2022.05.18 Wed
CALL教室・外国語教育研究室TOPICS
外国語のススメ【第119回】翻訳とは難しく不完全なもの
国際コミュニケーション学部准教授 宮田 宗彦
(外国語教育研究室長)
(外国語教育研究室長)
(応用言語学〈第二言語習得・英語教育学〉)

我々が英語などの外国語で書かれた文章を理解しようとする時、大抵は、理解しようとしている文章を日本語に訳し、意味を取ろうとします。そして、日本語に訳そうとする時には、知らない単語やフレーズを辞書で調べ、文法を確認しながら、日本語で文章を組み立て直し、意味を理解しようとします。しかしこのような時、英語の大体の意味の予想はつくのだけれど、きちんと日本語にすることができない、またはなかなか日本語の訳がしっくりこない、という経験をしたことはないでしょうか。
外国語で書かれたものは寸分違わず翻訳できると一般的に信じられていますが、これは誤解であることがわかっています。実は、外国語で書かれたものをいくら正確に翻訳しようとしても、元の言語で発せられたメッセージを100パーセント完全に日本語にすることはできません。外国語の言葉や文章を理解しようとして、一生懸命翻訳しても訳がしっくりこないことがあったり、うまく日本語にできないことがあったりするのは当然なのです。言語学や翻訳学で、翻訳とはなぜこのように難しく、不完全なものなのかということについて、これまでさまざまなことが明らかにされてきましたが、その中で問題となるのは言語の恣意性です。
外国語で書かれたものは寸分違わず翻訳できると一般的に信じられていますが、これは誤解であることがわかっています。実は、外国語で書かれたものをいくら正確に翻訳しようとしても、元の言語で発せられたメッセージを100パーセント完全に日本語にすることはできません。外国語の言葉や文章を理解しようとして、一生懸命翻訳しても訳がしっくりこないことがあったり、うまく日本語にできないことがあったりするのは当然なのです。言語学や翻訳学で、翻訳とはなぜこのように難しく、不完全なものなのかということについて、これまでさまざまなことが明らかにされてきましたが、その中で問題となるのは言語の恣意性です。
たった一つの簡単な単語を訳そうとする時でさえ、この問題はついて回ります。例えば、英語の「water」は日本語では「水」と訳すのが一般的ですが、厳密にはwaterと水は同じものではありません。Pour water for tea. という場合は「水」ではなく、「湯」にしたほうがしっくりきますし、There is a lot of water in the air. という時には「水」ではなく「湿気」と訳したほうが日本語として正しい言い方でしょう。これは「water」の音声とそれが指示する意味が「水」のそれとは異なること、かつ「water」の音声と意味の結びつきが日本語の「水」に移行できないことから発生する問題です。つまり、翻訳とは、外国語で表現された意味の分析と解釈に伴って、その意味に最も近似する日本語の表現を訳出しなければならない困難で不完全な創作活動なのです。