専修大学文学部日本語学科

専大日語・コラム

専大日語の教員による、月替わりのコラムです。

2017年12月:卵焼きと目玉焼き

「卵焼き」と「目玉焼き」

「卵焼き」と「目玉焼き」、みなさんはどちらが好きですか。

どちらも朝食の定番ですが、言語学的な観点から見ると、これらには大きな違いがあります。では問題。「卵焼きと目玉焼きの言語学的な違い」とは、何でしょうか。(調理の仕方が違う、というのは、言語学的な違いではありません)

卵焼きの写真です。 目玉焼きの写真です。
図1:卵焼き・目玉焼き

答えは、「語と語の関係」を考えると分かります。「卵焼き」は「卵を焼いたもの」ですが、「目玉焼き」は「目玉を焼いたもの」ではありません。むしろ、「目玉のような形に焼いたもの」と解釈できますね。つまり、これらは、「卵/目玉」という語と「焼き」という語の関係に違いがあると言えます。

二つ(以上)の実質語が結合して作られる語を、「複合語」と呼びます。また、複合語の前に来る語を「前項」、後ろに来る語を「後項」と呼びます。「卵焼き」も「目玉焼き」も複合語ですが、それぞれ前項(卵/目玉)と後項(焼き)の結合関係が異なっているわけです。

イカを焼いた「イカ焼き」や、ホルモンを焼いた「ホルモン焼き」は、「卵焼き」と同じ結合関係だと言えます。一方、鯛の形に焼いた「タイ焼き」や、銅鑼(どら)の形に焼いた「どら焼き」は、「目玉焼き」と同じ結合関係だと言えるでしょう。それぞれ、他にどんな例があるでしょうか。考えてみてください。

イカ焼きの写真です。 タイ焼きの写真です。
図2:イカ焼き・タイ焼き

いろいろな結合関係

「~焼き」という複合語を集めてみると、この他にも、いろいろなタイプの結合関係を見つけることができます。例えば、次の「~焼き」の前項は、「焼き」とどのよう関係にあるでしょうか。

  1. 鉄板焼き・直火焼き・オーブン焼き
  2. 味噌焼き・生姜焼き・塩焼き
  3. 明石焼き・大阪焼き・有田焼

1.は焼くための道具や手段を表すもの、2.は焼くときに味をつける調味料を表すもの、3.は特産地や発祥地の名前、といった具合です。それぞれのタイプの「~焼き」について、他にも例を挙げてみてください。

ちなみに、「タコ焼き」はタコを(直接)焼いたものではないので、「イカ焼き」とは異なる結合関係だと言えます。また、「すき焼き」「もんじゃ焼き」「どんど焼き」などの結合関係は、考えてみてもよく分かりませんね。これらについては、語源を調べてみてください。

タコ焼きの写真です。 どんど焼きの写真です。
図3:タコ焼き・どんど焼き

さらに、「焼き」が後項ではなく、前項に来る場合もあります。「焼き肉」「焼きそば」「焼き魚」「焼きギョウザ」など。この場合は、どのような結合関係になるでしょうか。どのような類例がありますか。考えてみてください。

コーパスで調べると...

では、「~焼き」という複合語のうち、最も多く使われているものは何でしょうか。ここでは、約1億語のさまざまな書き言葉を収集した『現代日本語書き言葉均衡コーパス』(BCCWJ)を使って、「~焼き」という形を持つ複合語を検索してみましょう。検索結果を頻度順に集計してみると、トップ20は表1のようになりました(「たまご焼き」「玉子焼」のような表記のゆれは統一してあります)。(注1)

表1:『現代日本語書き言葉均衡コーパス』に現れた「~焼き」の分布

順位頻度形式
1368お好み焼き
2348卵焼き
3327蛸焼き
4269すき焼き
5234塩焼き
6141炭焼き
7133目玉焼き
8113素焼き
9112照り焼き
1088蒲焼き
順位頻度形式
1188蒸し焼き
1287鯛焼き
1379串焼き
1461野焼き
1556炭火焼き
1655生姜焼き
1752鉄板焼き
1849丸焼き
1946石焼き
2040薄焼き

一番ポピュラーな「~焼き」は、368回の「お好み焼き」でした。また、「卵焼き」は348回、「目玉焼き」は133回となっていて、「卵焼き」の方が約2.6倍も多い結果となっています。このような使用実態は、コーパスを検索して初めて分かることと言えます。

さらに、ここで挙げられた複合語の結合関係を分析していけば、「~焼き」にはどのようなタイプが多いのか、明らかにすることができるでしょう。また、「~焼き」だけではなく、「~煮」「~飲み」「~巻き」「~洗い」などの組み合わせを考えてみても面白いでしょう。

複合語は、日常生活の中で多く観察することができます。複合語を見つけたら、その場で分析してみてください。身の回りの中から疑問のタネを見つけること、そしてそれを分析するクセを身に着けることは、とても大事なことだと思います。

さて、早いもので、もう年末ですね。今年一年、「専大日語コラム」は楽しんでいただけましたでしょうか。みなさん、どうぞよい年をお迎えください。

丸山岳彦


(注1)検索には、コーパス検索アプリケーション「中納言」(ver.2.2.2.2)を利用しました。短単位検索の検索条件式に「キー: 語彙素 LIKE "%焼き"」および「キー: 品詞 LIKE "名詞%" AND 後方共起: 語彙素="焼き" ON 1 WORDS FROM キー」を指定し、結果をダウンロードして、「語彙素」で集計しました。


<参考文献>
  1. 姫野昌子 監修 (2012)『研究社 日本語コロケーション辞典』研究社. [OPAC]
  2. 石井正彦 (1997)『現代日本語の複合語形成論』ひつじ書房. [OPAC]
  3. 斎藤倫明・石井正彦 (1997)『語構成』ひつじ書房. [link]

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