専修大学文学部日本語学科

専大日語・コラム

専大日語の教員による、月替わりのコラムです。

2021年3月:新しい時代、「音声」の力

昨年の今頃は、雪のカナダで大学のキャンパスに通い、「日本語教育実習C」の活動に励んでいた日本語学科の学生、大学院生たち・・・新型コロナウィルスの流行が世界を襲い始めた2020年初めのことです。あっというまの1年、今年は「日本語教育実習C」も実施できませんでした。しかし、これまでの日本語学科のブログでも、そして世間でも言われているように、暗いできごともありましたが、まったく新しいコンセプトで世界中が動き始めた1年でもありました。

授業もオンライン、仕事もリモートワークが多くなり、巷の大型電気店にはオンライン配信・受信用の機材や小道具が並ぶようになりました。これまで「?」だった、ZoomやSlackなどなども、今では日常会話の中によく出てくるようになりましたね。そして、しばらく前までは、YouTubeなど、動画配信が中心だった情報発信も、この1年は「音声」による発信が多くなってきたようです。学生のみなさんも、「今日の授業って、Zoom? Meet?」なんていう会話を、LINEを使って、文字や声で情報交換していたのではないでしょうか。

さて、「音声」というのはその守備範囲が広いのですが、その中で私が研究対象にしているのは、言語の音声をどのように発音するのか、それがどのような談話表現に貢献するのか、など、言語としての意味にかかわる弁別要素や非弁別要素の研究です。医学系、工学系では、別の側面から「音声」の研究がおこなわれていますが、「しゃべり」と言われる、コミュニケーションを成立させるための音声、つまりパフォーマンスとしての音声への関心が飛躍的に伸びたのが、コロナ以降の状況だといえるでしょう。

ここ数年、放送局が制作する番組を凌ぐようにアメリカ発のYouTubeや中国発のTikTokが急成長しましたが、そういった番組、動画の撮影がしにくくなったコロナの状況で成長したのが、ラジオ放送局の番組を凌ぐ勢いで伸びてきた音声配信、「音声ブーム」です。今年の1月に日本に上陸してきた、アメリカ発のSNSである Clubhouse(クラブハウス) に、日本発のボイスメディア、VOICY がタッグを組み、24時間、音声配信をしています。その少し前になりますが、昨年、出てきたのが、スタエフなどと言われる stand.fm(スタンドエフエム)で、だれでも気軽に音声配信ができるスマホのアプリです。YouTubeが広告で収益を上げることができるように、このstand.fmも「投げ銭」という機能で、その配信者であるパーソナリティにギフトを送ることができ、収益につながるようです。YouTubeと同様、単なる趣味やおたのしみで配信するだけでなく、マネタイズと言われる、収益につながる配信となります。

みなさん、YouTubeを視聴したことはあると思いますし、動画をアップした経験がある人も少なくないでしょう。音声配信、受信については、どうでしょうか?Clubhouse は、まだ招待制でクローズドなSNSで、誰もが聞けるわけではありませんし、現在のところ、iPhoneなど、iOS の環境でないと聞くことができませんが、stand.fm はアプリをダウンロードすれば、リスナーはもちろん、配信する側にもなれます。また、Clubhouse は生放送ならぬ生配信ですが、stand.fm は生配信も、収録したものを配信することもできます。

こうしたものは音声配信だけではなく、既存の Twitter や Instagram と連動させて、文字や画像でも表現したり、オンライン上でネットワークを作ったりすることができるという仕組みも作られています。どんな音声プラットフォームを使っていますか、という情報交換も、オンライン上で盛んに進んでいます。 これまでのテレビ、動画、新聞などの「視覚」に訴える情報や楽しみから、「聴覚」が再評価され、Spotify や radiko といった強力な音声配信プラットフォームが出現したという背景に支えられ、さらに、誰もが始められるstand.fm や Spoon といったアプリが出てきて、まさに「音声」への流れが、昨年から急激に起こってきています。

私たち大学教員も、理由は違いますが、オンライン授業で収録したものを配信することになり、さらに同時双方向でのオンライン配信も多くなってくるなど、ある意味、「音声」配信に追われた1年でした。日本語学科の教員は、10月から11月にかけて大学院公開講座を担当し、「日本語の音声と文字」をテーマとして4回の講演を配信しました。これと並行して、11月から12月にかけて、「公認日本語教師」をテーマとする日本語教育に関するキャリアガイダンス「来るべき「公認日本語教師」時代に備えて」を6回、配信しました。海外や日本各地からも多くの方に参加していただきました。これ、音声編集してstand.fmなどでも流してみたいですね~♪

stand.fm で配信している「番組」をいくつかあげてみますと・・・

すでに企業などでは、こうしたプラットフォームを媒体として広告を出したり、情報提供をしたりするところも出てきているそうです。教育現場でも、遠からず利用されるでしょう。

こうした配信や受信に必要なもの、持っていると便利なツールがあります。これまで紹介してきたプラットフォームは、スマホ1台あればアクセスできますが、イヤホンやヘッドセット、モニタリングスピーカーなどがあれば、快適に受信できます。また、配信する側としては、よりよい音声を提供することがリスナーを獲得する一つの要素ともなりますので、ちょっとよいマイクや、マイクをコンピュータに接続して信号を安定させるオーディオインターフェースがあれば、最強です。iPhoneにも、iRig というオーディオインターフェースをつなぐことができますので、それにマイクをつなげば、よい音声で配信することができます。

もちろん、何をトピックにするかという企画力も必要ですし、「声」の力も大きな存在ですね。そうした声の力とスキルについては、国際コミュニケーション学部日本語学科の新しい科目「日本語表現論1」で、声のプロフェッショナルであるナレーターの先生がたからたっぷり学び、音声表現の実習をすることもできます。講師であるナレーターの先生がたは、本職のテレビ番組などのナレーションのほか、Clubhouse や Stand.fm で配信している方もいらっしゃいます。

音声配信、受信の機材について興味のある方は、日語の先生方に聞いてくださいね!

もう一つ、この「音声」が注目されてきた流れの一つに「雑談」の力があげられます。「雑」という字が付くからか、マイナスイメージのある「雑談」という語ですが、英語ではsmall talk, ちょっとしたはなし、でしょうか…雑談力ということばも出てきているように、今や、マイナスイメージを持つだけの人は、時代に取り残されてるかも・・・!

言語習得の分野では、この雑談に注目が集まっています。雑談についての研究もさかんです。雑談から語彙や表現が学べ、コミュニケーション能力をつけることができる、という観点からの研究です。話す力だけではなく、言語教育の分野では、「聴く力」に貢献していることも見逃せません。

世間では、ずいぶん前から雑談が注目されていて、「雑談ブーム」と言われています。雑談から広がる知識と人間関係という点が、社会人として注目される点でしょう。逆に言えば、雑談が苦手な人は、コミュニケーションが得意ではなく、人間関係にも戸惑っている人・・・そうした社会における流れもあり、音声のみの LIVE で進められる Clubhouse やstand.fm が注目されるようになったと言えるでしょう。

この4月からは対面授業も増えますが、まだまだ音声配信を主体としたオンライン授業も続きます。授業を配信する教員である私たちも、よりよい配信を目指して工夫していきたいと思いますが、みなさんも、どうぞモニタリングスピーカーを用意するなど、ストレスなく「聴く」ことができる環境作りをしてください。小さな3,000円ほどのスピーカーでも、ぐっと聞きやすくなります。これからは、配信することで精いっぱいだという状況から一歩進んで、どのように組み立てればうまく授業運営できるかということを考えて、私たちも進化したいと思います。リスナーのみなさんのご参加をお待ちしています!!

王伸子


<参考文献>
  1. 八木太亮・江口立哉(2020)『いちばんやさしい音声配信ビジネスの教本』インプレスブックス [link]
  2. 清水崇文(2017)『雑談の正体 ― ぜんぜん“雑”じゃない、大切なコミュニケーションの話』凡人社 [OPAC] / [link]
  3. 西郷英樹・清水崇文(2018)『日本語教師のための 日常会話力がグーンとアップする雑談指導のススメ』凡人社 [link]

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