を必ず入れるようにして、オンライン授業では絶対的に不足してしまう「学生同士の雑談」の時間を確保しました。特に1年生は、4月の入学以来、キャンパスには通えず、休み時間に友人を作ったりサークルに参加したりすることもできない状態だったので、「雑談」の時間をできるだけ多く取るようにしました(もちろん、授業に差し支えない範囲で、です)。

オンライン授業の実施と評価

私がオンデマンド授業で採用した、「講義音声を10~15分程度に区切って、課題に取り組んでもらい、それを繰り返す」という方式は、幸いにも受講者に好評だったようです。以下のような感想を、数多くいただきました。

・いっぺんに長時間見るよりも、項目ずつに分かれて短時間で何回も見る方が気持ち的にも集中力が保てました。
・オンライン授業で一方的に説明を受けて課題を提出する授業が多い中で、自分で悩んで例文を考える作業がとても新鮮でした。

(これは対面授業であっても言えることですが、)講義形式の授業でも、教員が一方的に話をするのではなく、要所要所でチェック問題を出しながら、段階的に知識の定着を図っていくことが重要、ということでしょう。特に今回は(時として気が散りがちな)自宅で受講してもらうわけですから、いかに集中力を切らさずに受講してもらうか、という工夫が非常に重要だったと思います。

それと同時に、「いかに気を抜いてもらうか」という点も重要だと考えました。逆説的に聞こえるかもしれませんが、オンライン授業では、一日中パソコンやタブレット、スマホなどを凝視しているわけですから、集中力が続かなくなるのは当たり前です。授業の中で「集中 → 休憩 → 集中 → 休憩」というサイクルを作り、緩急のある授業構成になるよう工夫しました。課題の提出期限はその日の23:59とし、じっくり取り組んでもらえる余裕を確保するようにしました。

「雑談タイム」については、1年生から以下のような感想が寄せられました。

・雑談タイムがありがたかったです。自分のクラスの人達がどんな人達なのか、他の授業で知ることができず、この授業がなかったら、同じクラスの人と交流ほぼなしで終わっていたと思います。同じ大学の同級生と話すことが出来て面白かったです。面白かったと同時に先生に感謝しかないです。ありがとうございます。
「同じ大学の同級生と話すことが出来て面白かった」という感想は、今年度の授業の「異常性」を如実に示しています。オンライン授業がいかに「横のつながり」を作るのに弱いか、ということを表していると言えるでしょう。これについては、後でもう一度述べます。

オンライン授業の短所と長所

授業を提供する側からすると、オンライン授業に移行したことで、対面授業で実施できていたことがうまくできなくなってしまったケースがありました。

例えば、教室での対面授業では、近くに座っている学生にマイクを向けてちょっとしゃべってもらうことができましたが、特に大人数のライブ授業では「マイクをオンにして答える」ことにかなり抵抗があるようで(そのことはよく理解できます)、教室にいる学生たちの声を気軽に拾えていた雰囲気が、オンラインでは非常に作りにくいと感じました。 また、私は Zoom のブレイクアウトルームの機能を使ってグループワークを実施していましたが、知らない相手とオンライン越しに話をすることに抵抗があるのか、ディスカッションが始まらないまま沈黙しているケースが対面授業より多いように感じました。特にビデオカメラをオフにしていると、相手の様子も分からないため、コミュニケーションを取ることが難しくなるようです。

そして、オンライン授業の最大の欠点は、先述の通り、「横のつながり」を作りにくい、という点にあると感じます。対面授業では、教室に来てから授業が始まるまでの時間や、授業が終わった後の時間に、学生たちは自由に話をすることができ、そこで友人関係を築いていたわけですが、オンライン授業では「すぐそこにいる相手に気軽に声をかけられる」という状態が原理的に作れません。ニュースや Twitter などで「オンライン授業ばかりで、友人が作れない」という大学1年生の悩みをよく目にしましたが、これは「同じ場所と(授業以外の)時間を共有する」機会がないことに原因があると言えます。

「雑談タイム」を通じて仲良くなった学生たちもいましたが、やはり少数派のようです。同級生がオンライン越しに「デスマス体」で話をしている様子を見ながら、何か改善する方法はないかと考えていました。例えば、教員が入らない LINE グループを作らせて、授業中に「私語」ができるようにするなど、まだまだ工夫の余地があるように感じます。

一方、オンライン授業ならではの長所もあったように思います。オンデマンド授業の感想を書いてもらった際、私が一番意外だったのは、「何度も講義音声を聞き直せる」と書いてきた学生がかなり多かったことでした。確かに対面授業・ライブ授業では、講義中に聞き逃したところを聞き直すことはできませんから、これはオンデマンド授業のメリットだと言えます。また、それまでに実施したすべての授業音声を聞き直すことができるわけですから(※ 授業によって違うかもしれません)、復習の際にも有効です。「講義音声を聞き直す」という利用法を想定していなかった私としては、なるほどと思わされました。

また、毎回の授業で複数の小課題を提出してもらい、受講者の理解度を細かくチェックしながら授業を進められたことも、メリットの一つでした。大人数のクラスではすべての課題を個別に添削・返信することはせず、提出された課題の中からランダムに回答を抽出し、次回の授業の冒頭で解説する方法も併用していました(これは昨年度までの対面授業でも同様です)。同じ課題に取り組んだ結果をクラスで共有する、というやり方は、受講者同士のつながりを意識させるという点で、オンライン授業では特に有効だったように思います。「他の人がどう考えているのかが分かってよかった」という感想が多く寄せられました。

2021年度に向けて

2020年度のオンライン授業は、大半の教員にとっても初めての経験で、(少なくとも私は)試行錯誤の連続でした。授業の構成・進め方は教員によって違っていたでしょうし、学生たちが戸惑っている声も聞かれました。2020年度のオンライン授業について、学習効果や授業の満足度など、多面的に評価・総括し、次年度以降に改善すべき点を洗い出すことが急務であるように思います。

専修大学長からは、2020年12月18日に出された 「学長伝書鳩」No.10 の「2021年度前期の授業運営について」の中で、「対面授業の割合を拡充する」「高品質なオンライン授業を展開する」という方針が掲げられています。4月以降の授業の進め方は、コロナウイルス感染拡大の状況を見ながら決められるものと思いますが、一教員としては、対面授業であっても、オンライン授業であっても、学生たちにとってよりよい学びの場を提供できるよう、努力していきたいと思います。

丸山岳彦


<参考文献>
  1. 丸山岳彦 (2018) 「アクティブ・ラーニングに基づく「日本語の語彙・意味」の教育」 『専修国文』第103号, 25-42. [link]

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