『勸修寺縁起』
(上略)
かの南山科の大領の跡をば。寺になされけり。今の勸修寺これ也。この寺。いまだ造はじめざりける時。渤海國の使。斐裘と((璆))いふ人。この國にわたれりけるが。越州つるがの津につきて。山科をめぐりて。羅城門へゆくとて。南山のかげ道をとをりけるが。馬よりをりて。北にむかひて。拜してとをりけるを。人そのこゝろをしらず。あやしびて問ければ。渤海客申しけるは。此處にちかく伽藍いでき侍べし。地形龜の甲のごとし。佛法の命長久にして。貴人たゆべからず。このゆへに拜する也とぞ申ける。
(下略)