第1章 選挙区

 第1節 総説

 スウェーデン公職選挙法第2章は、選挙区(valkrets)と題して、国会、地方議会およびヨーロッパ議会代表者選挙に関する選挙区と選挙区の区割り方法に関する規定を設けています。

 いうまでもなく、ここに選挙区(valkrets)とは、選挙を行う場合、一定の地域から一定数の議員を選出するために設けられた地理的区域のことですが、スウェーデン公職選挙法では、国会、地方議会選挙そしてヨーロッパ連合議会代表者選挙のそれぞれに別々の規定を設けています。以下、国会、地方議会およびヨーロッパ議会代表者選挙の選挙区について説明したいと思います。

 

 第2節 国会選挙の場合

国会選挙の場合、選挙区は、ストックホルム、ヨーテボルイ、マルメーなどの大都市の場合を除いて、一県一選挙区の割合で編成されていますが、現在、スウェーデン全国が29の選挙区に区割りされています。(公職選挙法第2章第1条)。国会選挙の場合の区割り変更は、国会において行われることになっています(統治法第3章第6条)。

スウェーデンの国会選挙の場合、一つの選挙区から複数の議員が選出される中選挙区制をとっていますが、中選挙区制による弊害は生じていません。前回のわが国において選挙制度が改正されたとき、中選挙区制は金権選挙の温床になるといって小選挙区制に変更されましたが、私は中選挙区制だからお金がかかるということはないと思います。制度が金を使うのではなく、金を使ってまで当選しようと思っている候補者がいるから選挙にお金がかかるのだと思います。中選挙区制でもお金がかからない選挙が行われている国があるということを知っておいて頂きたいと思います。

 次にスウェーデン国会選挙の場合の各選挙区名を列挙しておきますが、今回の公職選挙法の改正に際し、マルメーヒュース県、コッパルベルイ県の名称がスコーネ県、ダーラナ県と改称され更にこれまで独立の選挙区となっていたクリスチアンスタード県がスコーネ県北および東選挙区に統合される等、選挙区区割りに若干の変更が行われたことを指摘しておきたいと思います。尚、序でですが、スコーネ県とはスカンジナビア半島の一番最南端のところにある県ですが、その昔はデンマーク領であったところです。巨石古墳や船型列石等の古代遺跡が、たくさん残されているところでもあります。

スカンジナビア半島の最南端、コーサベルイに遺されて       ダーラナ地方の民芸品としてよく知られているダーラナ馬

いるスウェーデン最大の船型列石(skeppssättninga)。        1939年のニューヨーク万博において稚拙美が評価さ                         

ヴィーキング時代の豪族の墓として造られたものという。        れ世界的に名声を博したという。

またダーラナ県はその昔、ダーラナ地方と呼ばれていたところですが、バーサロップの発祥地としてもよく知られているところです。また、その昔、たくさん鉄鉱石がとれたところで、今でも当時の鉱業所跡が歴史博物館として残されています

 

 次に新しい公職選挙法に規定されている選挙区名を列挙しておきます。

  1.ストックホルムスコミューン選挙区

  2.ストックホルム県選挙区(但し、ストックホルムスコミューンを除くストックホルム県)

  3.ウップサラ県選挙区

  4.シェーデルマン県選挙区

  5.ウステルヨートランド県選挙区

  6.ヨーンチューピング県選挙区

  7.クロノベルイ県選挙区

  8.カルマル県選挙区

  9.ゴットランド県選挙区

 10.ブレーキンゲ県選挙区

 11.マルメー コミューン選挙区

 12.スコーネ県西部選挙区(ビューブ、エースリューブ、ヘルシンボルイ、ヘーガネース、ヘールビィー、ヘーエール、ランヅクローナ、スヴァリューブの各コミューン)

 13.スコーネ県南部選挙区(ビュールルーヴ、シェーヴリンゲ、ロンマ、ルンド、シューボー、スクループ、スタッファントルプ、スヴェダーラ、トレレボルイ、ヴェッリンゲエ、イースタードの各コミューン)

 14.スコーネ県北東部選挙区(ブローミュッラ、ボースタード、ヘッセルホルム、クリッパン、クリスチアンスタード、ウースビー、ペールストルプ、シムリスハムン、トメリッラ、オーストルプ、エンゲルホルム、エールシェルユンガ、ウストラ・ヨーインゲの各コミューン)

 15.ハッランド県選挙区

 16.ヨーテボルイスコミューン選挙区

 17.ブースレーンス選挙区(ヨーテボルイおよびヨーテボルイコミューンを除くブース県)

 18.エルヴスボルイ県北部選挙区(アッレ、アッリングスオース、ベングトフォッシュ、ダールスエード、フェルゲァンダ、ヘッルユンガ、レールム、リッラエーデット、メッレルウーデ、トロールヘッタン、ヴォールゴーダ、ヴェンエルスボルイ、オーモールの各コミューン)

 19.エルヴスボルイ県南部選挙区(ボッレビグド、ボーロース、マルク、スヴェンユンゲン、トラネモ、ウルリセハムンの各コミューン)

 20.スカーラボルイ県選挙区

 21.ヴェルムランド県選挙区

 22.エーレブロー県選挙区

 23.ヴェストマンランド県選挙区

 24.ダーラナ県選挙区

 25.エーヴレボルイ県選挙区

 26.ヴェステルノッルランド県選挙区

 27.エムトランド県選挙区

 28.ヴェステルボッテン県選挙区

 29.ノッルボッテン県選挙区

 

(註)

 原文によるスウェーデン国会選挙区名

1. Stockholms kommun,

2. Stockholms läns valkrets (Stockholms län med undantag av Stockholms kommun),

3. Uppsala län

4. Södermanlands län

5. Östergötlands län

6. Jönköpings län

7. Kronobergs län

8. Kalmar län

9. Gotland län

10. Blekinge län

11. Malmö kommun

12. Skåne läns västra valkrets (Bjuvs, Eslövs, Helsingborgs, Höganäs, Hörby, Hoors, Landskrona, och Svalövs kommuner),

13. Skåne läns södra valkrets (Brulövs, kävlinge, Lomma, Lunds, Sjöbo, Skurups, Staffanstorps, Svedala, Trelleborgs, Vellinge och Ystads kommuner)

14. Skåne läns norra och östra valkrets (Bromölla, Båstads, Hässleholms, Klippans, Kristianstads, Osby, Perstorps, Simrishamns, Tomelilla, Åstorps, Ängelholms, Örkelljunga och Östra Göinge kommuner)

15. Hallands län

16. Göteborgs kommun

17. Bohusläns valkrets (Göteborgs och bohus län med undantag av Göteborgs kommun)

18. Älvsborgs läns norra valkrets (Ale, Alingsås, Bengtsfors, DalsEds, Färgelanda, Herrljunga, Lerums, Lilla Edets, Melleruds, Trollhättans, Vårgårda, Vänersborgs och Åsmåls kommuner)

19. Älvsborgs läns södra valkrets (Bollebygds, Borås, Marks, Svenljunga, Tranemo och Ulricehamns kommuner)

20. Skaraborgs län

21. Värmlands län

22. Örebro län

23. Västmanlands län

24. Dalarnas län

25. Gävleborgs län

26. Västernorrlands län

27. Jämtland län

28. Västerbottens län

29. Norrbottens län. 

 

 第3節 県議会選挙の場合

 県議会選挙の場合、選挙区は、原則として、一コミューン一選挙区となっていますが、一つのコミューンにおける有権者総数が24,000人を超える場合、または一つのコミューンにおいて選出されるコミューン議会の議席定数が51人を超える場合、そのコミューンは複数の選挙区に分割されることになっています(公職選挙法第3章第6条第2項)。一つのコミューンが複数の選挙区に区割りされた場合、各選挙区は、それぞれ独立した選挙区として取り扱われることになっています(公選法第2章第6条第3項)。また、一つのコミューンから8議席相当数以上の議員を選出することができない場合、そのコミューンは他のコミューンと一緒に、一つの選挙区を編成することになっています。尚、選挙区の区割りを行う場合、一つの選挙区に含まれている各コミューン、各教区はそれぞれが境界を接するように配慮しなければなりません(公選法第2章第6条第2項第2号)。

 県議会選挙の場合、選挙区の区割り決定は、それぞれの県に所属するコミューンの意見を聞いた上で、県議会によって決定されます。県議会の行った選挙区区割り決定に対しては何人も異議の申し立てを行うことができません(公選法第2章第7条第1項)。県議会において選挙区区割り決定が行われた場合、区割り決定後、最初に行われる県議会選挙の実施される前の年の10月末日までに県選挙事務局に通知しなければなりません(公選法第2章第7条第2項)。

 県議会によって決定された選挙区区割りは、県行政府において承認を受けなければなりません。県行政府によって行われた決定に対しては、選挙審査委員会に対して異議の申し立てを行うことができますが、選挙審査委員会の決定に対しては、異議の申し立てを行うことができません(公選法第2章第7条第3項)。

 

 第4節 コミューン議会選挙の場合

 コミューン議会選挙の場合、選挙区は、一つのコミューン内の有権者総数が24,000人を超える場合、または当該コミューンにおいて選出されるコミューン議会の議席定数が51議席を超える場合、コミューンは複数の選挙区に区割りされます。また一つのコミューン内の有権者総数が6,000人を超える場合、もしくは特別の事情がある場合、コミューンを二つ以上の選挙区に分割することもできます。 但し、一つのコミューンを複数の選挙区に分割する場合、一つの選挙区から最低15議席相当数以上のコミューン議会議員を選出することができるように区割りしなければなりません。また、コミューン議会選挙の選挙区を複数の選挙区に分割する場合、教区境界線にそって区割りが行われるよう配慮しなければならないことになっています(公選法第2章第9条)。

 一つのコミューンが複数の選挙区に区割りされた場合、それぞれの選挙区は、県議会選挙において、独立の選挙区とみなされことになっています(公選法第2章第6条第3項)。

 コミューン議会の選挙区区割りは、コミューン議会によって決定され、その決定が行われた後、最初に実施されるコミューン議会選挙の行われる前の年の10月末日までに公示され、県行政府の承認を得なければなりません(公選法第2章第11条第2項)。コミューン議会において行われた選挙区区割り決定に対しては異議の申し立てを行うことができません(公選法第2章第11条第1項)が、県行政府の決定に対しては、選挙審査委員会に対して異議の申し立てを行うことができます。但し、選挙審査委員会の行った決定に対しては、異議の申し立てを行うことができません(公選法第2章第11条第3項)。

 

 第5節 ヨーロッパ議会代表者選挙

 ヨーロッパ議会代表者選挙は5年目毎に行われることになっていますが、ヨーロッパ議会代表者選挙はスウェーデン全国をもって一つの選挙区として選挙が行われることになっています(公職選挙法第3章第1条第1項)。尚、スウェーデンに割り当てられているヨーロッパ議会の代表者定数は全部で22名となっています。


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