専修大学文学部日本語学科

専大日語・コラム

専大日語の教員による、月替わりのコラムです。

2020年1月:PISAというテストについて聞いたことがありますか

PISAとは何か

今回は「PISA」の話題です。これはProgramme for International Student Assessmentの頭文字をとった略称で、日本語では「生徒の学習到達度調査」と呼ばれています。調査対象は15歳で、皆さんの中には、受けたことがあるという方がいるかもしれません。経済協力開発機構(OECD)が3年ごとに実施していて、「読解力」「数学的リテラシー」「科学的リテラシー」の能力を調査しています。今回は、この試験について紹介したいと思います。


「読解力の低下」

2018年に実施されたPISAの調査結果が、2019年12月に発表され、新聞やテレビのニュースで多く取り上げられました。たとえば、2019年12月4日の朝日新聞朝刊の一面トップには「「読解力」続落 日本15位」と書かれています。

このテストの結果は、日本の国語教育のあり方にも影響することがあります。2003年、2006年の調査の際には、読解力の順位が低いということで、文科省が「脱ゆとり教育」を始めるきっかけになったとも言われています。ただし、これについては、成績の下降は「ゆとり教育」のせいではないという意見もあります。

私は、いつもこのPISAの結果についてのマスコミの反応を見ると、どうして私たちは調査の順位結果だけを見て、こんなに過剰に反応してしまうのかなと残念に思います。以下がこれまでの日本の読解力調査結果の順位です。

表1 日本の読解力調査結果の経年順位

2000年 2003年 2006年 2009年 2012年 2015年 2018年
全参加国中の順位8位14位15位8位4位8位15位
全参加国31か国40か国57か国65か国65か国70か国77か国
全参加国中の順位の範囲3~10位12~22位11~21位5~9位2~5位5~10位11~20位
(「OECD生徒の学習到達度調査(PISA)2018年度調査国際結果の要約 表9から作成」)

2018年は77か国中の15位で、決して低い順位とは言えません。参加国は増えていますから、順位だけを追うのは不適切です。表1の順位の範囲というのは、平均得点の上位、下位の順位を示したもので、真の値がこの中に入るということを示しています。順位の範囲は11~20位ですから、11位の可能性もある、つまりこの順位には幅があるということです。日本は明らかに高得点グループです。実際、実施側は、2000年から2018年の結果を通して見て、日本の読解力は平均得点に統計的に有意な変化がない、と分析しています。日本は、常に順位が上昇していなければ気がすまないのでしょうか。

今回の1位は中国ですが、実は中国は、中国全土で参加しているわけではなく「北京・上海・江蘇・浙江」だけの地域参加です。日本は無作為に調査対象者を選定していますが、中国のように地域をかぎるというのは無作為ではありませんから、順位から外して考えた方がいいでしょう。ほかにも試験内容と各国の文化、実施方法、翻訳の問題など、国際的な調査であるだけに結果に影響する要素はいろいろあります。順位だけで読解力の優劣を判断するのはやめた方がいいと思います。


PISAから学ぶこと

PISAは世界的に実施されているので、この試験のやり方、問題内容、そして試験結果から学ぶことはいろいろあります。少し紹介します。

まず、実際の問題を見てみましょう。2018年の読解力試験は「ラパヌイ島」と題する1題しか公開されていません。ネットで見ることができますが、なかなか手強い問題です。この問題は全7問からなっていますが、その7問目は、以下のような問題です。

先に説明しておくと、問題にある三つの資料とは、「ある大学教授のブログ」「ジャレド・ダイアモンド著の『文明崩壊』の書評」と「サイエンスニュース」です。「ある大学教授のブログ」では、ラパヌイ島(別名イースター島)に大きな木がないことが指摘され、「『文明崩壊』の書評」では、モアイ像を動かすためと耕作のために土地を切り開いたことが述べられ、「サイエンスニュース」では、ネズミが木の種を食べたために新しい木が育たなかったことが述べられています。

問7

右のタブをクリックすると、それぞれの資料を読むことができます。下の問いの答えを入力してください。

 

三つの資料を読んで、あなたはラパヌイ島の大木が消滅した原因は何だと思いますか。資料から根拠となる情報を挙げ て、あなたの答えを説明してください。


気付かれましたか。これは自由記述式の問題なのです。こうした大規模試験で記述式問題を出すことに実施側の能力観、テスト観がうかがわれます。日本で記述式問題が避けられるのは、一つには採点が揺れる可能性が高いからですが、この調査の採点基準は細かく作られていて、記述式であっても、採点に揺れが出ないように考えられています。

採点基準を見ていて驚くのは、正答の一つに「どの説が正しいかという証拠はないので、もっと情報が集まるまで待つ必要があります」という答えがあげられていることです。受験者は、出題者の出題意図を忖度してしまうものです。論理的に考えれば「今の時点ではわからない」という答えも正しいですが、受験者、特に日本の受験者にとって、二つの説があげられている中で、「今の時点ではわからない」という答えを出すのはとても難しいというか、勇気のいることでもあると思います。


日本の15歳が苦手とするのは、こうした自由記述式の問題です。2006年の自由記述の問題では無答率が高いことが指摘されています。

(三枝令子)


<参考資料>
  1. 国立教育政策研究所「OECD生徒の学習到達度調査(PISA)[link]
  2. 東京大学大学院教育学研究科 教育研究創発機構(2006)「国際研究会プログラム 読解リテラシーの測定、現状と課題 ― 各国の取り組みを通じて」[PDF]

バックナンバー

バックナンバーのページへどうぞ。

トップに戻る