2021.04.21 Wed
CALL教室・外国語教育研究室TOPICS
外国語のススメ【第109回】すごいリアルな文法
国際コミュニケーション学部教授 中村 政徳
(言語学〈比較統語論〉)

「規範文法」という表現を耳にしたことがありますか。何らかの権威によって「言語活動の正しい実践を目的に編まれた文法」(スーパー大辞林 3.0)を指します。「正しい日本語」や「正しい英語」などと言うときは、この種の文法が念頭に置かれています。規範文法に従っていないと、「学がない」と謗りを受けたりするかもしれません。
規範文法の観点から「乱れた日本語」としてしばしば槍玉に挙げられる「若者ことば」ですが、その代表選手が「ら抜き表現」(いくらでも食べれる)です。テレビでタレントが「食べれる」と発すると、ご丁寧にも字幕で「食べられる」と訂正される例のやつです。「ら抜き表現」が間違ったものとして認識されていることがわかります。
英語の規範文法にDon’t split your infinitives.(不定詞のtoと後続する動詞との間に何も挿入するな)というのがあります。しかし、テレビのSFシリーズ「スター・トレック」の冒頭では、エンタープライズ号の使命は、to boldly go where no man has gone before(誰も行ったことのない場所に勇敢に向かってゆくこと)とあります。
規範文法の観点から「乱れた日本語」としてしばしば槍玉に挙げられる「若者ことば」ですが、その代表選手が「ら抜き表現」(いくらでも食べれる)です。テレビでタレントが「食べれる」と発すると、ご丁寧にも字幕で「食べられる」と訂正される例のやつです。「ら抜き表現」が間違ったものとして認識されていることがわかります。
英語の規範文法にDon’t split your infinitives.(不定詞のtoと後続する動詞との間に何も挿入するな)というのがあります。しかし、テレビのSFシリーズ「スター・トレック」の冒頭では、エンタープライズ号の使命は、to boldly go where no man has gone before(誰も行ったことのない場所に勇敢に向かってゆくこと)とあります。
規則性について、日本語と英語を少し比較してみましょう。規範文法では、形容詞や動詞を修飾するのは副詞でなければなりませんが、最近は(若者を中心に)次のような発話を頻繁に耳にします。
(1) その映画はすごいいい。
(1)では副詞「すごく」の代わりに形容詞形「すごい」が使われています。興味深いことに、英語(主にアメリカ英語)でも同じようなことが起こってきています。
(2) The movie’s real good.
(2)では副詞reallyの代わりに形容詞形realが使われています。どんな形容詞でも副詞的に使えるかというとそうではありません。次の例を見てみましょう(*は当該言語で容認されないことを表す)。
(3) *その問題は等しい重要だ。
(3)では形容詞「等しい」ではなく、副詞「等しく」を使わなければなりません。
(4) *The issue is equal important.
同様に、(4)でも形容詞equalではなく、副詞equallyを使わなければなりません。
なぜ「すごい」やrealは副詞的に使えるのでしょう。「えらい(副詞形は、えらく)」やawful(副詞形はawfully)が同じように使えることを考えると、形容詞の副詞的用法には一定の規則があることが見えてきます。つまり形容詞的表現を強調する「強意語」 として機能する場合、副詞に加え、その形容詞形が用いられることがあるのです。
外国語を学ぶ際には、ことばにおける新用法の出現の裏には往々にして法則性があることを知っておくとよいでしょう。規範文法を超えて、実際に人々が使っている「すごいリアルな文法」を意識してみてはいかがでしょうか。面白い気付きがあるかもしれません。