|研究目的・概要 |

  第二次世界大戦後の東アジアの国・地域(本研究では、中国(香港を含む)、台湾、韓国、タイ、日本などを対象とする)は、東西陣営の対立に苦しみながらも、経済成長を、とりわけ1980年代以降は顕著に達成した。 しかし、他方で、家族やコミュニティなどに基礎をおく伝統的な価値観も堅持してきている。けれども、1990年代後半に引き続いて、2007年夏以降に顕在化したアメリカ発金融危機は、東アジアの今後の経済発展とそのシナリオに深刻な反省と再検討を迫っている。ポスト・グローバリゼーション下での持続的発展に向けた市民生活向上のための新たな社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)の多様な構築が求められる背景と必然がある。 

|研究分野 |


  本研究では、1980年代以降のグローバリゼーションにさらされている東アジアの国・地域の経済発展と社会の変貌を、相互連関的な3つの側面から分析・検討し、今後の方向性を探りたい。

(1) 「コミュニティ」: 東アジアの持続的発展のためには、家族・コミュニティの多様な役割に加えて、ポスト・グローバリゼーションに対応した企業・産業・経済の発展が求められる。景気対策の枠を超えた財政・金融政策の展開や、労働組合、雇用・失業保険制度、社会保障制度、コミュニティ・ビジネス、NPO活動などの導入・浸透・定着が不可欠である。

(2) 「セキュリティ」: 経済成長過程での大都市部への急激な集中は、不可避的に、公害・環境問題、社会問題などを誘発している。その影響は個人、地域社会はもちろん、企業や行政に対応を促しつつ、時として国全体さらには世界にひろがり、近年その傾向が極めて強くなっている。共通して集団的にさらされるこうしたリスクを、ソーシャル・リスクと捉えることができる(例:原子力リスク、環境リスク、感染症、地震、津波、テロ、失業、食中毒、欠陥商品、医療過誤など)。これらのソーシャル・リスクに対処するには、ハード面での社会基盤整備とともに、ソーシャル・キャピタルすなわち社会的組織の中にある信頼、規範、ネットワークのようなソフトな関係に注目することが有効な方法である。

(3) 「市民文化」: 東アジア全域で時間差はあるもののほぼ同時代的に進捗している経済発展という光の部分と、その影の部分に対する格差是正・環境対策とはコインの表裏の関係であり、同時に、経済発展・都市化に起因する高学歴化・市民意識の高まりなども見られる。「新しい公共」の展開もあり、いわば市民社会形成ともいうべき、多様で新たな社会階層・主体の登場が東アジア全域で確認できる。
 こうした3分野の調査・研究を進めることによって、日本のこれまでの経済発展・成長の経験を通して蓄積してきた社会諸制度・知的経験の成果と教訓も踏まえて、東アジア地域の今後の持続的発展の可能性と方向性を提示したい。