専修大学文学部日本語学科

専大日語・コラム

専大日語の教員による、月替わりのコラムです。

2020年11月:私の日本語ボランティア体験記

筆者が参加している日本語ボランティア教室について

私は川崎市麻生区で開かれている日本語ボランティア教室に参加しています。2011年に専修大生の見学をお願いしたのがきっかけですので、もう10年目になりました。日本語教育に興味がある学生に、日本語ボランティアへの参加を勧めることもありますので、今回は私の日本語ボランティア体験について書こうと思います。

ここでは、具体的なグループ名を挙げることはせず、川崎市で開かれている日本語ボランティア教室の全般をご紹介することにします。川崎市教育委員会では、「川崎市で日本語を勉強できるところ」という外国人市民向けガイドを、ウェブ上で公開しています。川崎市には、各区の「市民館」が主催する日本語ボランティア教室があり、さらにそこから派生した日本語ボランティア教室があります。私は最初、専修大学生田キャンパスがある多摩区と、その隣の麻生区の日本語ボランティア教室に、日本語学科の授業の一環として学生を見学に連れて行っていました。その後、そのうちの一つにボランティアとして参加するようになりました。私はあくまでボランティアの一員として、参加できる時に参加するという立場で活動をしています。


今でも、専修大の学生で見学をしたいという人がいればお誘いしていますが、日本語ボランティアの活動を始めたいという方には、まずご自分が生活している地域のボランティア教室を調べてみることをお勧めしています。これは、できるだけ継続して参加できるようにするためです。これまでの経験上、大学生の皆さんは色々と忙しく、学年が進むにつれて生活の変化もありますので、ボランティア活動を長く続けることは難しいように思います。でも、せめて生活圏内にあるところなら比較的長続きするのではないかと思います。現在は日本各地に様々な日本語ボランティア教室がありますので、皆さんも自分が生活している地域の日本語ボランティアについて調べてみてください。

地域日本語教育について

ここで、「日本語ボランティア」とはどのようなものかについて改めて見ておきましょう。近年、日本の在留外国人が増えるにつれて、市民によるボランティアでの日本語教育活動が行われるようになってきました。こういった活動は、「地域日本語教育」「地域日本語学習支援」等の名称で呼ばれていますが、「教育」や「学習支援」という言葉を避けて「地域日本語活動」とする立場もあります。(西口 2008)


こういった活動では、日本で生活する外国人に、生活に必要な日本語を身に着けてもらうことが目標になります。一つの目安として、文化庁が公開している「「生活者としての外国人」に対する日本語教育」のカリキュラム案やガイドブックなどが参考になるでしょう。しかし、「生活に必要な日本語」とはどの程度のものなのかという問題もあります。例えば上に挙げた西口(2008)は、ヨーロッパにおける同様のシラバスでは、社会人として普通に話す各種の話題についての言語能力が重要な要素として位置づけられていることから、「地域日本語教室に参加する外国人が教室に期待しているのは、生活上の実用のために必要な日本語ではなく、実用的には必要ではない「おしゃべり日本語」である可能性がある」と述べています。そのような対話中心の活動をどのように行うかについては、御舘他(2010)が参考になると思います。

サポーターとゲスト

さらに実際の活動に関することを見ていきましょう。私の参加しているグループでは、日本語ボランティア活動をする側を「サポーター」、日本語の習得をする側を「ゲスト」と呼んでいます。これは、「教師」と「学生」という関係ではないためです。本当は「ボランティア教室」の「教室」についてももっと適切な言葉があるといいのですが、これは適切なものがなかったので「教室」のままです。

ゲストとの活動は、実際には上に書いたような対話だけではありません。ゲストの中には、日本語能力試験などの目標を立てて勉強している人もいます。初級レベルの人で、まず総合教科書で基礎を学んだほうがいい場合には、日本語ボランティア用に作成された『いっぽ にほんご さんぽ 初級』などを使用します。こういった対応のし方については、私の参加しているグループでは、ゲストのニーズに合わせた活動をする方針をとっています。


また、日本語ボランティアの活動は、多くの人でまとまって行うか、少人数で個々に行うかといった選択肢があります。私が参加しているグループでは、ゲストとサポーターが1対1か2対1ぐらいで個々に活動しているのですが、ある時期から、まず最初に全員での活動を短時間行ってから個々の活動に分かれる形になりました。ゲスト同士の交流もできますし、また、ゲストが集まる時間にばらつきがあり、時間調整をする必要があったためでもあります。個々の活動をした後は、サポーター同士で活動報告を共有するのですが、どのような形で情報を共有するかについては、これまで色々な方法を試みました。

2020年の新型コロナ感染症対策について

2020年は日本語ボランティア教室にとっても特別な対応を迫られる年になりました。新型コロナ感染症の感染拡大に際して、1月、2月は活動を続けるかどうかについてサポーターの間で議論が続きました。2月下旬には活動を休止したのですが、同時に、オンラインで活動ができないかという提案があり、色々な方法を検討した結果、4月からコミュニケーションアプリのLINEを使用したオンラインクラスを始めました。サポーターもゲストもLINEでのビデオ通話ができるようになる必要がありましたが、グループでのビデオ通話をしてからそれぞれ個別のビデオ通話へと移るという一連の流れができるようになると、オンラインの便利な面も実感するようになり、これはこれでいいと感じるようになりました。一方で、接続の状態が悪ければ活動が十分に成り立たず、他のWeb会議システムを使いたいゲストもいました。教材についても、すべてオンラインで手軽に共有ができるわけでもありません。


10月からは、オンラインクラスと並行して、対面の活動を人数を制限して始めました。今後、時間はかかるでしょうが、徐々に元の状態に戻っていくと思います。考えてみると、今年、このように柔軟に活動を継続できたのは、私の参加しているグループのサポーター方々がそれぞれ提案をしたり、実行したりすることができたからです。もちろんこれは、これまでの活動でもそうでした。さまざまな背景を持った人が参加して教室を運営し、さまざまなゲストと出会い、活動をするというのは、仕事とも趣味とも異なる独特の経験です。そもそもボランティアとは何か、今の日本社会でボランティアをすることをめぐりどのような議論があるかについては、岩波ブックレットに猪瀬(2020)があるので、ご紹介しておきます。

高橋雄一


<参考文献>
  1. 川崎市教育委員会ウェブページ「川崎市で日本語を勉強できるところ」[link]
  2. 西口光一(2008)「市民による日本語習得支援を考える」『日本語教育』138号 日本語教育学会. [OPAC]
  3. 文化庁ウェブページ「生活者としての外国人」に対する日本語教育の内容・方法の充実 (カリキュラム案,ガイドブック,教材例集,日本語能力評価,指導力評価,ハンドブック)」 [link]
  4. 御舘久里恵・吉田聖子・中河和子・仙田武司・米勢治子(2010)『外国人と対話しよう! にほんごボランティア手帖』スリーエーネットワーク. [OPAC]
  5. 宿谷和子・天坊千明 2010-18 『いっぽ にほんご さんぽ 初級1~3』スリーエーネットワーク [link]
  6. 猪瀬浩平(2020)『ボランティアってなんだっけ?』岩波書店. [OPAC]

バックナンバー

バックナンバーのページへどうぞ。

トップに戻る