2015.04.07 Tue
CALL教室・外国語教育研究室TOPICS

外国語のススメ【第55回】アラビア語を通して

経済学部兼任講師 小野 純一(アラビア語担当)
【第55回】アラビア語を通して
こんな一日は不自然ですか。朝はシュガーかシロップを入れてコーヒーを飲み(私は入れませんが)、昼下がりにシャーベットを食べ、カフェでマガジンをめくり、夜はソファでアルコールを飲む。そして、そういう現代生活を支えるために、アルジェブラ(代数学)やアルゴリズムが必要なことをあなたは知っている(やはり不自然な流れかな)。

ここに片仮名で書かれている10単語、アラビア語起源です。それを通して私はこう思います。我々の日常は、近代以前にアラビア語文化圏が生み出した豊かな物質文化や精神文化に支えられている。世界のどの言語、文化、国も、もちろんアラビア由来だけでなく、もっともっと多様な内なる他者で満ちていて、アイデンティティすら実は異他的なものから成立している。他なるものを受け入れることと、生とは切り離せない。ちなみに、珈琲はもはや私のアイデンティティの一部です(酒ではなく)。
アラビア語は、漢語やサンスクリットやラテン語と同様、世界中の言語に学術用語を提供してきた数少ない古典語です。長い間、ヨーロッパから、北アフリカ、中央アジア、中国、インドネシアまで、国際語として極めて重要な地位にありました。長大な時間と広大な空間が生み出した豊穣な知的財産を文字化した膨大な量のアラビア語文献があります。それを前にして、人は自分の無知や非力さを実感し、謙虚になり、そのような文化を生み出した営みに敬意を感じるでしょう。

語学の目的は、知識を増やすことだけではないのです。別の言語を少しでも学び、異文化の豊かさを知り、そこで獲得した新しい視点で、よく知っていると思いこんでいた母語や自国の文化を見つめなおすと、今までと違った新しい面が見えてきます。また、日本語や英語中心に世界を観ることで凝り固まった精神がほぐれ、自分の無知や世界の広さ多様さに気づかされ、自己認識も深まります。

異文化交流には、語学だけでなく、他者を受け入れる柔軟な精神や敬意が重要です。何しろ、交流を深めるとは、語学力を誇示することではなく、相手を知り共に生きることだからです。逆に、異なる言語や文化を学ぶことは、柔軟な心や様々な敬意を感じる心の細やかさを養う機会、自分とは異なる人や文化を敬う精神を磨く切っ掛けを与えてくれます。現在も国連と二十以上の国と地域の公用語であるアラビア語は、そういった無限の可能性へ無数の通路を現在形で開いています。一つの異言語を学ぶと、それは絶えず、学ぶ人を外に向けて視野を広げ、内には新しい風を起こしてくれるものなのです。

写真:「私の日常的非日常」香辛料入り珈琲と思想書
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