2014.05.07 Wed
CALL教室・外国語教育研究室TOPICS

外国語のススメ【第47回】都市の国イタリア

商学部 准教授 飯田 巳貴(商業史担当)
【第47回】都市の国イタリア
イタリア半島では5世紀後半から19世紀の半ばまで統一国家が形成されず、この間の約1400年間、大小様々な複数の国家が群雄割拠していた。こうした歴史的背景をもつイタリアでは、現在でも人びとの帰属意識は、国家よりも、全土で8,000以上ある「コムーネ」にある。コムーネは、「コミュニティー」の語源で、中世に北・中部イタリアで誕生した自治都市・都市国家を母体としている。
つまり「イタリア人」より、むしろ「ローマ人」「ミラノ人」といった帰属意識が非常に強いのだ。「自分がイタリア人だなあと実感するのは、ワールドカップサッカーでイタリア代表を応援する時だけ」というセリフもあるくらいだ。地元のサッカーチームに対する熱愛ぶりは強烈で、試合時間、どの家の窓からも試合の中継音声と歓声(あるいは悲鳴)が聞こえ、街角のバールでは街頭テレビの前に常連が陣取る。町の中央広場にはパブリックビューイングが設けられ、試合が勝利に終わると、街に繰り出して大騒ぎである(もちろん一切無関心な住民もいる)。

各コムーネは自立性が高く、各々の自然環境や社会システム、歴史が反映されている。当然コムーネの独自性は言語にも及ぶ。イタリア半島各地では方言(=地方語)が現代まで色濃く継承され、地方語辞書の出版も盛んである。筆者がかつて2年間留学生活を送ったヴェネツィアは、なかでも訛りが強い地域のひとつである。ヴェネツィア大学で日本語を専攻し、東北地方に留学したイタリア人によると、日本でいうズーズー弁に近い感じらしい。筆者はヴェネツィアでイタリア語会話を耳から習得したが、前述の友人に、「10年ぐらいヴェネツィアにいる人かと思った」と言われてしまった。

方言の使用程度は人によって異なるが、話し手の教育水準や家庭環境も影響している。イタリアは現代でも階級社会の伝統が強固に残り、例えば大学教授などは代々学者を輩出している家柄の出身者が多く、あまりきつい方言を使うことはない。とはいえ特に歴史学に関しては、コムーネを基盤とする、現代の基準でいうならば地方史が主体で、研究者も地元出身者が多い。私的な集まりなどでは、興が乗ってくると次第に方言が出る先生もいて、そうなると筆者の様な外来者は話についていけなくなる。またヴェネツィア名物のゴンドラ漕ぎは周辺の小島出身者が多く、大運河の「渡しゴンドラ」(庶民の足だが、混むと立ち乗りなので、慣れないと揺れて怖い)に乗る時などいくら耳をそばだてても聞き取れなかった。古文書館で読む中世の商人文書も、方言を基にした綴りで書かれていることが多く、字の書き癖とともに、未だ頭痛の種である。

写真:ヴェネツィアのサルーテ教会とプンタ・デッラ・ドガーナ(税関岬)
Copyright(C) 2014 Miki Iida