専修大学国際コミュニケーション学部日本語学科

専大日語・コラム

専大日語の教員による、月替わりのコラムです。

2024年2月:開催報告「専大日語の冬フェス 2024」

2020年4月に開設された、我らが「専修大学 国際コミュニケーション学部 日本語学科」、通称「専大日語」 (それ以前は「専修大学 文学部 日本語学科」でした)。 開設から4年目となる2023年12月、国際コミュニケーション学部の日本語学科として、初めての卒業論文が提出されました。

卒論を提出した4年生のみなさん、おつかれさまでした。 卒論の執筆、いかがでしたか。 論文の構想、参考文献の探索、データの準備、本文の執筆、校正、製本、提出まで、 長いような、でも終わってしまえばあっという間だったような、不思議な時間だったのではないかと思います。 一つの大きな仕事を完成させた達成感を、ぜひ覚えていてください。

さて、せっかくみんなが書いた卒業論文、専大日語のみんなでシェアしよう!という企画を立てました。題して、

「専大日語の冬フェス 2024」!

夏休みに開催した 「専大日語の夏フェス 2023」に続く、「冬フェス」の企画です。

2月27日(火)、冬フェスの開催当日は、「口頭発表」4件と「ブース発表」6件が集まりました。 当日のポスターとプログラムは、次の通りです(タップ・クリックで拡大、氏名は伏字にしてあります)。

以下、簡単に内容をまとめておきましょう。


特別対談: ガチバトル:社会言語学vsコーパス言語学(阿部貴人・丸山岳彦)

社会言語学を専門とする阿部貴人、コーパス言語学を専門とする丸山岳彦、教員2名による特別対談を実施しました。 データの取り方、「意識と行動」、「規範と記述」、研究成果の位置付けなどについて議論。 終了後、「もう少し先生たちのガチバトルが見たかった」との声が聞かれました。次回の課題とさせてください(笑)。


口頭発表: 「だ」の構文的な振る舞いとその傾向(須田ゼミ、K.S.さん)

現代日本語文法論の立場から、文末に現れる「だ」について分析しました。 文全体の構造における「だ」の統語的な位置を示したうえで、 「連体的/終止的な文成分 + 底(base) + ダ」という述語句の構造(~ノダ、~ソウダなど)に「だ」が多く現れることを、 『現代日本語書き言葉均衡コーパス』(BCCWJ)をもとに主張しました。


口頭発表: 高等学校における古典教育の必要性(山下ゼミ、M.K.さん)

「高校で古典を勉強したところで何の役に立つの?」という問いに対して、古典を学ぶことの重要さを、具体例を交えながら論じました。 教育の目的を「人格の完成」としたうえで、実用的なスキルだけが優先されるべきではなく、 日本人としてのアイデンティティ確立には古典に親しむことが重要であることを主張しました。 示唆に富む指摘が多くありました。


ブース発表: 『ごんぎつね』の教材分析 ―人々を惹きつける魅力と視点の効果を中心に―(山下ゼミ、R.M.さん)

小学校での国語科の授業で扱う『ごんぎつね』を題材に、教材分析を行ないました。 新見南吉の幼少期の体験を踏まえた『ごんぎつね』の魅力、文章の視点が移り変わることなどを分析したうえで、 「認識のずれ」「心の交流」をテーマに、12時間分の授業を組み立てる実践例が示されました。 発表者のR.M.さんは、4月以降、実際に小学校の教壇に立つとのこと。ぜひ研究成果を生かしてほしいと思います。


ブース発表: 吃音症状に見られる音声と音声認識の実態(王ゼミ、T.H.さん)

吃音症状を持つ話者の音声を、音声認識システムはどこまで正確に認識できるのか、という実験的な研究です。 話し方の障害(発話障害)に伴う「非流暢性」(disfluency)は、長年、言語障害学の中で研究されてきたテーマですが、 最近では非流暢性を言語学の中で扱う研究も出始めています (参考)。 吃音を音声認識と組み合わせた実験的研究というのは、面白い着眼点だと思います。


ブース発表: 類義語としての接続詞の使い分けについて(丸山ゼミ、R.S.さん)

35種類の接続詞を、「順接、逆接、添加、対比、転換、同列、補足」という7種類の意味タイプに分類し、 「普通体、敬体、口語体」という文体の中でどのように使い分けられているかを、アンケート調査で確認しました。 さらに、コーパス検索アプリケーション「中納言」を用いて、 書き言葉・話し言葉の中における各接続詞の調整頻度を比較し、その使い分けの実態を明らかにしました。


ブース発表: 日本語学習者と日本語母語話者のフィラーの違い ―I-JASを用いた分析―(丸山ゼミ、A.Y.さん)

『多言語母語の日本語学習者横断コーパス』(I-JAS)を用いて、日本語学習者と日本語母語話者が使用するフィラーの違いを明らかにしました。 学習者は全体的に「あー」「んー」が多く、母語話者は「えー」が圧倒的に多いこと、 両者とも対話では「あのー」が増えること、などを明らかにしました。 さらに、学習者の母語での発話を収めたI-JAS FOLASを用いて、母語のフィラーの影響も調べました。


ブース発表: スマートフォン向けリズムゲームにおける主要人物の発話の特徴について(丸山ゼミ、T.N.さん)

2種類のスマホ向けリズムゲーム(ガルパ、プロセカ)に登場するキャラ(9人)の発話をテキスト化し、約25,600語分のコーパスを作成しました。 品詞、感動詞、終助詞、副助詞、補助記号、固有名詞の呼びかけ、フィラー・言い淀み、発話数、心内発話という観点から、 「元気でポジティブな性格」「気弱」「毒舌で厳しい言葉遣い」「大げさなリアクション」など、各キャラの特徴をまとめました。


ブース発表: 国語科教科書の改訂と教育施策との関連(丸山ゼミ、Y.M.さん)

昭和36年から令和2年(検定)の国語科教科書、17冊分に収録されている読み物教材をテキスト化し、664,397語分の「教科書コーパス」を作成しました。 経年的に分析したところ、文字種ではひらがなが減って漢字が増えていること、 語種では昭和62年度を境に外来語が増えていること、表記では表記ゆれや漢数字の表記に経年変化が見られること、などが明らかになりました。 「二千二十三」と「二〇二三」(十方式と一方式)の変遷など、コーパス化しないと分からない特徴が浮き彫りになりました。


口頭発表: 大阪放送局制作の朝の連続テレビ小説における関西方言の違和感の原因についての考察(王ゼミ、Y.A.さん)

NHKドラマ(朝の連続テレビ小説)で役者が話す関西弁に「何か違う」という印象を持つのはなぜか、という問いについて、音響的に分析した研究です。 劇中で話された「今やから言うけど」「ありがとうございます」などの音声を、音響分析ソフト Praat で分析した結果、 「上昇下降の開始点」「高低変化」などの微細なピッチ変動が、関東出身の役者には難しいことが示唆されました。


口頭発表: 特別支援教育に係る専門用語のNDCにおける分布に関する研究(丸山ゼミ、A.S.さん)

「特別支援教育」の分野で用いられる専門用語が、実際の書き言葉のどのようなジャンルに分布しているかを、 『現代日本語書き言葉均衡コーパス』(BCCWJ)を使って分析した研究です。 「アスペルガー、インクルーシブ、緘黙、重度重複、訪問指導」など特別支援教育で用いられる専門用語50語を、 BCCWJの「出版サブコーパス(書籍)」と「図書館サブコーパス」からそれぞれ検索し、 その量的な分布を比較することで、専門用語としての一般性・専門性を明らかにしました。


冬フェスでの発表をこうして並べてみると、日本語学の基礎分野(音声、表記、語彙、文法)から応用領域まで、実に幅広いテーマが扱われていることが分かります。 (誠に手前味噌ながら、)日本語学の広範な領域をカバーする専大日語の多彩な教員陣による指導の成果と言えるでしょう。 しかも、今回の冬フェスで発表された卒論は、全体のごく一部。実際にはさらに多様なテーマを取り扱った卒業論文が提出されています。

私自身、毎年ゼミ生たちの卒業論文を指導しながら、日本語学の研究はどこまで広がるのだろうと感じています。 私たちが普段使っている日本語について、その根幹的な仕組みから社会の中で使われている実態まで、 実に様々な角度からアプローチできることが、日本語学の醍醐味だと思います。 日本語学に興味を持ってくれる学生・受験生が、今後も増えてくれるといいなと思います。

国際コミュニケーション学部 日本語学科で初めての卒業生となるみなさん、 専大日語で過ごした4年間の学びを通して、4月以降、それぞれの新しい場所で力を発揮してくれることを期待します。 機会があれば、神保町のキャンパスに戻ってきてください。みなさんの活躍の様子を聞けることを、楽しみにしています。(^^)

丸山岳彦

バックナンバー

バックナンバーのページ へどうぞ。

トップに戻る