専修大学文学部日本語学科

専大日語・コラム

専大日語の教員による、月替わりのコラムです。

2020年3月:音楽大学における日本語教育について

昭和音楽大学との関係について

私は、2017年度から2019年度までの3年間、川崎市麻生区にある昭和音楽大学で、非常勤講師として外国人留学生向けの日本語の授業を担当しました。2019年度には、専修大学の日本語学科の学生が、日本語教育実習Aの実習先の一つとして昭和音楽大学の日本語オープンクラスに参加したので、今回、コラムの話題として取り上げることにしました。

昭和音楽大学には、学部・短大・大学院の本科生や研究生として、中国を中心とした海外からの外国人留学生が多く在籍しています。ここでは、昭和音楽大学の雰囲気や、様々な専門があることが分かる大学紹介の動画をご紹介します。動画の後のクレジットには、最後に作曲/アレンジとして留学生の王茂盛さんのお名前が出ます。


「昭和音楽大学~Welcome to Showa University of Music~」

昭和音楽大学の日本語オープンクラスへの参加について

昭和音楽大学の外国人留学生向けの日本語の授業では、留学生と日本人学生の交流活動を行っています。2019年の秋には、「日本語オープンクラス」を開催し、いくつかの日本語の授業に日本人学生にも参加してもらいました。

一方、専修大学の日本語学科の授業「日本語教育実習A」では、授業の一環として、学内・学外の日本語授業等で見学や授業内での活動を行いました。その学外の実習先の一つとして、昭和音楽大学で私が受け持つ中級の授業の日本語オープンクラスに参加してもらいました。このため、参加した専修大生は、昭和音大の留学生だけでなく、日本人学生とも交流をすることになりました。

参加者がそれぞれ自己紹介をする際に、昭和音大生が自分の専門について「指揮です」「サックスです」などと言うと、専修大生は「すごい!」「かっこいい!」と反応しますが、「アートマネージメントです」と言うと、「??」です。これは仕方ありませんね。アートマネージメントについてはその都度、専門の学生に説明してもらいました。ここでは、東京藝術大学や昭和音楽大学の教授でいらした根木昭先生の御著書から「アートマネージメント」の定義を引用しておきます。

アートマネージメントは、狭義には、文化芸術活動の主体(文化芸術団体、文化芸術施設等)が行う文化芸術活動の管理運営(=経営)を指す。また、広義には、文化芸術活動の主体とこれを受容する社会及びこれを支える資本の間の連携・接続の機能全般として把握される。(根木(2010:序章)による)

このように様々な専門があるので、留学生に必要とされる日本語能力も様々です。日本語で大学の授業を受けたり、実技のレッスンを受けたりする他に、人によっては、大学院で研究するための日本語能力が必要な場合もあります。

日本語オープンクラスの内容

私の授業での「日本語オープンクラス」は、2つの内容がありました。まず、会話です。留学生と日本人学生で3~4名のグループを作り、組み合わせを何回か変えて行いました。留学生には、あらかじめ授業で会話のテーマをいくつか考えてもらいました。例えば、「日本と留学生の国の違い(例:食べ物、おみやげ、気候・天気など)」「日本と留学生の国の若者の流行(例:音楽、ファッションなど)」といったテーマは、実際に話をしやすかったようです。「クリスマスやお正月の過ごし方」というテーマも、中国人の留学生が春節の年越しの様子を紹介したり、日本人の学生が、せっかくのクリスマスなのに自分はアルバイトで…といった話をしたりと、色々と話題が広がったようでした。

この他、「日本語オープンクラス」の趣旨に直接関わるテーマとして、「留学生が日本人の友達を作るにはどうしたらいいか」というものがありました。音楽が専門の学生は、練習やレッスンなどに時間が必要なので、他のことのための時間を作るのが難しいようです。留学生には、人にもよりますが、日本人の友達が少なく、日本語で会話をする機会がなかなかないという人もいますので、このテーマは切実な問題として話し合うことができたようでした。一方で、そのような音楽大学の学生らしいと思ったのは、「生活と音楽の関係」というテーマでした。これは専修大生の参加が終わった後の回に追加したテーマで、昭和音大生同士での会話のテーマでした。

また、もう一つの「日本語オープンクラス」の内容は、「学習ストラテジー」をテーマにしたものでした。専修大学の私の授業「第二言語習得研究」の内容に基づいて、レベッカ・オックスフォード(Rebecca L. Oxford)による学習ストラテジー・システムの図(白井(2008)による引用をもとにした)を参考に、外国語を学習する際に、学習がうまくいくように、どのようなことをしているかについて話し合ってもらいました。

Oxford(1990)による学習ストラテジーの分類(白井(2008) p.178による)

学習ストラテジーは「直接的ストラテジー」と「間接的ストラテジー」に分かれますが、特に使う人が多かったストラテジーに、「直接的ストラテジー」に含まれる「記憶ストラテジー」(語呂合わせ、類義語をまとめて覚える、など)や「認知ストラテジー」(習った項目を整理するなど)、また、「間接的ストラテジー」に含まれる「メタ認知ストラテジー」(学習を計画したり、評価したりする)がありました。一方、使う人が少なかったストラテジーとしては、「間接的ストラテジー」に含まれる「情意ストラテジー」(不安や緊張などの感情をコントロールする)がありました。この回は、専修大生も昭和音大生も留学生のみだったので、海外に積極的に留学するような人は、不安や緊張が問題にならないのかな?という印象を受けましたが、これは一概には言えないでしょう。

このようにとても興味深い昭和音楽大学の日本語の授業ですが、残念ながら、私は専修大の仕事が忙しくなってしまったために、2019年度までとなってしまいました。しかし、今後も私は昭和音楽大学に興味を持ち続けていきたいと思いますし、何か機会があれば、また交流もしたいと思っています。

高橋雄一


<参考文献>
  1. 根木昭 (2010)『文化政策学入門』水曜社. [OPAC]
  2. Rebecca L. Oxford. 1990. Language Learning Strategies. New York : Newbury House Publishers(レベッカ L. オックスフォード(著) 宍戸通庸・伴 紀子(訳)(1994)『言語学習ストラテジー』凡人社) [OPAC]
  3. 白井恭弘 (2008)『外国語学習の科学: 第二言語習得論とは何か』 岩波書店. [OPAC]

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