専修大学文学部日本語学科

専大日語・コラム

専大日語の教員による、月替わりのコラムです。

2017年11月:日本語教育の文法の「テ形」について

「テ形」を例として日本語教育の文法について考える

外国の人に日本語を教える日本語教育では、日本語の母語話者ではない人にも分かるように説明して、実際に使えるように教える必要があります。

日本語教育の文法において特徴的な例として「テ形」を見てみましょう。なお、日本語教育の文法といっても色々な考え方があるので、ここでは国内・国外で広く使われている『みんなの日本語』シリーズの初級レベルの文法を取り上げることにします。

「食べて」「大きくて」「~したくて」のような形は、日本の国語教育の口語文法では、動詞などの活用語の連用形に接続助詞「て」が付いたものとされます。一方、日本語教育では、活用の一つとしての「テ形」とされます。

みんなの日本語の写真です。

日本語を勉強している外国人のイラストです。

このテ形は色々な表現を作る基になるので、初級のレベルでは非常に重要な表現です。『みんなの日本語 初級Ⅰ』の例文によって見てみましょう。まず思い浮かぶのは、「朝、ジョギングをして、シャワーを浴びて、会社へ行きます。」「この部屋は広くて、明るいです。」のような接続の表現でしょう。しかしこれだけでなく、文末の色々な表現を作る基になります。「ちょっと待ってください。」「写真を撮ってもいいですか。」のように依頼をしたり許可を求めたりする表現、「ミラーさんは、今、電話をかけています。」「サントスさんは電子辞書を持っています。」のように継続や状態を表す表現、また、「わたしは木村さんに本を貸してあげました。」「母はわたしにセーターを送ってくれました。」のように恩恵の授受を表す表現などです。

母語話者ではない人がテ形を習得する場合にやっかいなのは、五段活用の動詞に音便があることです。「書き+て」は「書いて」になり、「読み+て」は「読んで」になり、「行き+て」は「行って」になるというように3種の音便があります。一方で、「話し+て」が「話して」になるように音便化しない五段活用の動詞もあります。この音便形を作ることは、母語話者にとってはわけのないことですが、日本語の学習者にとっては、どれがどの音便になるかを覚えなければならず、大きな問題です。

留学生の経験談から

このようにして日本語教育の文法では活用の一部としてテ形を教えますが、実は、日常生活に限っても、これで十分というわけではありません。

私の、特に大学院の授業では、現代語の文法について議論をしている時に、留学生から、以前、日本語を習得している際に考えていた文法と異なることに気が付いたという話が時々出ます。これは第二言語(外国語)の文法の習得の段階が見えるので、私には大変興味深く、話を聞くと記録をしています。

テ形に関しては次のような話がありました。ある留学生が、日本にある日本語学校で大学進学のために学んでいるとき、スーパーマーケットで「サービスカウンターにて承ります」という掲示を見かけたそうです。この「にて」の部分を見た時、この留学生は、印刷のミスか何かでこの部分の日本語が誤ったものになってしまっていると感じたそうです。ここまでお読みになった方は想像がつくと思いますが、活用形として覚えているために、助詞「に」に「て」が付く用法はないはずだと思ってしまったのです。

この留学生はその後、日本語のレベルが上がり、知識も増えたことで、このような用法があることも理解したそうです。日本語教育の段階として考えても、このような古典語の文法形式が現代語の改まった書き言葉の中に残っているものについては、中級以上で読解などと関連して提示されます。

日本語を勉強している外国人のイラストです。

一般的に、教師として教える場合に学習者の状態を理解しておくことは大切なことですが、特に、日本語の母語話者が日本語教育をする場合は、自分が経験したことのない外国語としての日本語の習得がどのようなものかを、できるだけ理解する必要があると言えるでしょう。

高橋雄一

<参考文献>
  1. スリーエーネットワーク編著 (2012) 『みんなの日本語 初級1 第2版』スリーエーネットワーク. [OPAC]
  2. 姫野昌子 (1998) 『ここからはじまる日本語教育』ひつじ書房. [OPAC]

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