2019.01.21 Mon
CALL教室・外国語教育研究室TOPICS
外国語のススメ【第89回】「聖地巡礼」のすすめ
文学部教授 中垣 恒太郎(比較メディア文化研究)

『赤毛のアン』(Anne of Green Gables, 1908)の舞台となったカナダのプリンスエドワード島は人気の観光地であり、とりわけ日本からの訪問客が多いことで知られる。モデルになった家「グリーンゲイブルズ」には、アンをはじめマリラやマシューの部屋もあり、本当にアンの家に遊びに行っているような感覚を楽しむことができる。独特の赤土や緑豊かな光景、「輝く湖水」(Lake of Shining Waters)など街全体がさながらテーマパークであるかのようだ。2016年にようやくはじめて訪れることができたのだが、懐かしい場所を再訪しているかのような不思議な体験となった。
アニメのロケ地をめぐる「聖地巡礼」が地域振興など様々な観点から注目されているが、外国語学習においては私たちそれぞれが「聖地」を持つことができるかどうかが実はとても大事なことである。バイブルとなるほど特定の物語に深く入り込むことで、見知らぬ外国がより身近なことばや文化になる。様々な物語から私たちは人々の暮らしや心情、風景、社会のあり方や歴史、課題など数多くのことを学ぶことができる。どこかの誰かの物語に心を通わせることで人生のあり方を多様に捉えることもできる。グローバル化や多様性が声高に叫ばれる一方で、実はローカルな世界をめぐる様々な状況、人々の暮らしは見えにくくなっている面もある。人生のあり方は決して一様ではない。
海外の様々なことば、文化、歴史を学ぶことを通して私たちの身のまわりの世界を捉え直す視座を持つことも外国語を学ぶ重要な役割の一つである。外国旅行は大学生にとって簡単なことではないかもしれないが、大事な物語を持つことでいつか行ってみたいという想いを育むことも有効であろう。思い入れのある物語を在学中に持つことができるならば、将来、自分の足跡をふりかえる拠り所にもなる。様々な外国の物語に触れることで自分だけの「聖地」を見出していってほしい。