第2章 選挙区の議席定数

 

 第1節 総説

 スウェーデン公職選挙法第3章は、選挙区議席(valkretsmandat)と題して、国会、県議会およびコミューン議会の議席定数と議席定数の決め方を規定しています。ここに議席定数とは、わが国の公職選挙法第4条に規定されている議員定数のことですが、スウェーデン公職選挙法の場合、まず、最初に議席ありきで、選挙に際し、予め、それぞれの議会の議席数が決定され、決定された議席数に応じて当選議員が選出される仕組みになっています。したがってスウェーデン公職選挙法では、議員定数とはいわずに、議席(mandat)という表現が用いられています。

 選挙に先立って、選出される議員総数が予め確定されていることは、どこの選挙の場合も変わりがありませんが、スウェーデンの場合、更に選出される議席総数が、事前に、つまり選挙の前に各選挙区に割り当てられる議席数と選挙が終わった段階で、それぞれの政党が全選挙区において取得した得票数によって各政党に割り当てられる議席数に区分されています。スウェーデン公職選挙法では、前者の議席を固定選挙区議席と呼び、後者の議席を調整選挙区議席と呼んでいます。但し、コミューン議会選挙の場合、調整議席というものはありません。以下、国会、県議会およびコミューン議会の議席定数(議員定数)と議席定数の決め方を説明したいと思います。

 

 第2節 国会の議席定数

 スウェーデンの国会の議席定数は全部で349議席から成り立っています。そしてそのうち310議席が固定選挙区議席、39議席が調整議席となっています(統治法第3章第1条第2項)。前にも述べたように、固定選挙区議席とは、選挙の始まる前に、スウェーデン全国、29の選挙区にそれぞれの有権者の総数に応じて割り当てられている議席のことですが、調整議席は選挙が終わって段階で、スウェーデン全国において各政党が取得した得票数に応じて、それぞれの政党に配分される議席のことをいいます。固定選挙区議席および調整議席がどのような方法で各政党に配分されて行くかということは、議席配分のところで説明することにして、ここでは、選挙の始まる前に、事前に、各選挙区に配分される固定選挙区議席の割り当て方法について説明したいと思います。

 各選挙区に対する固定選挙区議席の割り当て配分は次のような方法によって行われます。

 まず、最初にスウェーデン全国における有権者総数を固定選挙区議席310で割ります。そしてでてきた答えで、それぞれの選挙区の有権者総数を割ります。割り算は小数点以下2位まで行われますが、小数点以下の端数はカットされ、でてきた正の部分の数がその選挙区の最初の固定選挙区議席数となります(公職選挙法第3章第2条第2項)。

 しかし、固定選挙区議席の配分に際し、少数点以下の端数がカットされて計算されていますので、よほどのことがない限り、310議席全部が第一回目の議席配分で配分されてしまうということはありません。必ず、未配分議席が生じてくるはずです。そうするとまたこの未配分議席をどこかの選挙区に割り振らなければならないことになりますが、この未配分議席数は、第一回目の議席配分を行ったとき、小数点2位まで計算されていますので、その端数の一番大きな選挙区に未配分議席が割り当てられることになります。未配分議席が複数残っている場合、その端数の大きい選挙区から順次、一議席ずつ配分されてゆくことになっています(公職選挙法第3条第3項)。未配分議席の配分に際し、端数の同じ選挙区がでてきた場合、その優先順位は抽選によって決められることになっています(公職選挙法第3章第2条第3項)。

尚、固定選挙区議席配分は、遅くとも選挙の実施される年の4月末日までに中央選挙庁によって決定されることになっています(公職選挙法第3章第2条第1項、第10条)。なおその場合、有権者の総数は通知簿台帳法(lagen (1995:743) om aviseringsregister)に規定されている通知簿台帳に登録されている選挙の行われる前年の11月1日現在の有権者名簿を基準にして計算されることになっています(公職選挙法第3章第2条第4項)

次に今年の国会選挙において各選挙区に配分される固定選挙区議席数の一覧表を掲載しておきます。尚、この一覧表はスウェーデン国税庁のホームページに掲載されていたものを借用したものです。

 

 

 

 第3節 県議会の議席定数

 県議会の議員定数は、地方自治法第5章第1条に規定されている基準に従って、県議会によって決定される(公職選挙法第3章第4条)。因みに、地方自治法第5章第1条第2項の規定によれば、県議会区の有権者総数が14万人未満の場合、最低限、31人以上の議員を、有権者の総数が14万人以上、20万人未満の場合には、最低限、51人以上の議員を、そして有権者総数が20万人を超えている場合には、最低限、71人以上の議員を選出しなければならないことになっています(地方自治法第5章第1条第2項)。但し、ストックホルム県議会の場合、有権者総数が30万人を超える場合、101人以上、県議会議員を選出しなければならないことになっています(地方自治法第5章第1条第3項)。

 県議会において県議会議席定数を決定する場合、議席定数の上限については特に別段の制限が設けられていないが、議席定数は常に奇数をもって決定しなければならないことになっています(地方自治法第5章第1条第2項)。

 県議会の議員定数は、遅くとも選挙の行われる年の4月30日までに確定しておかなければならない(公職選挙法第3章第10条)。各県議会の議員定数は、統一地方選挙の行われる前年の11月1日現在の通知簿台帳に登録されている有権者数を基準にして決定される(公職選挙法第3章第6条第3条)。

 それぞれの県議会において議員定数を決定する場合、同時にまた固定選挙区の議員定数と調整議員定数を決定しておかなければならない。県議会の固定選挙区の議員定数は、公職選挙法第3章第5条第2項の規定によって、県議会議員定数の10分の9と定められている(公職選挙法第3章第5条第2項前段)。固定選挙区議員定数の計算に際し、剰余数がでた場合、その剰余数はカットされ、正数に相当する数が固定選挙区の議員定数となる。そして総議員定数から固定選挙区議員定数を差し引いて残った数が残余議席数が調整議席の議員定数となる(公職選挙法第3章第5条第2項後段)。

 県議会において固定選挙区の議員定数と調整議員数が決定されたとき、次に各選挙区に配分される固定選挙区の議員定数の計算が行われる。各選挙区に対する固定選挙区議員の割り当て計算は次の方法をもって行われる。

 まず、最初に県議会全選挙区における有権者総数を固定選挙区議席総数をもって除し、更にそこで得られた商の数をもって各選挙区の有権者総数を除して、得られた答えをもって当該選挙区の固定選挙区議員定数とする。

   つまり県議会全選挙区の有権者総数÷固定選挙区議員定数=X

   各選挙区の有権者総数÷X=各選挙区の固定選挙区議員定数となる。 

 但し、各選挙区の有権者総数をXで除したとき、小数点以下の端数が生じた場合、その端数はカットされ、正数に相当する数だけの議席が配分される。尚、その際、未配分の固定選挙区議席が残された場合、その議席は、第1次固定選挙区議席配分の際にカットされた小数点以下の剰余数の一番大きい選挙区から順次、一議席ずつ配分されてゆくことになる。尚、複数の選挙区において、その剰余数が同じ場合、抽選をもってその配分優先順位が決定される。

 

 第4節 コミューン議会の議席定数

 コミューン議会の議員定数は、各コミューンのコミューン議会によって決定される(地方自治法第5章第1条第1項)。但し、コミューン議会の議員定数は、それぞれのコミューンの有権者総数が12,000人未満の場合、31人、有権者総数が12,000人以上、24,000人未満の場合には、41人、有権者総数が24,000人以上、36,000人未満の場合には、51人、有権者総数が36,000人を超える場合には、最低61人の議員を選出しなければならない。但し、ストックホルムコミューンの場合に101人以上でなければならないと定められている(地方自治法第5章第1条第1項、第2項)。コミューン議会の最高議席数は決めらていない。したがって、コミューン議会の最高議員定数は、それぞれのコミューン議会において決定されることになっている。

 コミューン議会において、コミューン議会の議員定数が決定された場合、コミューン議会はその旨を県行政府に報告しなければならない。コミューン議会から報告を受けた県行政府は、一つのコミューンが複数の選挙区に分割されている場合、選挙の行われる年の4月末日までに、それぞれの選挙区毎に当該選挙区において選出される議員定数を確定しなければならない。

 各選挙区毎の議員定数は、まず、最初に、全コミューンにおける権者総数を、当該コミューン議会において決定されている議員定数で除し、得られた答えをもってそれぞれの選挙区の有権者の総数を割ります。そして出てきた答えの正数の部分に相当する数をもって当該選挙区の議員定数と定める(公選法第2章第10条)。但し、その場合除算は、小数点以下二位まで行われる。配分される議席に余りが生じた場合の剰余議席の割り当てに使用されることになっているからでスウェーデン。即ち、剰余議席がある場合、各選挙における議員定数の決定に際し行われた除算において剰余数の多い選挙区から、順次、一議席ずつ割り当てられてゆく。コミューン議会の場合、特に調整議席数は定められていません。

 第5節 ヨーロッパ議会代表者の定数

 ヨーロッパ議会代表者の定数はヨーロッパ議会で決められることになっていますが、現在スウェーデンに割り当てられている議席は22議席となっています。

 


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