2026.03.20 Fri
経済学部経済学部での学び

経済学部での学び【現代経済学科】日本銀行の金融政策

専修大学経済学部 山中 尚 
マイナス金利政策の解除
 2024年3月19日、日銀が「マイナス金利政策」を解除しました。これはどんなことを意味しているでしょうか。日本経済は80年代のバブル経済とその崩壊を経験し、金融緩和政策を長く採用してきました。いわゆる日銀の非伝統的金融政策というものです。世界でインフレターゲット政策が主流になったことを受けて、日銀は2%の物価目標を掲げて緩和政策を続けてきました。
 現在は行き過ぎた緩和政策を修正し、低すぎる金利水準を徐々に引き上げていく金融政策を正常化する出口戦略が進みつつあります。銀行預金金利や住宅ローン金利がとても低い水準にあったことはみなさんもご存知と思います。わが国で長く金利水準全般が低位にあったのは、日銀の緩和政策によるものと理解できます。
 果たして日銀の金融緩和政策で日本経済は本当に景気回復できたのでしょうか。これは大変難しい問題ですが、まず金融政策の仕組みや効果を考えてみましょう。

日本銀行の金融政策
 日本の中央銀行である日銀は何をしているところでしょうか。日銀には、発券銀行、政府の銀行、銀行の銀行という3つの役割があるといわれます。
 まず、日銀は日銀法によって通貨を独占的に発行する権限を与えられています。また日銀は「政府の銀行」と呼ばれ、日本国政府の口座があり、さらに、日銀は銀行と様々な取引を行うので、「銀行の銀行」と言われます。物価の安定と信用秩序の維持、経済成長や国際収支の安定などを目標にして様々な金融政策を行っています。
 日銀が金融政策を行うときの政策目標は、物価の安定と金融システムの安定であり、日銀は、国債・手形などを売買するオペレーションを中心とする金融政策を行っています。日銀の伝統的金融政策には、次のようなものがあります。①債券・手形オペレーション(公開市場操作)、②準備預金の預け入れ率を操作する準備率操作、③貸出政策。
 わが国では金利の完全自由化が行われた1994年以降、金融市場の金利体系は、日銀の市中銀行への貸出金利である公定歩合には必ずしも連動しなくなり、日銀は1996年以降、原則として各種のオペレーションによって金融調節をきめ細かく行っています。日銀は、銀行同士が短期資金を互いに融通しあう市場の金利である無担保コール翌日物金利を政策金利として採用して政策運営を行っています。

日銀本店の写真日本銀行本店(日本銀行HPより)
金融政策の効果と波及メカニズム
 マクロ経済政策の目標には、①完全雇用の実現、②通貨価値の安定(物価の安定)、③マクロ経済の安定(景気循環・変動の安定)があり、さらに国際収支の均衡、為替レートの安定、金融システムの安定などが指摘されています。現在、世界各国の中央銀行が行う金融政策には総需要管理政策としてだけではなく、金融市場や決済システムの安定性を図り、金融危機を未然に防ぎ信用秩序を維持する信用秩序維持政策、預金者の保護などを目的とする預金保険制度など様々なミクロ的な政策が存在します。戦後一貫してわが国の金融行政において、金融機関を経営破綻しないようにする護送船団方式と呼ばれる各種の競争制限的な規制措置として、預金金利規制、業務分野規制、参入規制などが施されてきましたが、近年の金融自由化により撤廃されてきました。
 日銀が行う安定化政策としての金融政策による効果が(最終的な)政策目標に及ぶ経路は多段階のプロセスを通じて以下のように波及していくものと考えられています。

  [政策手段]⇒[操作目標]⇒[中間目標]⇒[最終目標]

 日銀が直接コントロール可能な「政策手段」には、公開市場操作、準備率操作、貸出政策などがあり、これらを操作することによって「操作目標」(銀行準備、マネーマーケット金利(コールレート)など)と呼ばれる経済変数に働きかけようとするものです。「操作目標」の変動を通じ、「中間目標」(マネーサプライ、貸出金利、銀行貸出など)の変数に政策発動の効果が波及し、最終的に「政策(最終)目標」である物価、完全雇用、経済成長、為替レートなどの経済変数に影響が及ぶとするのが標準的な考え方です。
非伝統的金融政策
 日銀は、1999年2月にはゼロ金利政策を開始し、操作目標を短期金融市場の無担保コールレートとしました。2013年4月にアベノミクスを支持する黒田氏が日銀総裁に就任し、本格的な緩和政策が始まりました。「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」と呼ばれた非伝統的金融政策のうち、長短金利操作とは、日銀当座預金の一部金利を動かす「短期金利操作」と長期金利(10年物国債利回り)を誘導する「長期金利操作」の双方を行うものです。前者の誘導水準がマイナス0.1%であった時期があり、これが「マイナス金利政策」と呼ばれるもので、政策金利をマイナスレベルに維持することで市場金利を引き下げることを目標にしていました。「量的緩和」とは、長期国債購入などで資金供給量残高(マネタリーベース)を増やすことを目標とするものです。「質的緩和」とは、リスク資産である上場投資信託(ETF)や不動産投資信託(REIT)を購入する政策を言います。これらとともに、「フォワードガイダンス(時間軸効果)」 といって、金融政策の方針を示す日銀のコミットメントも行われてきました。このような強力な緩和政策を継続することで家計や企業の期待インフレ率の上昇を導き、設備投資や消費の拡大を目指したのです。
 本論の冒頭で紹介したマイナス金利の解除がなされたのは、春闘による賃上げが実現し、物価と賃金の好循環が実現しつつあることも理由でしょう。当面は緩和政策を維持するものの、日銀はこれから徐々に金利水準を引き上げていくと考えられます。果たして日銀の政策スタンスは今後どのような影響を及ぼすのでしょうか。アメリカトランプ政権による一連の関税措置によって政策の不確実性が高まったことをうけて、日銀は難しい舵取りを要求されているのです。
 リーマンショック後、各国で非伝統的金融政策が導入され、日銀も同様の政策を継続したものの実現したのは円安と株高だけではないかとの否定的な指摘もあります。少子高齢化社会に突入し、深刻な人材不足の局面に入った日本経済は、供給制約下にあると評価されています。日本経済の潜在成長率を高めるのに、金融政策は果たしてどれほど貢献できるでしょう。1999年以降長く実施されてきた非伝統的金融政策のうち、特に2013年4月からとられた大規模緩和政策は長期停滞状態にあった日本経済にどれほど効果的であったのか、あるいは効果が無かったのでしょうか。黒田東彦総裁の後に日銀総裁に就任した植田和男氏は、就任1年後の2024年3月に量的・質的金融緩和を解除しました。その後徐々に政策金利を引き上げながら金融政策を正常化する方向へ進んでいます。
ETF売却開始
 2025年9月19日、日銀はかつての大規模金融緩和策のもと大量に購入してきたETF(上場投資信託)の売却を開始すると発表しました。市場に攪乱的影響を与えることを回避することとともに、日銀の損失を回避するという方針のもとでETF売却を行い、金融政策の正常化を一段と進めようとしているのです。一方、金融政策決定会合では政策金利を0.5%程度に据え置くことが決められました。日銀は、アメリカトランプ政権の関税措置で経済の先行きは不確実性が高いものとみなし、4会合連続で金融政策を維持してきました。その後、自動車への関税率が日米合意に基づいて15%に引き下げられるなど、関税措置の不透明感はいくぶん緩和されたものとはいえ、アメリカの関税措置による企業業績への影響を点検する必要があると判断したとみられます。
 供給制約経済に移行してインフレが常態化してきたいま、日本経済が初めて経験した非伝統的金融政策の効果と限界を再検討し、今後どのように金融政策を運営していくか、注意深く見守っていきたいものです。
最後に
 最後に参考文献をいくつか挙げておきましょう。金融政策を解説する専門書の他、手軽に入手可能な新書がたくさんあります。大学に入学したらこうした専門書にも是非チャレンジして下さい。また、(5)の論考は、元財務省事務次官が日本経済の抱える膨大な財政赤字に警鐘を鳴らすものとして注目されたもので、一読に値します。
参考文献リスト
(1)河合小百合『日本銀行:我が国に迫る危機』(講談社現代新書、2023)
(2)小林慶一郎『日本の経済政策』(中公新書、2024)
(3)田中隆之『金融政策の大転換』(慶應義塾大学出版会、2024)
(4)日本銀行ホームページ (www.boj.or.jp)
(5)矢野康治「財務次官、モノ申す」(文芸春秋、2021年11月号)
(6)湯本雅士『新・金融政策入門』(岩波新書、2023)

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