専修大学文学部日本語学科

専大日語・コラム

専大日語の教員による、月替わりのコラムです。

2020年6月:ことばの性差って何かしら。ちゃんと考えなきゃ。

以前,以下のような調査をしたことがあります。

関西出身と首都圏出身の日本人大学生を対象に行った,日本語の表現への“違和感”を尋ねるアンケート調査です。日本語教育で用いられる教科書を基に調査文を準備し,男性の友人/女性の友人に言われた場合の評価を4段階(①全く違和感がない、②ほとんど違和感がない、③少し違和感がある、④とても違和感がある)で尋ねました。

調査文は全部で20文。その一部を挙げます。

(1)○○さん,あした来るかしら。
(2)明日? ちょっときついっすね。
(3)早く帰ってテスト勉強しなきゃ。
(4)あ、電車に傘忘れちゃったよ。
(5)新幹線、いったいいつになったら、来るの?
(6)明日,休講になるかもね。

女性語や男性語の典型とされるような(1)「~かしら」や(2)「~っす」などの役割語(→ 2018年12月のコラムを参照)もありますね。これらの評価の結果は,予想通り。(1)を男性の友人が言うと違和感がある / (2)を女性の友人が言うと違和感がある,という結果でした。

このコラムを読んでいるあなた,(3)~(6)を男性の友人 / 女性の友人が言ったときに,違和感がありますか?

首都圏出身大学生の結果は,(3)~(6)を男性の友人 / 女性の友人のどちらが言おうが違和感なしという結果でした。 一方で,関西出身の大学生の場合,女性の友人が言うと違和感はないけれど,男性の友人が言うと違和感があるという回答が優勢になります。(3)~(6)の文では(3)が最も違和感ありとされました。

(3)~(6)での“違和感”の原因は,調査の結果,(3)「~しなきゃ」「~ちゃった」のような縮約形の使用や,「~の?」「~ね。」といった文末詞の使用にあることが分かりました。これらを男性が使うことに違和感を持つようです。 私は関西の大学で社会言語学の授業を受け持ったことがあり,おそらく(3)~(6)のような表現も使っていたと思うのですが,学生は違和感を持っていたのだろうか…。

さて,この結果は何を意味するのでしょうか。 役割語とは考えられていない表現についても性差に関する評価があること,さらに,その評価には地域差があることを示していると考えてよいでしょう。

しかし,思い出してください。この調査で使用した文は,(多少のアレンジはしてありますが)日本語教育の教科書を基にしているのです。もちろん,その教科書は日本の各地で使用されています。

以上のことから,今後,2つのことを考えていかなければいけないと思っています。 1つは,性差の評価にはどのような地域差があるのかということ(またそれは,国語教育や日本語教育とどのように関わってくるのかということ)。 もう1つは,自分の評価が必ずしも一般的ではないかもしれないということ(また,そもそも性差評価とはいったい何なのかということ)。

どう考えたらいいかしら。大事なことだもん,みんなで考えなきゃね。

阿部貴人


<参考文献>
  1. 阿部美恵子・阿部貴人(2011)「会話テキストに見られる文末表現とその性差評価~関西出身の大学生へのアンケート調査から~」『異文化コミュニケーションのための日本語教育』2011世界日本語教育大会 pp.739-740.
  2. 鈴木睦(2007)「言葉の男女差と日本語教育」『日本語教育』134号, 日本語教育学会 pp.48-57.

バックナンバー

バックナンバーのページへどうぞ。

トップに戻る