専修大学文学部日本語学科

専大日語・コラム

専大日語の教員による、月替わりのコラムです。

2019年8月:社会言語学には「ことば」以外のデータも必要です

日本語に関わりのある統計資料としてすぐに思い付くのは、文化庁が毎年行っている「国語に関する世論調査」ですね。

このサイトには平成7年度からの調査結果が公表されているので、資料を見たりダウンロードしたりした人も多いのではないかと思います。でも、言語行動に関わるデータは他の省庁などからもさまざまな興味深いものが公表されています。

ただ、それらの資料は、多くの場合、集計結果の数字がズラズラと並ぶ冊子なので、見ていくのにかなり骨が折れます。どこかに何か集計結果が見やすく整理されたサイトはないものかと思っていたら、ありました。「都道府県別統計とランキングで見る県民性」というサイトです。官公庁などから公表されたさまざまなデータをもとに、都道府県別データが地図と表で見られるようになっているのですが、その数がすごい。1000以上の項目に及んでいます。

また、このサイトからの引用であることを明示すれば自由に使って構わないとのことですし、表の中の数値はワンクリックで昇順と降順が入れ換えられるなど、使い勝手もとてもいいように思えます。

そこで、今回はこのサイトの中から、言語行動に関わりのあるものとして、図書館関連のデータの一部を紹介します。

以下のリンクは、文部科学省の社会教育調査による、学校の図書館以外の公営、民営の図書館をカウントしたもので、いずれも人口10万人当たりのデータで比較したものです。リンク先をのぞいてみてください。

次の表1の中の「偏差値」は、もともとの「~県民性」のサイトに掲載されている数字ですが、それも含めて、それぞれの項目の上位下位各5都道府県分を抜き出して、表1として併記してみました。

表1 図書館関連のデータ(カッコ内は列ごとの偏差値)
図書館数図書館蔵書数図書館利用者数図書館貸出冊数
第1位山梨県 (78.81)福井県 (81.25)東京都 (89.44)東京都 (74.04)
第2位富山県 (69.77)滋賀県 (78.28)山口県 (63.84)滋賀県 (73.91)
第3位高知県 (69.44)鳥取県 (72.13)福井県 (63.77)山口県 (64.26)
第4位長野県 (68.91)山梨県 (71.35)大阪府 (62.79)福井県 (63.79)
第5位鳥取県 (67.20)徳島県 (62.02)静岡県 (60.85)大阪府 (63.23)
第43位兵庫県 (38.98)熊本県 (39.58)青森県 (37.51)熊本県 (36.75)
第44位大阪府 (36.88)兵庫県 (39.57)秋田県 (35.59)宮崎県 (35.69)
第45位宮城県 (35.28)京都府 (38.42)宮崎県 (35.41)福島県 (35.12)
第46位愛知県 (33.54)宮城県 (37.42)熊本県 (35.20)青森県 (32.42)
第47位神奈川県 (30.23)神奈川県 (32.03)北海道 (32.91)秋田県 (31.11)

図1は「図書館数」、図2は「図書館蔵書数」の地図を上記サイトからそのまま引用したものです。

図書館数 [ 2015年第一位 山梨県 ]
図1 「図書館数」

図書館蔵書数 [ 2014年第一位 福井県 ]
図2 「図書館蔵書数」

表1の偏差値から、「図書館数」は山梨県が、「図書館蔵書数」では福井県と滋賀県が、それぞれ突出していることがわかります。また、神奈川県、宮城県、兵庫県あたりはどちらも低順位となっています。

図書館の数が多ければそれだけ蔵書数も増えるでしょうから、図1と図2には関係があることが推測できます。また、両図からは、都心より地方のほうが順位が高いという印象を受けます。

一方、表1の右半分、利用状況を示す「図書館利用者数」「図書館貸出冊数」では、東京都が「図書館利用者数」で突出しており、大阪府は「図書館利用者数」「図書館貸出冊数」ともに上位、「図書館貸出冊数」では滋賀県が上位に位置しています。

このような状況を示す背後にはいろいろな要因が複雑に絡み合っているのだろうと思います。この辺のところを探っていく謎解きの面白さが社会言語学の醍醐味ですが、実は上記「~県民性」サイトに解説が掲載されていて、

(図書館数は)通勤時間と負の相関があり、人々が散らばって住み、通勤時間が短い地域で図書館が多い。そのようなところでは、集落ごとに図書館が分散しており、これが図書館の件数を増やしていると考えられそうだ。(元記事

(図書館利用者数は)農業就業人口と負の相関があり、農業就業人口が少ない都市部で図書館利用者が多い。(元記事

とのことです。

このように各項目に短い解説が付けられているのですが、いずれもこのサイトの運営者がさまざまなデータとの相関を調べた上で書かれているもので、1000以上の項目についてこのような作業をしたのかと思うとちょっと気が遠くなりますが、ことばとは全く無関係な他の図表でも、見ていると時間を忘れるほどの面白さです。

ほかにどのようなデータがあるのか興味のある人、または膨大な作業量を感じて気が遠くなりたい人は、ぜひこのサイトを訪れてみてください。

備前徹


<参考URL>
  1. 都道府県別統計とランキングで見る県民性」(2019年7月30日閲覧)

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