専修大学社会知性開発研究センター / 古代東ユーラシア研究センター
古代東ユーラシア世界の人流と倭国・日本

2017年度 活動記録

古代東ユーラシア研究センター 2017年度活動報告

 専修大学社会知性開発研究センター内の一組織として開設された、古代東ユーラシア研究センターにおいて申請していた「古代東ユーラシア世界の人流と倭国・日本」は、2014年度に文部科学省によって「私立大学戦略的研究基盤形成支援事業」として選定された。本年度はこの事業の4年目となる。
 本学は、中国の西北大学に所蔵されて間もない2004年に、日本の遣唐留学生であった「井真成」の墓誌を同大学と共同で発見・確認した。この墓誌の発見は日中両国の研究者に大きな衝撃を与え、2005年1月には両大学の共同プロジェクトとして国際学術シンポジウムなどを開催した。今日までこの墓誌は多くの研究を蓄積し、それらは本研究プロジェクトの目指す留学生の交流に絞っての東アジア世界における構造研究の基盤となっている。
 また、2007年度~2011年度にかけて東アジア世界史研究センターを立ち上げ、文部科学省によって「私立大学学術研究高度化推進事業」(オープン・リサーチ・センター整備事業)として選定された研究プロジェクト「古代東アジア世界史と留学生」に5年間取り組んだ。この研究プロジェクトでは、公開講座(6回)・シンポジウム(4回)・研究会(6回)を開催し、その成果として「東アジア世界史研究センター年報」(第1号~第6号)を刊行し、公表してきた。加えて、唐・新羅・日本・渤海の交通関連の年表と史資料とをリンクさせたデータ「古代東アジア世界史年表」(西暦581年~926年)をホームページ上に公開することにより、「東アジア世界史研究」の一拠点として、研究機関・研究者だけでなく、広く社会にその成果を発信してきた。
 前近代の諸地域は、それぞれの国家がそれぞれの目的をもって交流し、様々な文化・文物・情報の流入を期待した。これら交流の「移植者」「媒介者」として大きな役割を果たしたのが「渡来者」「渡来者集団」であった。渡来者である「唐人」「新羅人」「渤海人」「崑崙人」「胡国人」「林邑人」などに焦点を当て、彼らが日本列島各地に形成したネットワークを含め、その<人流と土着>化の歴史的経緯や意義を明らかにすべく当センターは本研究プロジェクトを立ち上げた。そして、これまで培ってきた「東アジア世界史」という研究成果に立脚し、新たに「東ユーラシア」という地域概念を措定することによって、従来の日・中・朝以外の地域を包摂する体制とした。このプロジェクトはこうした問題関心にもとづき、①隋・唐からの来日外国人、②朝鮮半島からの渡来人と彼らが日本列島内に形成したコミュニティーの研究、③ベトナムなど周縁国からの来日外国人とその伝来文化、④中世・近世における来日外国人の伝来文化など4つの柱を中心とし、それぞれについて共同研究者が担当し、研究・分析を進める体制をとった。また同時に、国内外の研究者と交流し、若手研究者を育成すること、研究成果をシンポジウム・刊行物を通して公開することによって、研究・教育を推進する体制を目指すこととした。
 このプロジェクトの運営のために、古代東ユーラシア研究センターでは「古代東ユーラシア研究センター委員会」を設け、各研究テーマについての計画を策定し、進行状況を検討している。研究代表は、古代東ユーラシア研究センター代表として委員会での議論を主導し、各研究テーマの進捗状況と今後の計画について必要な調整を行うとともに、古代東ユーラシア研究センターの上部機関である社会知性開発研究センターに報告し、承認を得る役割を果たしている。また、各研究テーマのリーダーを中心に「古代東ユーラシア研究センター運営小委員会」並びに研究代表者の補佐として事務局長を置き、各研究テーマと関連した事務の円滑な進行を期している。
 各研究者は研究を進めるとともに、研究成果の発表をするために開かれるシンポジウム。研究会、および年報等の編集を分担し、古代東ユーラシア研究センター委員会において適宜進捗状況を報告している。
 以上のような研究体制を土台にして古代東ユーラシア研究センターでは研究活動を行い、今年度は、その成果をシンポジウムの開催(2回)により、広く公開した。それらを主たる内容にした『年報』を発行する。また、研究推進の補助的役割として若手研究者の育成のためにポストドクター・リサーチアシスタント(研究補助員)を採用することとした。
 また、研究環境の整備として、研究に不可欠である史料および文献の調査と収集・整理を進めるべく、5年間を通して、日本・中国・韓国の文献史料の収集・整理に努め、それに関する図書・備品類の購入を進めている。
 具体的な研究活動としては、東ユーラシアの地域で人々がどのように移動および活動していたのかを、渡来人の定住をテーマとする考古学の領域から検討した。その成果を第1回のシンポジウムで明らかにした。また、前近代の東ユーラシアにおける人流・物流の状況を明らかにする試みの一環として、ベトナム人研究者を交え、日越の交流史の検討に当たった。その成果は第2回のシンポジウムで広く公表した。それらは本『年報』に掲載されている。加えて、同テーマの研究推進のため、研究員、ポストドクター、リサーチアシスタントを海外および国内調査に派遣し、史資料の検討を進めた。特に海外調査にあたっては、事前に研究会を催し、ベトナム国内の発掘状況や日本史研究状況についての理解を深めた。
 また、若手研究者の育成については、リサーチアシスタントを2名、ポストドクターを1名採用して研究を進展させる機会を提供した。
 シンポジウムについては、第1回目を7月15日に開催し、過去最多となる382名の参加者を得ることができた。この盛況により、改めて、本プロジェクトへの関心の高さをうかがい知ることができた。内容としては、弥生時代から古墳時代までの渡来人の動向を考古学の専門的見地から検証・検討するものであり、「古墳時代の渡来人―西と東―」と題して、武末純一氏(福岡大学)、亀田修一氏(岡山理科大学)、土生田純之氏(専修大学)の報告が行われた。
 第2回目は11月18日に開催された。「ベトナム・日本の交流よりみた前近代東ユーラシア」と題された本シンポジウムでは、ファム・ホン・フン氏(ベトナム国家大学ハノイ人文社会科学大学)、ダン・ホン・ソン氏(ベトナム国家大学ハノイ人文社会科学大学)、ファン・ハイ・リン氏(ベトナム国家大学ハノイ人文社会科学大学)の報告が行われた。参加者は76名を数え、前近代における日本とベトナムの交易のあり様について、報告者であるベトナム人研究者とフロアとの間で積極的な議論が展開された。
 本プロジェクトは今年度で4年目を迎え、プロジェクトの研究成果をまとめる時期となった。東ユーラシアという広く、また大きなテーマ設定ではあるものの、関係諸氏によるご協力のもと順調に研究を進めることができた。その成果として、シンポジウム・研究会の開催、『年報』の刊行、海外・国内調査の実施など、企画することができた。これまでの活動成果に今年度の成果を加え、来年度以降、プロジェクトを円滑に進めることができればと思っている。

1)2017年度シンポジウム
2017年7月15日(土)専修大学神田校舎 参加者382名
第1回シンポジウム「古墳時代の渡来人―西と東―」
■司会・進行
 高久健二(古代東ユーラシア研究センター研究員/専修大学教授)
■趣旨説明 13:00~13:10
 飯尾秀幸(古代東ユーラシア研究センター代表/専修大学教授)
■講演① 13:10~14:10
 武末純一(福岡大学教授)
 「日韓交流と渡来人―古墳時代前期以前―」
■講演② 14:10~15:10
 亀田修一(岡山理科大学教授)
 「古墳時代の渡来人―西日本―」
■講演③ 15:30~16:30
 土生田純之(古代東ユーラシア研究センター研究員/専修大学教授)
 「古墳時代の渡来人―東日本―」
■討論 16:40~17:30

2017年11月18日(土)専修大学神田校舎 参加者76名
第2回シンポジウム「ベトナム・日本の交流よりみた前近代東ユーラシア」
■司会・進行 
 高久健二(古代東ユーラシア研究センター研究員/専修大学教授)
■趣旨説明 13:00~13:10
 飯尾秀幸(古代東ユーラシア研究センター代表/専修大学教授)
■講演① 13:10~14:10
 Phạm Hoàng Hưng(ファム・ホン・フン)
 (ベトナム国家大学ハノイ人文社会科学大学講師)
 「ベトナムにおける日本前近代史研究」
■講演② 14:10~15:10
 Dang Hong Son(ダン・ホン・ソン)
 (ベトナム国家大学ハノイ人文社会科学大学講師)
 「ベトナムにおいて発掘された17世紀の肥前焼き物」
■講演③ 15:30~16:30
 Phan Hai Linh(ファン・ハイ・リン)
 (ベトナム国家大学ハノイ人文社会科学大学准教授)
 「象を通じてみた越日交流」
■討論 16:40~17:30

2)2017年度研究会
2017年11月19日(日)専修大学神田校舎7号館 782教室 参加者9名
第1回研究会「ベトナムにおける日本近現代史研究の成果と課題」
■司会・進行 
 高久健二(古代東ユーラシア研究センター研究員/専修大学教授)
■報告① 10:00~11:00
 Phan Hai Linh(ファン・ハイ・リン)
 (ベトナム国家大学ハノイ人文社会科学大学准教授)
 「ベトナムにおける越・日交流史研究の概要」
■報告② 11:00~12:00
 Dang Hong Son(ダン・ホン・ソン)
 (ベトナム国家大学ハノイ人文社会科学大学講師)
 「ベトナム考古学の成果と課題」
■報告③ 12:00~13:00
 Phạm Hoàng Hưng(ファム・ホン・フン)
 (ベトナム国家大学ハノイ人文社会科学大学講師)
 「ベトナムにおける日本字研究の成果と課題」
■質疑応答 13:30~14:00 

2017年12月19日(火)専修大学生田校舎3号館 会議室 参加者8名
第2回研究会「ベトナム調査にむけて」
■司会・進行
 高久健二(古代東ユーラシア研究センター研究員/専修大学教授)
■報告 16:50~17:50
 奈良竜一(古代東ユーラシア研究センター リサーチ・アシスタント)
 「ホイアン、ミーソン、タンロン、ルイロウ遺跡の概要」
■質疑応答 17:50~18:20

3)調査報告
国内調査記録

氏   名 センター研究員 飯尾秀幸
    高久健二
    田中禎昭
    土生田純之
  センター客員研究員 福島大我
  ポスト・ドクター 多田麻希子
用 務 地 群馬県高崎市、前橋市
用 務 先 金井遺跡群(金井下新田遺跡など)・群馬県埋蔵文化財調査事業団
出張日程 2017年8月2日(水)
出張報告  

 本研究センターの重要な研究対象の一つである日本列島への渡来系の人々の定住に関して、貴重な資料を提供している金井遺跡群(主に金井下新田遺跡など)の発掘現場を、現地の発掘担当者による案内を受け、古代集落の構造(特に先住の人々と渡来系の人々との関係など)について、土生田・高久・田中・福島・多田・飯尾研究員との討論を行った。
 また群馬県埋蔵文化財調査事業団においては、この遺跡及び関連遺跡からの出土物を調査し、当事業団の研究者と上記研究員との間で、渡来系関連の遺物、及びその特徴について意見交換し、当地における渡来人の位置づけを中心から周縁の視点から検討した。

海外調査記録

氏   名 センター研究員 飯尾秀幸
    高久健二
    田中禎昭
    土生田純之
    湯浅治久
  センター客員研究員 西澤美穂子
    福島大我
  ポスト・ドクター 多田麻希子
  リサーチ・アシスタント 奈良竜一
用 務 地 ベトナム(ホイアン、ハノイ)
用 務 先 ホイアン歴史文化博物館・ミーソン遺跡・タンロン遺跡・
ルイロウ遺跡・ベトナム国家大学人文社会科学大学ハノイ校 
出張日程 2017年12月26日(火)~2017年12月30日(土)
出張報告  

 本研究センターが懸案としていた研究対象に「ベトナムなど周縁国からの来日外国人とその伝来文化」がある。今回はそれを推進するため、ベトナム中部ホイアン及び北部ハノイにおいて資料調査を行うことができた(参加者10名)。調査地は、ホイアンでは、ミーソン遺跡、ホイアン日本人町、ホイアン歴史文化博物館、貿易陶磁博物館、サーフィン文化博物館、ハノイでは、タンロン遺跡、ルイロウ遺跡などである。ルイロウ遺跡においては、ベトナム国家大学人文社会科学大学ハノイ校講師であるダン・ホン・ソン氏による案内を受け、発掘調査中の後漢時代の塼室墓の構造とその特徴について説明を受けた。また、ベトナム国家大学人文社会科学大学ハノイ校を訪問し、同大学東洋学部及び歴史学部の教員との意見交換を行い、今後、連携して研究を行っていくことの重要性を再確認することができた。

4)2017年度活動記録
2017年

 4月1日 ポスト・ドクター、リサーチ・アシスタント辞令交付
  事務ならびにポスト・ドクター、リサーチ・アシスタント、勤務体制と研究体制の確認
 4月18日 第1回運営小委員会
   内容 今年度の研究計画、及び予算支出計画の確認
      第1回シンポジウムのテーマ・報告者の確認
 4月25日 第1回センター会議
   議題①今年度の研究事業計画
     ②中間報告書の作成について
     ③今年度の予算支出計画
 7月4日 第2回運営小委員会
   内容 第1回シンポジウムの進行の確認
      群馬県金井遺跡群調査計画策定
 7月11日 第2回センター会議
   議題①第1回シンポジウム準備・当日の役割分担
     ②今後の方針について
 7月15日 第1回 シンポジウム 神田校舎2号館302教室
 8月2日 日帰り出張
   センター研究員     飯尾秀幸
               高久健二
               土生田純之
               田中禎昭
   センター客員研究員   福島大我
   ポスト・ドクター    多田麻希子
   出張先 金井遺跡群(金井下新田遺跡など)、
     群馬県埋蔵文化財調査事業団
 11月7日 第3回運営小委員会
   内容 第2回シンポジウムの進行の確認
      『年報』の構成について
      ベトナム調査の日程について
      来年度の研究員
 11月14日 第3回センター会議
   議題①第2回シンポジウム及び研究会準備・当日の役割分担
     ②『年報』の作成について
     ③今後の方針について
 11月18日 第2回 シンポジウム 神田校舎2号館302教室
 11月19日 第1回研究会 神田校舎7号館782教室
 12月19日 第2回研究会 生田校舎3号館302教室
 12月26日 海外出張(12月30日まで)
   センター研究員     飯尾秀幸
               高久健二
               土生田純之
               湯浅治久
               田中禎昭
   センター客員研究員   西澤美穂子
               福島大我
   ポスト・ドクター    多田麻希子
   リサーチ・アシスタント 奈良竜一
   出張先 ベトナム(ホイアン、ハノイ)

2018年

 1月23日 第4回運営小委員会
   内容 来年度の事業計画について
      来年度の研究員確定、及びRA・PD募集について
 3月14日 第5回運営小委員会
   内容 本年度の研究の総括、及び来年度の研究計画について