第3章 郵便局投票

 第1節 総 説

 ここに郵便局投票とは、選挙の際に、スウェーデン国内の郵便局で行われる選挙投票のことをいいます。選挙日当日、投票区投票所で投票を行うことができない人のために、1942年から採用されている投票方法です。スウェーデンの国会が一院制に移行した1974年ごろから急激に郵便局投票を利用する者が増えて、1994年の総選挙のときには郵便局投票の全投票者数にしめる割合は、35.7パーセントに達しています。ただ、この数字の中には特設郵便局において行われている投票数も含まれていますので、新しい公職選挙法では、特設郵便局投票制度が廃止され、代わって特設投票所投票制度が導入されましたので、今年の9月に行われる総選挙で同じような数字がでてくるかは保証の限りではありません。

 わが国の場合、選挙日当日、投票所で投票を行うことができない有権者のために、不在者投票という制度がありますが、誰でもが自由に利用できるようになっていません(日公職選挙法第49条)。スウェーデンの郵便局投票には、そのような制限は全く設けられていません。選挙人の選挙人名簿が設置されているコミューン内の投票取り扱い郵便局ならば、選挙人は、投票受付期間内であれば、いつでも自由に投票を行うことができるようになっています。もし、わが国においても、どうしても投票率をアップさせたいと思うならば、投票時間の延長もさることながら、郵便局投票のような投票方法を考えてみることも必要なことではないでしょうか。

 

 第2節 投票取り扱い郵便局と投票受付期間

  投票取り扱い郵便局は、選挙の際に、郵便会社(スウェーデンにおいては、郵便事業は既に民営化されています)と協議の上、中央選挙庁によって決定されます(公職選挙法第11章第1条)。但し、その場合、中央選挙庁は、いかなる場合においても、必ず、コミューン毎に一つの投票取り扱い郵便局を定めておかなければなりません(公職選挙法第11章第1条)。

  投票取り扱い郵便局が決定された場合、その郵便局において投票受付が行われますが、投票受付は、通常選挙の場合、選挙日の18日前から始まり、選挙日当日まで継続されています。但し、通常選挙以外の選挙に関しては、その期間は10日間とされています(公職選挙法第11章第2条)。尚、旧公職選挙法の規定では、郵便局における投票受付期間は選挙日の24日前からとなっていました(旧公職選挙法第10章第2条第1項)が、新法になってその期間が短縮されることになりました。経費節約という理由からです。投票受付郵便局における投票事務の取扱時間は、郵便局の執務時間以内に限定されています。

 但し、投票受付郵便局においてその必要があると認められた場合、投票取り扱い郵便局からの申し出によって、中央選挙庁は、一日の投票受付時間を短縮することができます。但し、投票受付時間を短縮する場合であっても、投票受付時間は最低1時間を切ることができません。尚、投票受付郵便局における投票受付時間は、午前中、11時までの1時間、午後3時以降の1時間だけは、必ず、投票ができるようにしておかなければなりません。尚、選挙日は日曜日に当たりますが、投票事務だけのために郵便局は開かれています。尚、郵便局における投票受取人は、郵便会社によって選任されることになっています(公職選挙法第11章第5条)。

 

 第3節 投票受付郵便局における投票手続

(1)総 説 郵便局おいて投票を行う者は、原則として、投票受付期間内に投票受付郵便局に出向いていって投票を行わなければならないことになっています。投票受付郵便局における投票受付は、選挙日の18に日前から行われています。但し、選挙人が病気、身体障害、高齢のため、投票所に出向いて投票を行うことができない場合、他人に投票を依頼することができます。投票を他人に依頼して行うことを代理投票といいますが、郵便局投票の場合、他の投票所の場合と異なって、投票を選挙人が自分の身内に頼んで行う親族代理投票と投票を郵便配達人に頼んで行う郵便配達人投票の二つの方法があります。したがって、郵便局投票の説明をする場合、選挙人本人が投票受付郵便局に出かけていった投票を行う本人投票と投票が代理人によって行われる代理投票、そしてまた代理投票の場合、親族による代理投票と郵便配達人による代理投票を別々に説明する必要があります。そこで、次に、本人投票と代理人投票、そしてまた更に代理投票の場合、親族による代理投票と郵便配達人による代理投票について説明をします。

 

(2)選挙人本人によって投票が行われる場合 投票受付郵便局において、選挙人本人が直接、投票を行う場合、選挙人はまず、投票受取人に選挙人カードを示し、投票用封筒を受け取ります。そして郵便局の片隅に設けられた衝立のところにいって持参の投票用紙を入れ、封をします。これまでは郵便局に投票用紙が用意されていませんのでしたので、そうしていましたが、新しい選挙では、郵便局にも投票用紙が用意されていますので、手ぶらで郵便局に行ってそこで投票用紙をもらって投票用封筒に入れて投票を行うことができるようになります。投票用紙をもらうといっても、投票受取人からもらうのではなくして、郵便局のカウンターのところに予め用意されている投票用紙を勝手にとって、それを投票用封筒に入れるだけです。投票用紙のところで述べましたように、直近、過去2回の国会選挙のうち、いずれかの選挙において、スウェーデン全国における総投票数の1パーセントの得票数を獲得している政党は、投票所の入り口に自己の政党の投票用紙を準備しておかなければならないことになっているからです(公職選挙法第9章第12条)。(prop.1996/97:70 s.152 f.f.)

 投票受取人から投票用封筒をもらった選挙人は、投票用衝立のところにいって予め用意してきている投票用紙を投票用封筒に入れ、必要があれば、そのときに特別指名投票を行うことができます。そのようにして投票用封筒を準備した選挙人は、次に準備した投票用封筒と選挙人カードを投票受取人のところに持参します。このとき、すべての選挙が同時に行われます。したがって、このとき、選挙人は三通の投票用封筒を投票受取人に手渡すことになりますが、国会選挙の投票用封筒だけ手渡すこともできます。但し、同一種類の投票用紙の入っている投票用封筒を2通、手渡すことはできません(公職選挙法第11章第7条第2項)。

  選挙人から投票用封筒と選挙人カードを受け取った投票受取人は、選挙人の氏名が選挙人名簿に登載されているか否かを確認し、更に選挙の種類別に投票用封筒の中に一枚ずつ投票用紙が封入されているか否かを点検、確認します。それが終わったら、投票用封筒の上に必要記載事項以外のことが記載されていないことを確認します。同一種類の選挙に2枚以上の投票用封筒が提出された場合、投票受取人はその中から一通だけを受け取ることができます。選挙人がすべての投票用封筒の受け取りを強要した場合、投票受取人はすべての投票用紙の受け取りを拒否することができます。問題がなければ、投票受取人は投票用封筒と選挙人カードを窓開き封筒に入れ、封をし、窓開き封筒の上に送付先コミューン選挙管理委員会名と投票受付台帳の上に記載されている受付番号を記載し、関係コミューンに発送します。発送が郵便をもって行われる場合、書留郵便をもって送付されなければなりません(公職選挙法第11章第21条)。

 

(3)投票が代理人によって行われる場合 前にも述べましたように、投票が代理人よって行われる場合といっても、誰がその代理人となるかによって、代理投票は親族による代理投票と郵便配達人による代理投票に区別されています。そこでまず、最初に、親族によって行われる代理投票から説明したいと思います。

 

 1.親族による代理投票

 親族による代理投票とは、選挙人の配偶者、子、孫、父または母、兄弟姉妹、配偶者の子、選挙人の内縁配偶者、内縁配偶者の子等の親族を代理人として行われる投票のことをいいます。尚、選挙人の親族ではないが、職業として選挙人の世話を行っている者または職業としてではないが選挙人の日常生活の面倒を見ている者もまた代理投票人となることが認められています。しかし、ここではそのような者を含めて、選挙人の親族による代理投票として説明をしておきます。

  親族によって代理投票が行われる場合、他の投票所における代理投票の場合と同様、代理投票人が投票の行われる郵便局に出向いて投票を行うことになりますが、その場合、投票代理人は予め用意されている代理投票用外封筒と選挙人の選挙人カードを投票受取人に提出します。投票代理人から代理投票用外封筒と選挙人カードを提出されたとき、投票受取人は、まず、最初に、選挙人カードによって、代理投票を依頼している者が選挙権をもっているか否かを確認し、選挙権のあることが確認できたとき、代理投票用外封筒が選挙人本人によって準備されたものであるか否かを確認します。次いで、投票受取人は、投票代理人と選挙人および選挙人と投票立会人との身分関係そしてまた投票代理人および投票立会人の年齢を確認します。以上のことが確認され、特に問題がなければ、投票受取人は代理投票依頼者の選挙人カードと代理投票用外封筒を受理して、投票代理人のいる前で窓開き封筒に入れ、封をして、窓開き封筒の表に送付先関係コミューンと投票受付番号を記載して、関係コミューン選挙委員会に送付します。送付が郵便で行われる場合には書留郵便が使われます。

 

2.郵便配達人による代理投票

  投票が郵便配達人によって行われる場合、次のような方法で投票が行われます。

選挙人が郵便配達人に選挙投票を依頼する場合、選挙人は投票を委託する郵便配達人と投票立会人のいる前で、投票用紙の封入されている投票用封筒を代理投票用外封筒に入れ、封をします。そしてその封筒の表に、代理投票を行う理由等、必要記載事項を記載し、代理投票用外封筒と代理投票を委託した選挙人の選挙人カードを郵便配達人に引き渡します。選挙人から代理投票を委託された郵便配達人は、代理投票用外封筒と選挙人カードを所属郵便局に持ち帰って、投票受取人に提出します(公職選挙法第14章第10条)。その場合の代理投票用外封筒の引き渡しは、執務時間外でも行われます。郵便配達人から代理投票用外封筒を受け取った投票受取人は、受け取りに際し、次のことを点検、確認します。

1.選挙人カードによって代理投票委託者が選挙権をもっている者であること

2.代理投票用外封筒の表に、必要記載事項が記載されていること

3.代理投票用外封筒に封入されている投票用封筒が所定の準備期間内に用意されたものであること

4.代理投票用外封筒が完全に封印されていること

5.代理投票用外封筒の表に、郵便配達人が直接、代理投票依頼者から委託されたものであるということが記載されていること

6.選挙人の配偶者、子、内縁配偶者または配偶者もしくは内縁配偶者の子が投票立会人になっていないことおよび立会人が18歳に達していること

7.郵便配達人が投票立会人になっていないこと

 以上のことが確認できたとき、投票受取人は、郵便配達人のいる前で、代理投票用外封筒と選挙人カードを窓開き封筒に入れ、封をし、封筒の表に送付先コミューン選挙管理委員会名を記載し、送付します。送付が郵便をもって行われる場合、書留郵便によって送付しなければなりません。


    第4章特設投票所投票に移る     公職選挙法第11章へ移る