専大日語・コラム(特別号)
2019年4月:「令和」の「令」
2通りの書き方
新元号が「令和」だと発表されたとき、「「令」の字の書き方が議論になるだろうなあ」と思いました。
漢字「令」の書き方は、大きく分けるとすると、2通り見られます。一つは、(1)のように最終画を縦棒にする場合で、もう一つは、(2)のように最終の2画を片仮名の「マ」のようにする場合です。(1)は、新聞の活字やパソコンの明朝体フォントなどで使用されています。(2)は、小学校教科書の活字で使用され、手書きの場合にもよく見られます。
人によって意見が分かれる
じつは、漢字「令」は、どちらの書き方がよいのかということについて、人によって意識が大きく異なっている漢字なのです。
文化庁文化部国語課(当時)が発表した「平成26年度 国語に関する世論調査」の結果によると、(1)を適切とする人と(2)を適切とする人は、ほぼ拮抗しています。
- (1)だけが適切な書き方であると考える人 30.7%
- (2)だけが適切な書き方であると考える人 34.5%
- (1)も(2)も適切な書き方であると考える人 12.9%
つまり、漢字「令」は、その書き方について、意見が衝突する可能性がある漢字だったのです。
どちらの書き方が適切なのか
実際のところ、(1)と(2)のどちらの書き方が適切なのかというと、政府としては、「どちらも適切である」ということになるはずです。
この根拠は、「常用漢字表」の記述に求めることができます(漢字「令」は常用漢字でもあります)。「常用漢字表」では、(1)と(2)は「字体(文字の骨組み)としては同じ」であって、(1)と(2)の差は「明朝体の字形と筆写の楷書の字形との間」の違いと説明しています。
細かく見ると、じつは2通りだけではない
また、文化審議会国語分科会による「常用漢字表の字体・字形に関する指針(報告)」では、「領」「鈴」「令」「冷」など、漢字の構成要素に「令」が含まれる漢字の書き表し方の例を次のように示しています。
文化審議会国語分科会「常用漢字表の字体・字形に関する指針(報告)」から
漢字には骨組み(字体)があり、それを表現するときに多様な形(字形)になりうるのです。「令和」の書き方騒動は、漢字の書き方だけにとどまらず、学生たちが、認め合うべき多様性に目を向けるきっかけになればいいと願っています。
<参考文献>