専修大学社会知性開発研究センター / 古代東ユーラシア研究センター
古代東ユーラシア世界の人流と倭国・日本

2015年度 活動記録

古代東ユーラシア研究センター 2015年度活動報告

 専修大学社会知性開発研究センター内の一組織として開設された、古代東ユーラシア研究センターにおいて申請していた「古代東ユーラシア世界の人流と倭国・日本」は、2014年度に文部科学省によって「私立大学戦略的研究基盤形成支援事業」として選定された。本年度はこの事業の2年目となる。
 本学は、中国の西北大学に所蔵されて間もない2004年に、日本の遣唐留学生であった「井真成」の墓誌を同大学と共同で発見・確認した。この墓誌の発見は日中両国の研究者に大きな衝撃を与え、2005年1月には両大学の共同プロジェクトとして国際学術シンポジウムなどを開催した。今日までこの墓誌は多くの研究を蓄積し、それらは本研究プロジェクトの目指す留学生の交流に絞っての東アジア世界における構造研究の基盤となっている。
 また、2007年度~2011年度にかけて東アジア世界史研究センターを立ち上げ、文部科学省によって「私立大学学術研究高度化推進事業」(オープン・リサーチ・センター整備事業)として選定された研究プロジェクト「古代東アジア世界史と留学生」に5年間取り組んだ。この研究プロジェクトでは、公開講座(6回)・シンポジウム(4回)・研究会(6回)を開催し、その成果として「東アジア世界史研究センター年報」(第1号~第6号)を刊行し、公表してきた。加えて、唐・新羅・日本・渤海の交通関連の年表と史資料とをリンクさせたデータ「古代東アジア世界史年表」(西暦581年~926年)をホームページ上に公開することにより、「東アジア世界史研究」の一拠点として、研究機関・研究者だけでなく、広く社会にその成果を発信してきた。
 前近代の諸地域は、それぞれの国家がそれぞれの目的をもって交流し、様々な文化・文物・情報の流入を期待した。これら交流の「移植者」「媒介者」として大きな役割を果たしたのが「渡来者」「渡来者集団」であった。渡来者である「唐人」「新羅人」「渤海人」「崑崙人」「胡国人」「林邑人」などに焦点を当て、彼らが日本列島各地に形成したネットワークを含め、その<人流と土着>化の歴史的経緯や意義を明らかにすべく当センターは本研究プロジェクトを立ち上げた。そして、これまで培ってきた「東アジア世界史」という研究成果に立脚し、新たに「東ユーラシア」という地域概念を措定することによって、従来の日・中・朝以外の地域を包摂する体制とした。このプロジェクトはこうした問題関心にもとづき、①隋・唐からの来日外国人、②朝鮮半島からの渡来人と彼らが日本列島内に形成したコミュニティーの研究、③ベトナムなど周縁国からの来日外国人とその伝来文化、④中世・近世における来日外国人の伝来文化など4つの柱を中心とし、それぞれについて共同研究者が担当し、研究・分析を進める体制をとった。また同時に、国内外の研究者と交流し、若手研究者を育成すること、研究成果をシンポジウム・刊行物を通して公開することによって、研究・教育を推進する体制を目指すこととした。
 このプロジェクトの運営のために、古代東ユーラシア研究センターでは「古代東ユーラシア研究センター委員会」を設け、各研究テーマについての計画を策定し、進行状況を検討している。研究代表は、古代東ユーラシア研究センター代表として委員会での議論を主導し、各研究テーマの進捗状況と今後の計画について必要な調整を行うとともに、古代東ユーラシア研究センターの上部機関である社会知性開発研究センターに報告し、承認を得る役割を果たしている。また、各研究テーマのリーダーを中心に「古代東ユーラシア研究センター運営小委員会」並びに研究代表者の補佐として事務局長を置き、各研究テーマと関連した事務の円滑な進行を期している。
 各研究者は研究を進めるとともに、研究成果の発表をするために開かれるシンポジウム、研究会、および年報等の編集を分担し、古代東ユーラシア研究センター委員会において適宜進捗状況を報告している。
 以上のような研究体制を土台にして古代東ユーラシア研究センターでは研究活動を行い、今年度は、その成果をシンポジウムの開催(今年度2回)により、広く公開した。それらを主たる内容にした『年報』を発行する。また、研究推進の補助的役割として若手研究者の育成のためにリサーチ・アシスタント(研究補助員)を採用することとした。
 また、研究環境の整備として、研究に不可欠である史料および文献の調査と収集・整理を進めるべく、5年間を通して、日本・中国・韓国の文献史料の収集・整理に努め、それに関する図書・備品類の購入を進めている。
 具体的な研究活動は、東ユーラシアの地域で、人びとがどのように移動していたのかを、唐代のソグド人の移住、馬具の内陸アジア・朝鮮半島・日本列島での展開を視点に歴史学・考古学の分野から検討を加えた。その成果を第1回のシンポジウムで明らかにした。また、古代史の動向を叙述するために東ユーラシアという地域概念は有効か否かという、本センターの中心的課題の一つに対して、2年目の時点での到達点についての確認を行った。その成果は第2回のシンポジウムで広く公表した。それは本『年報』に掲載されている。加えて、同テーマの研究推進のため、研究員・リサーチ・アシスタントを国内調査に派遣し、史資料の調査・検討に当たった。この調査に伴い、研究会を企画して日本列島への渡来人と、その社会について議論を深めた。
また、若手研究者の育成については、リサーチ・アシスタントとして4名を採用して研究を進展させる機会を提供した。
 シンポジウムについては、第1回目は7月18日に、214名という多くの参加者を得て開催することができた。内陸アジア史と、内陸アジアから日本列島にいたる馬具の変遷というそれほど「馴染み」がないテーマではあったが、この盛況によって本プロジェクトへの関心の高さをうかがうことができた。このシンポジウムは「古代東ユーラシアにおける『人流』」と題して、石見清裕氏(早稲田大学)、堀哲郎氏(宮城県栗原市教育委員会)、張允禎氏(韓国・慶南大学校)の報告が行われた。
 また第2回目は11月7日に開催され、参加者は195名であった。このシンポジウムでは、東ユーラシアという地域を一つの概念として把握するために本センターにおいて一つの視点として考えている「古代東ユーラシアにおける中心と周縁」をテーマに掲げた。このテーマに沿って、川本芳昭氏(九州大学)、田中史生氏(関東学院大学)の2報告を得た。
 これら2回にわたってのシンポジウムに関しては、本『年報』に論文・討論として公表されている。
 また、センター研究員・リサーチ・アシスタントによる国内調査は、日本列島への渡来と、彼らが形成した社会状況についての検討を目的としたものであった。調査場所の岡山県では、鬼ノ城跡・新山寺跡、秦廃寺、足守庄荘園関連遺跡、備中国分寺跡、造山古墳、千足古墳、榊山古墳、楯築弥生墳丘墓、兵庫県では、伊和神社、斑鳩寺、鵤庄などであった。またそれに加えて、現地で専門的な研究を続けておられる、亀田修一氏(岡山理科大学)、今津勝紀氏(岡山大学)、古市晃氏(神戸大学)、坂江渉氏(兵庫県立歴史博物館ひょうご歴史研究室)を交えて、研究会を開催し、この問題に対する理解を深めた。なお、この国内調査の詳細については、来年度の『年報』3号(2017年3月発行予定)に掲載することになっているので、少しお待ちいただきたい。
 本プロジェクトは今年度で2年目を迎え、初年度が年度半ばでの採択決定という困難な状況下であったことと比べれば、極めて順調に研究を進めることができた。その成果として、シンポジウム・研究会の開催、『年報』の刊行、国内調査の実施など、企画することができた。これまでの活動成果に今年度の成果を加え、来年度以降、プロジェクトを円滑に進めることができればと思っている。

1)2015年度シンポジウム
2015年7月18日(土)専修大学神田校舎 参加者214名
第1回シンポジウム「古代東ユーラシアにおける『人流』」
■司会・進行
 高久健二(古代東ユーラシア研究センター研究員/専修大学教授)
■趣旨説明 13:00~13:10
 飯尾秀幸(古代東ユーラシア研究センター代表/専修大学教授)
■講演① 13:10~14:10 
 石見清裕(早稲田大学教授)
 「ユーラシアの民族移動と唐の成立―近年のソグド関係新史料を踏まえて―」
■講演② 14:10~15:10
 堀哲郎(宮城県栗原市教育委員会)
 「日本列島への馬の導入と馬匹生産の展開―東日本を中心に―」
■講演③ 15:30~16:30
 張允禎(韓国・慶南大学校教授)
 「古代東ユーラシアの馬文化―モンゴル・中国・韓国を中心に―」
■討論 16:40~18:00

2015年11月7日(土)専修大学神田校舎 参加者195名
第2回シンポジウム「古代東ユーラシアにおける中心と周縁」
■司会・進行
 高久健二(古代東ユーラシア研究センター研究員/専修大学教授)
■趣旨説明 13:00~13:10
 飯尾秀幸(古代東ユーラシア研究センター代表/専修大学教授)
■講演① 13:10~14:10
 川本芳昭(九州大学教授)
 「東アジア古代における『中華』と『周縁』についての試論」
■講演② 14:20~15:20
 田中史生(関東学院大学教授)
 「国際交易と列島の北・南」
■討論 15:30~17:00

2)2015年度研究会
2015年7月16日(木)専修大学生田校舎9号館 ゼミ95G 参加者14名
第1回研究会「古代東ユーラシアにおける馬具」
■司会・進行
 高久健二(古代東ユーラシア研究センター研究員/専修大学教授)
■報告 16:30~17:30
 張允禎(韓国・慶南大学校教授)
 「中国・内モンゴルにおける馬具の変遷について」
■質疑応答 17:30~18:00 

2016年1月26日(火)専修大学生田校舎6号館 社会知性開発研究センター 参加者10名
第2回研究会「岡山渡来人関連遺跡研究の動向」
■司会・進行
 高久健二(古代東ユーラシア研究センター研究員/専修大学教授)
■報告① 13:30~14:00
 鈴木広樹(古代東ユーラシア研究センター/リサーチ・アシスタント)
 「吉備・播磨における渡来系資料の概要」
■報告② 14:00~14:30
 山田兼一郎(古代東ユーラシア研究センター/リサーチ・アシスタント)
 「瀬戸内海沿岸における古代地域史研究の紹介」
■質疑応答 14:30~14:40

2016年2月4日(木)サントピア岡山総社 会議室 参加者13名
第3回研究会「吉備・播磨の渡来人(1)」
■司会・進行
 高久健二(古代東ユーラシア研究センター研究員/専修大学教授)
■報告 18:00~19:00
 亀田修一(岡山理科大学教授)
 「古代の吉備―対外交流を中心に―」
■質疑応答 19:00~20:00

2016年2月5日(金)姫路キャッスルグランヴィリオホテル 会議室 参加者13名
第4回研究会「吉備・播磨の渡来人(2)」
■司会・進行
 高久健二(古代東ユーラシア研究センター研究員/専修大学教授)
■報告① 17:00~18:00
 古市晃(神戸大学准教授)
 「古代国家形成期の王権と地域社会」
■報告② 18:00~19:00
 坂江渉(兵庫県立歴史博物館ひょうご歴史研究室研究コーディネーター)
 「古代播磨の地域社会構造と倭王権の地域支配―『播磨国風土記』の神話を素材にして―」
■質疑応答 19:00~19:30

3)調査報告
国内調査記録

氏   名 センター研究員 土屋昌明
用 務 地 京都府
用 務 先 禅文化研究所・京都国立博物館 
出張日程 2015年11月28日(土)~2015年11月29日(日)
出張報告  

 禅文化研究所では、唐代の禅語録である『祖堂集』を解読するために、その後継である『景徳傳灯録』を閲覧した。『祖堂集』は新羅の僧の語録を収め、その僧たちは編集にも深く関わっているため、唐代の東ユーラシアにおける人的、宗教的な問題を検討した。また、京都国立博物館蔵の東ユーラシア関連文物を観覧し、研究視野を広げた。

氏   名 センター研究員 高久健二
  リサーチ・アシスタント 鈴木広樹
用 務 地 京都府
用 務 先 龍谷大学深草校舎
出張日程 2016年1月9日(土)~2016年1月11日(月) 
出張報告  

 本出張では、日韓の考古学研究者が共同で行う研究会へ参加し、最新の研究成果の把握と資料収集を主な目的とした。特に4~5世紀代における日韓の土器生産やそれにかかわる集落のあり方や日韓の鉄生産をテーマとする研究会を通じて、当時の列島に伝播した朝鮮半島系文化および渡来人の実態を把握し、研究視野を広げるとともに、各研究者と活発な意見交換を行うことができた。

参 加 者 センター研究員 飯尾秀幸
    荒木敏夫
    高久健二
    湯浅治久
    土生田純之
    川上隆志
  リサーチ・アシスタント 山田兼一郎
    多田麻希子
    鈴木広樹
    奈良竜一
用 務 地 岡山県・兵庫県
用 務 先 岡山市・総社市・姫路市
出張日程 2016年2月4日(木)~2016年2月6日(土) 
出張報告  

 本研究の主たる研究対象の一つである「朝鮮半島からの渡来人と彼らが日本列島内に形成してコミュニティの研究」を推進するために、今回は、古代の渡来人集団の居住地の一つである岡山県と兵庫県において資料調査を行った。主に岡山市、総社市、姫路市一帯の渡来系要素をもつ古墳(造山古墳、楯築弥生墳丘墓等)、山城(鬼ノ城)、集落跡などを踏査するとともに、古代末~中世に展開した備前国足守荘や播磨国鵤荘の精察を通して、朝鮮半島文化受容のための移植・媒介者である渡来者・渡来者集団の〈流動と土着〉化の歴史的経緯の検討を行った。また、備中・備前・播磨地域における渡来系文化に関する研究会を開催し、吉備・播磨地域研究を牽引する研究者である亀田修一(岡山理科大学)・坂江渉(兵庫県立歴史博物館)・今津勝紀(岡山大学)・古市晃(神戸大学)の諸氏との意見交換を行うことができたのも、大きな成果である。

氏   名 リサーチ・アシスタント 山田兼一郎
用 務 地 福岡県・長崎県
用 務 先 福岡市・太宰府市・対馬市 
出張日程 2016年2月15日(月)~2016年2月20日(土)
出張報告  

 古代における日本国内の「人流」「物流」の最前線である福岡県博多市、太宰府市の資料調査を実施した。具体的には、日本古代の外港として対外的機能の拠点である鴻臚館跡や大宰府跡・水城跡、列島内の防衛拠点である朝鮮式山城(大野城跡・基肄城跡)などを踏査するとともに、関連資料を保管する九州国立博物館・九州歴史資料館などで資料調査を行った。また、遺跡・遺物等に大陸の影響が色濃く残され、古代より海上通交の前線である対馬で遺跡の踏査を行った。

4)2015年度活動記録
2015年

 4月1日 リサーチ・アシスタント辞令交付
  事務ならびにリサーチ・アシスタント、勤務体制と研究体制の確認
 4月3日 第1回運営小委員会
   内容 今年度の各グループの研究計画及び研究分担の確認
      シンポジウム・研究会・研究調査出張の計画
      第1回シンポジウムの準備及びその進捗状況
 4月7日 第1回センター会議
   議題①今年度の研究事業計画
     ②今年度の予算支出計画
 6月1日 リサーチ・アシスタント辞令交付
   内容 第1回シンポジウムと第1回研究会の概要報告
 7月14日 第2回センター会議
   議題①第1回シンポジウム準備・当日の役割分担
     ②研究会、シンポジウムについて
 7月16日 第1回研究会 専修大学生田校舎9号館ゼミ95G
 7月18日 第1回 シンポジウム 神田校舎2号館302教室
 10月20日 第3回運営小委員会
   内容 第2回シンポジウムの概要報告
      『年報』の構成についての打ち合わせ
 10月27日 第3回センター会議
   議題①第2回シンポジウム準備・当日の役割分担
     ②『年報』の作成について
     ③今後の方針について
     ④予算執行状況の報告
     ⑤京都出張の確認
 11月7日 第2回 シンポジウム 神田校舎2号館302教室
 11月28日 国内出張(11月29日まで)
   センター研究員     土屋昌明
   出張先 京都府
 12月8日 第4回運営小委員会
   内容 岡山・兵庫研究調査の日程と第2回研究会開催の確認
      『年報』の進捗状況の確認
      国内出張の確認

2016年

 1月9日 国内出張(1月11日まで)
   センター研究員     高久健二
   リサーチ・アシスタント 鈴木広樹
   出張先 京都府
 1月20日 第5回運営小委員会
   内容 来年度の研究計画
      2月の国内調査の概要報告
      『年報』入稿状況の確認
      予算執行状況の報告
 1月26日 第2回研究会 専修大学生田校舎6号館 社会知性開発研究センター
 2月4日 国内出張(2月6日まで)
   センター研究員6名、リサーチ・アシスタント4名
   出張先 岡山県・兵庫県
 2月4日 第3回研究会 サントピア岡山総社 会議室
 2月5日 第4回研究会 姫路キャッスルグランヴィリオホテル 会議室
 2月8日 第6回運営小委員会
   内容 福岡県・長崎県調査出張の確認
 2月15日 国内出張(2月20日まで)
   リサーチ・アシスタント 山田兼一郎
   出張先 福岡県・長崎県
 2月15日 国内出張(2月20日まで)
   リサーチ・アシスタント 鈴木広樹
   出張先 長崎県対馬市
 2月23日 第7回運営小委員会
   内容 今年度の研究総括
 3月10日 海外調査(3月15日まで)
   センター研究員     土屋昌明
               川上隆志
   出張先 中国福建省