専修大学文学部日本語学科

専大日語・コラム

専大日語の教員による、月替わりのコラムです。

2020年12月:こういうのも「言語」の変化

2020(令和2)年3月21日、山手線(JR東日本)原宿駅新駅舎の使用が始まりました。今年度はコロナウイルス感染症の影響もあって、1年生の中には原宿と言ってもその場所がまだピンと来ない人もいるかもしれませんね。山手線路線図を載せておきます(クリック・タップで拡大します)。原宿駅は山手線西側の新宿駅と渋谷駅の間にあります。

その原宿駅、旧駅舎は有数の歴史的建造物であり、レトロな雰囲気の建物として人気がありました。こちらのサイトで旧駅舎の姿を見ることができます。


この旧駅舎の写真を見ると、こぢんまりとしたのどかな感じで、一日の乗降客数が70,000人を超える駅(注1)などとはとても思えません。規模の小さな地方都市の、その中でも特に小さな駅といった感じすらします。 旧駅舎のアナログ時計の下あたりには、駅舎の雰囲気に合わせるように「原宿駅」の駅名標が掲げられ(写真1)、新駅舎建設工事中はそれと並んでそのすぐ南側にも駅名標がありました(写真2)。


写真1


写真2

(写真1・写真2とも、2018(平成30)年11月7日 筆者撮影)

都内のJR各駅の駅名標がゴシック体でほぼ統一されている中、このような毛筆体の駅名標が掲げられている駅は珍しいものでした。駅舎のレトロな雰囲気を感じさせるのに一役買っていたと思います。

そこで、今年3月の原宿駅新駅舎使用開始によってこの駅名標はどうなっただろうかと思い、先日見に行きました(写真3)。


写真3(2020(令和2)年11月13日 筆者撮影)

駅舎はそれまでのものとは雰囲気がガラリと変わり、ガラス張りのとても明るい雰囲気で、現代的、都会的、洗練された印象です。都内JR各駅に共通するゴシック体の駅名標もありますが、写真4と写真5の明朝体の駅名標は駅舎に洗練された感じを与えるのに貢献していると感じます。


写真4


写真5

(写真4・写真5とも、2020(令和2)年11月13日 筆者撮影)

ところで、原宿駅より一足先に、高輪ゲートウェイ駅が山手線30番目の新たな駅として2020年3月14日に開業しています。こちらのほうはどうなのだろうかと、ついでにちょっと足を伸ばしてみました。 高輪ゲートウェイ駅は山手線の東南部に位置します。改札を出て駅舎のあちこちを確認してみましたが、ここの駅名標はすべて明朝体で統一されていました(写真6・写真7)。


写真6


写真7

(写真6・写真7とも、2020(令和2)年11月13日 筆者撮影)

インターネットで調べてみたところ、この駅舎は建築家隈研吾さんの設計によるものだそうです(元記事は こちら)。

国際交流拠点の玄関口として「和」を感じられるデザインとするため、随所に福島県産の杉材等を活用した。
(中略)
JR東日本の首都圏の駅では通常、駅名標にはゴシック系のフォントが使われている。しかし、高輪ゲートウェイ駅では明朝体が採用されているのである。JR東日本によれば、これは「駅舎の和のテイストと調和させたい」という隈氏の意向だという。

「駅舎の和のテイストと調和させ」るために選ばれた明朝体は、ねらいどおりの効果を発揮していると言っていいのではないでしょうか。 都内のJR駅名標の多数派がゴシックであることは今も変わりありませんが、JRは新たな駅舎建設に際して、「明るさ」「洗練された『和』の雰囲気」を重視する方向へと変化を見せ始めているのかもしれません。

「はて、他の業種はどうなのだろう。こういったことも言語変化の一つの兆しとしてとらえていく必要があるだろうなぁ」と思いを巡らせつつ、もっとあちこち歩き回りたい衝動を抑え、夕方の帰宅ラッシュの密を避けて早めに帰路についたのでした。

[付け足し]
原宿駅や高輪ゲートウェイ駅がそうであったとしても、JR青梅線の武蔵五日市駅や奥多摩駅の駅名標はそう簡単には変わらないだろうなぁとも思います。


2019(令和元)年5月11日 筆者撮影


2020(令和2)年9月15日 筆者撮影

[モヒトツ付け足し]
原宿駅の旧駅舎は法定の耐火性能を満たしていないことから、いったん解体されたのち、西洋風のデザインをできる限り再現した形で建て替えられるとのことで、現在は解体作業中でした(写真8)。


写真8(2020(令和2)年11月13日 筆者撮影)

備前徹

バックナンバー

バックナンバーのページへどうぞ。

トップに戻る