専修大学社会知性開発研究センター / 古代東ユーラシア研究センター
古代東ユーラシア世界の人流と倭国・日本

2018年度 活動記録

古代東ユーラシア研究センター 2018年度活動報告

 専修大学社会知性開発研究センター内の一組織として開設された、古代東ユーラシア研究センターにおいて申請していた「古代東ユーラシア世界の人流と倭国・日本」は、2014年度に文部科学省によって「私立大学戦略的研究基盤形成支援事業」として選定された。本年度はこの事業の最終年目となる。
 本学は、中国の西北大学に所蔵されて間もない2004年に、日本の遣唐留学生であった「井真成」の墓誌を同大学と共同で発見・確認した。この墓誌の発見は日中両国の研究者に大きな衝撃を与え、2005年1月には両大学の共同プロジェクトとして国際学術シンポジウムなどを開催した。今日までこの墓誌は多くの研究を蓄積し、それらは本研究プロジェクトの目指す留学生の交流に絞っての東アジア世界における構造研究の基盤となっている。
 また、2007年度~2011年度にかけて東アジア世界史研究センターを立ち上げ、文部科学省によって「私立大学学術研究高度化推進事業」(オープン・リサーチ・センター整備事業)として選定された研究プロジェクト「古代東アジア世界史と留学生」に5年間取り組んだ。この研究プロジェクトでは、公開講座(6回)・シンポジウム(4回)・研究会(6回)を開催し、その成果として「東アジア世界史研究センター年報」(第1号~第6号)を刊行し、公表してきた。加えて、唐・新羅・日本・渤海の交通関連の年表と史資料とをリンクさせたデータ「古代東アジア世界史年表」(西暦581年~926年)をホームページ上に公開することにより、「東アジア世界史研究」の一拠点として、研究機関・研究者だけでなく、広く社会にその成果を発信してきた。
 前近代の諸地域は、それぞれの国家がそれぞれの目的をもって交流し、様々な文化・文物・情報の流入を期待した。これら交流の「移植者」「媒介者」として大きな役割を果たしたのが「渡来者」「渡来者集団」であった。渡来者である「唐人」「新羅人」「渤海人」「崑崙人」「胡国人」「林邑人」などに焦点を当て、彼らが日本列島各地に形成したネットワークを含め、その<人流と土着>化の歴史的経緯や意義を明らかにすべく当センターは本研究プロジェクトを立ち上げた。そして、これまで培ってきた「東アジア世界史」という研究成果に立脚し、新たに「東ユーラシア」という地域概念を措定することによって、従来の日・中・朝以外の地域を包摂する体制とした。このプロジェクトはこうした問題関心にもとづき、①隋・唐からの来日外国人、②朝鮮半島からの渡来人と彼らが日本列島内に形成したコミュニティーの研究、③ベトナムなど周縁国からの来日外国人とその伝来文化、④中世・近世における来日外国人の伝来文化など4つの柱を中心とし、それぞれについて共同研究者が担当し、研究・分析を進める体制をとった。また同時に、国内外の研究者と交流し、若手研究者を育成すること、研究成果をシンポジウム・刊行物を通して公開することによって、研究・教育を推進する体制を目指すこととした。
 このプロジェクトの運営のために、古代東ユーラシア研究センターでは「古代東ユーラシア研究センター委員会」を設け、各研究テーマについての計画を策定し、進行状況を検討している。研究代表は、古代東ユーラシア研究センター代表として委員会での議論を主導し、各研究テーマの進捗状況と今後の計画について必要な調整を行うとともに、古代東ユーラシア研究センターの上部機関である社会知性開発研究センターに報告し、承認を得る役割を果たしている。また、各研究テーマのリーダーを中心に「古代東ユーラシア研究センター運営小委員会」並びに研究代表者の補佐として事務局長を置き、各研究テーマと関連した事務の円滑な進行を期している。
 各研究者は研究を進めるとともに、研究成果の発表をするために開かれるシンポジウム。研究会、および年報等の編集を分担し、古代東ユーラシア研究センター委員会において適宜進捗状況を報告している。
 以上のような研究体制を土台にして古代東ユーラシア研究センターでは研究活動を行い、今年度は、その成果をシンポジウムの開催(2回)により、広く公開した。それらを主たる内容にした『年報』を発行する。また、研究推進の補助的役割として若手研究者の育成のためにポスト・ドクター、リサーチ・アシスタント(研究補助員)を採用することとした。
 また、研究環境の整備として、研究に不可欠である史料および文献の調査と収集・整理を進めるべく、5年間を通して、日本・中国・韓国の文献史料の収集・整理に努め、それに関する図書・資料の購入をおこなった。
 具体的な研究活動としては、東ユーラシアの地域で埋葬文化の伝播を通じて漢族が西方へ移動・定住、活動していたのかを、また、ソグド人による香木の交易の様相を通じて東西にわたる人的交流を、考古学の成果より朝鮮半島を中心としたさまざまな地域間交流を、それぞれ歴史学・考古学の分野から検討をおこなった。その成果を第1回のシンポジウムで明らかにした。
 また、東ユーラシア地域論の有効性を明らかにする試みとして、前回の東ユーラシアの東西の人的交流を明らかにした成果を受けて、第2回のシンポジウムは3世紀から12世紀までのベトナムから北海道に至る南北のそれぞれの地域間における交易や人流の検討に当たった。
 それらは本『年報』に掲載されている。加えて、同テーマの研究推進のため、研究員、ポスト・ドクター、リサーチ・アシスタントを海外および国内調査に派遣し、史資料の検討を進めた。
 また、若手研究者の育成については、リサーチ・アシスタントを1名、ポスト・ドクターを2名採用して研究を進展させる機会を提供した。
シンポジウムについては、第1回目を7月14日に開催し、239名の参加者を得ることができた。
 内容としては、2世紀から8世紀までの内陸アジアや朝鮮半島において内乱や商業活動のために移動・移住した人々の動向を東西にわたり検証・検討するものであり、3世紀から5世紀にかけて内乱によって西方へ移住を余儀なくされた漢民族の定住の状況を埋葬文化の伝播から、また、7世紀から9世紀の中国国内におけるソグド人の香木売買の事例からソグド人が構築した商業ネットワークの実態を、そして、4世紀から5世紀の朝鮮半島において、馬韓から百済へと政治権力が移行する際に、そのさまざまな政治的関係性が交易に与えた影響を出土遺物から詳細に考察するなど、幅広い視点・成果をもつ「古代東ユーラシアの国際関係と人流」と題して、關尾史郎氏(新潟大学)、荒川正晴氏(大阪大学)、成正鏞氏(韓国・忠北大学校)の報告がおこなわれた。
 第2回目は11月17日に開催された。「東ユーラシア地域論の現在―交流・交易からみた北と南―」と題されたシンポジウムでは、新津健一郎氏(東京大学)、菊池百里子氏(人間文化研究機構総合情報発信センター)、蓑島栄紀氏(北海道大学)、髙橋昌明氏(神戸大学)の報告が行われた。参加者は175名を数えた。本シンポジウムでは、2世紀から15世紀までのベトナム・中国の関係から、日本と中国、さらに北海道と東北・大陸との関係など、南北のそれぞれの地域間における交易や人流のあり様をテーマに定めた。ベトナムにおいては、当時中国の支配下におかれた2~3世紀のベトナム国内の地域間構造と中国本国との関係性を人的交流という視点から、また、13世紀の陳朝と日本ならびに中国間における陶磁器貿易の状況を考古学的成果より、さらに北海道においては、アイヌを中心とする北方ユーラシア大陸や東北など日本列島との交易ネットワークが当該期のさまざまな権力機構にどのような影響を与えたかを、そして、12世紀の平清盛による貿易立国実現のための「ポートアイランド構想」の概要とその意味を、それぞれの専門分野から検討をおこなった。
 本プロジェクトは今年度で最終年を迎えた。ここでは、東ユーラシアという地域論を設定することで東アジア世界の歴史的展開をより構造的に動的に叙述できるのかといった問題を「人流」という視点で追究することを目標に掲げてきた。本センター研究員は、この問題に相互に検討し合う体制を築き、歴史学・考古学などを専門とするセンター研究員以外の人々の協力を受け、これまで多くの論点を提出できたと認識している。それらは、この5年間でのシンポジウム(計9回)・研究会(計12回)の開催、海外調査(韓国、中国、台湾、ベトナム、アメリカ)・国内調査(群馬、岡山、兵庫、福岡など)などによって実施され、その成果は『年報』の刊行(第1号~第5号)・ホームページなどによって公表してきた。また独自の取り組みとして行ってきたデータベースの構築と更新も、研究者などに利便性を供するものとなったと自負している。
 ただまだ研究は緒についたばかりで、残された問題、新たな課題も多い。今後も本学の社会知性開発研究センター内で、東アジア世界史研究センター、ならびに古代東ユーラシア研究センターにおいて築いてきた研究基盤を何らかのかたちで継続していきたいと本センター研究員は決意を新たにしている。本センターの研究にご参集いただいたすべての皆様に感謝申し上げる。

1)2018年度シンポジウム
2018年7月14日(土)専修大学神田校舎 参加者239名
第1回シンポジウム「古代東ユーラシアの国際関係と人流」
■司会・進行
 高久健二(古代東ユーラシア研究センター研究員/専修大学教授)
■趣旨説明 13:00~13:10
 飯尾秀幸(古代東ユーラシア研究センター代表/専修大学教授)
■講演① 13:10~14:10
 關尾史郎(新潟大学フェロー)
 「内乱と移動の世紀―4~5世紀中国における漢族の移動と中央アジア―」
■講演② 14:10~15:10
 荒川正晴(大阪大学教授)
 「ソグド人の交易活動と香木の流通―法隆寺伝来の香木を手がかりとして―」
■講演③ 15:30~16:30
 成正鏞(韓国・忠北大学校教授)
 「古代東アジアの文物交流―馬韓と百済を中心に―」
■討論 16:40~17:30

2018年11月17日(土)専修大学神田校舎 参加者175名
第2回シンポジウム「東ユーラシア地域論の現在―交流・交易からみた北と南―」
■司会・進行 
 高久健二(古代東ユーラシア研究センター研究員/専修大学教授)
■趣旨説明 10:30~10:40
 飯尾秀幸(古代東ユーラシア研究センター代表/専修大学教授)
■講演① 10:40~11:40
 新津健一郎(東京大学大学院博士課程・日本学術振興会特別研究員DC)
 「後漢・三国政権と交州地域社会」
■講演② 13:00~14:00
 菊池百里子(人間文化研究機構総合情報発信センター研究員)
 「大越国陳朝期の交易と海域アジア」
■講演③ 14:00~15:00
 蓑島栄紀(北海道大学アイヌ・先住民研究センター准教授)
 「9~11・12世紀における北方世界の交流」
■講演④ 15:20~16:20
 髙橋昌明(神戸大学名誉教授)
 「平家政権の日中間交渉の実態について」
■討論・総括 16:20~17:30

2)2018年度研究会
2018年7月15日(日)専修大学神田校舎7号館 782教室 参加者9名
第1回研究会「日韓における韓国考古学の現状と課題」
■司会・進行 
 高久健二(古代東ユーラシア研究センター研究員/専修大学教授)
■報告 10:00~12:00
 成正鏞(韓国・忠北大学校教授)
 「近年の馬韓・百済考古学の成果と課題」
■質疑応答 12:00~13:00 

2019年2月7日(木)専修大学生田校舎7号館 771教室 参加者12名
第2回研究会「日本古代史・中国古代史・考古学からみた東ユーラシア地域論の現在」
■司会・進行
 高久健二(古代東ユーラシア研究センター研究員/専修大学教授)
■報告① 13:00~14:00
 鈴木靖民(横浜市歴史博物館館長)
 「日本古代史研究と東ユーラシア地域論」
■報告② 14:00~15:00
 金子修一(國學院大學教授)
 「東ユーラシア地域論と東アジア世界史論」
■報告③ 15:00~16:00
 飯尾秀幸(古代東ユーラシア研究センター代表/専修大学教授)
 「研究プロジェクトの総括と今後の課題」
■質疑応答 16:00~17:00

3)調査報告
国内調査記録

氏   名 リサーチ・アシスタント 李東奎
用 務 地 群馬県高崎市
用 務 先 漆山古墳・高崎市周辺の遺跡
出張日程 2018年9月3日(月)~2018年9月8日(土)
出張報告  

 群馬県高崎市下佐野町字蔵王塚に所在する漆山古墳について、規模、構造、築造時期等を解明するために、発掘調査をおこなった。当該地域は渡来系文化が集中する地域であり、そのなかでも当該古墳は山ノ上碑に記された佐野屯倉と関連する古墳として知られている。この発掘調査によって、渡来系文化を受容した当該地域の古墳文化の解明につながるものと期待される。あわせて、当該地域の渡来系文化と関連する遺跡の踏査もおこなった。

氏   名 センター客員研究員 伊集院葉子
用 務 地 栃木県下野市・群馬県高崎市
用 務 先 しもつけ風土記の丘資料館・甲塚古墳・かみつけの里博物館・保渡田古墳群
出張日程 2019年1月30日(水)~2019年1月31日(木)
出張報告  

 日本の古墳時代前期には、古墳被葬者の性別から、女性首長が一般的に存在していたことが知られているが、古墳時代中期以降から7世紀末の律令国家建設の時期に至るまでの首長層男女の政治的役割については、不明の部分が多い。今回は、栃木県下野市の甲塚古墳から出土した機織形埴輪と盛装女子埴輪、群馬県高崎市の保渡田古墳等にみられる女子埴輪を実見し、地方におけるマツリゴトもしくは儀礼の場を形象したとみられる場での女性像を調査したことにより、政治の場での女性の役割を考察することができた。

氏   名 リサーチ・アシスタント 李東奎
用 務 地 長野県長野市・佐久市
用 務 先 長野市立博物館・大室古墳群
出張日程 2019年2月4日(月)~2019年2月6日(水)
出張報告  

 本プロジェクトの研究対象の一つである「朝鮮半島からの渡来人とその渡来人が日本列島に形成したコミュニティの研究」を具体的に推進するために、渡来系遺物が多く出土している長野県長野市や佐久市での資料調査を行った。主には北信地域と東信地域において出土した資料を中心に調査し、新資料を入手することができた。また、現地研究者との意見交換を行い、当該地域における渡来系文化の受容過程の実態を把握することができた。

海外調査記録

氏   名 ポスト・ドクター 髙橋和雅
用 務 地 アメリカ合衆国(イリノイ州シカゴ市)
用 務 先 ハロルド・ワシントン図書館、シカゴ歴史博物館リサーチセンター
、エヴァンストン歴史センター、マックスウェル・ストリート跡地
出張日程 2018年12月10日(月)~2018年12月25日(火)
出張報告  

 アメリカ合衆国は、多様な移民の継続的な流入を受けて存立してきた国家である。本調査では、その中でも有数の「移民都市」として発展してきたシカゴに赴き、史料収集・史料精査を行なった。具体的には、ハロルド・ワシントン図書館、シカゴ歴史博物館リサーチセンターなどの各研究機関を訪れ、20世紀前半の移民地域に関する史料を掘り下げた。結果、シカゴの地域事例を通して、改めて「人流」と「交錯」の諸相を検討することができ、その意味で有意義なリサーチとなった。

4)2018年度活動記録
2018年

 4月2日 ポスト・ドクター辞令交付
  事務ならびにポスト・ドクター、勤務体制と研究体制の確認
 4月17日 第1回運営小委員会
   内容 今年度の研究計画、及び予算支出計画の確認
      第1回シンポジウムのテーマ・報告者の確認
      リサーチ・アシスタント1名を候補者として提案
 4月24日 第1回センター会議
   議題①前年度研究活動報告
     ②今年度の研究体制
     ③研究スケジュールについて
     ④最終報告書の作成について
     ⑤その他
 7月1日 リサーチ・アシスタント辞令交付
 7月3日 第2回運営小委員会
   内容 第1回シンポジウムの進行の確認
      当初計画されていた国内調査の実行延期
      リサーチ・アシスタントの李東奎の高崎市調査の承認
      ポスト・ドクターの髙橋和雅の米国調査の承認
 7月10日 第2回センター会議
   議題①第1回シンポジウム及び研究会準備・当日の役割分担
     ②その他
 7月14日 第1回 シンポジウム 神田校舎2号館302教室
 7月15日 第1回研究会 神田校舎7号館782教室
 9月3日 国内出張(9月8日まで)
   リサーチ・アシスタント 李東奎
   出張先 群馬県
 11月6日 第3回運営小委員会
   内容 第2回シンポジウムの進行の確認
      『年報』の構成について
      国内調査について
 11月13日 第3回センター会議
   議題①第2回シンポジウム及び研究会準備・当日の役割分担
     ②『年報』の作成について
     ③最終報告書について
     ④その他
 11月17日 第2回 シンポジウム 神田校舎2号館302教室
 12月10日 海外出張(12月25日まで)
   ポスト・ドクター    髙橋和雅
   出張先 アメリカ合衆国
 12月13日 第4回運営小委員会
   内容 現センターの後継組織設立について

2019年

 1月22日 第5回運営小委員会
   内容 後継計画書提出の承認
 1月30日 国内出張(1月31日まで)
   センター客員研究員   伊集院葉子
   出張先 栃木県・群馬県
 2月4日 国内出張(2月6日まで)
   リサーチ・アシスタント 李東奎
   出張先 長野県
 2月7日 第2回研究会 神田校舎7号館771教室
   第三者委員会「日本古代史・中国古代史・考古学からみた東ユーラシ ア地域論の現在」
   外部審査者に本センター5年間の研究概要の説明
 3月12日 第6回運営小委員会
   内容 5年間の研究総括と後継プロジェクトの立ち上げの確認