2018.05.18 Fri
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女性起業家について研究報告 商学部・鹿住教授 イランで国際ワークショップ
創業期企業家の企業家活動における社会ネットワーク活用と効果や、女性起業家の事業成長を研究している商学部の鹿住倫世教授(経営学、中小企業経営)が5月14日、イランで女性起業家に関する国際ワークショップに出席し、日本の女性起業家に関する調査報告を行った。ワークショップの概要について鹿住教授が報告する。
国際ワークショップ「女性起業家の挑戦と支援策-イランと日本」で研究成果報告
2017年からは、「女性の起業支援」にテーマを絞り、日本・イラン両国の女性起業家の実態と課題、支援策のベストプラクティス等について調査分析を行い、相互に評価と政策提言を行うことになった。私は、女性起業家研究の専門家として昨年8月からこのプロジェクトに参画している。このたび、この研究成果の公表と周知を行うため、「女性起業家の挑戦と支援策-イランと日本」国際ワークショップが開催された。
▲研究成果を報告する鹿住教授
次に調査結果の概要を報告した。調査に回答した女性起業家の平均年齢は約48歳で、54%が既婚、同居の子供がいる者は約半数であった。また最終学歴は短大・大学卒が47.6%を占め、同年代の女性より高学歴の傾向を示している。日本では女性の起業理由のトップが「ワークライフバランスの実現のため」であり、事業形態も89%が個人事業であった。他の調査結果を見ても、最近の起業は自宅をオフィスにして1人で個人事業を始めるケースが多く、今回の調査結果もその流れに沿ったものであった。なお、調査回答者の業種は、サービス業が55.7%、次いで小売業が11.7%と、サービス業が過半を占めている。
また、調査に回答した女性起業家は、「困難に対する忍耐力」や「成功に対する強い達成意欲」を持っていると自己評価しているが、「事業運営に対する自信」は相対的に低いことがわかった。起業に対して家族から何らかのサポートを受けている人は約20%にとどまっており、特に資金的支援や人脈の紹介といった支援をあまり受けていない。
女性の起業に対する社会的に認知についても、地域コミュニティには受け入れられているものの、日本の社会全般、あるいは金融機関や業界団体では、まだ受け入れられているとは言えない状況である。公的な起業支援策は数多く講じられているが、特に公的融資や出資などの支援制度は、女性起業家は数%しか活用していない。
▲報告に耳を傾ける参加者ら
日本も、労働力人口が減少し、失業率が低下しているにもかかわらず、30-49歳の育児期にあたる女性の労働力率が低下する「M字カーブ」は続いており、出産により労働市場から退出する女性がまだ多いことが課題である。そこで、ワークライフバランスを実現しつつ、女性が社会とかかわりを持って活躍できる在宅起業は、女性が活躍する社会の実現において重要な役割を果たすと期待される。
しかし両国とも、女性の起業に対する社会全般の認知や金融機関や業界団体などによる認知は、コミュニティにおける認知に比べて相対的に低い。家族のサポートをさらに得るためにも、女性の起業について理解を深め、起業活動の励みになる賞金を支給するような、「女性起業家コンテスト」の開催をイラン側に提案した。また、イランでは数多くの公的支援策が提供されているが、それらをもっと効果的に女性起業家に提供するため、非政府組織と行政のコラボレーションが重要であることを示唆した。
最後に、日本側も含め、家事・育児等の家庭責任と起業活動の両立を図るため、一層のICTの活用が重要であり、さらに起業後の仕事の獲得や他の女性起業家との協働の仕組みの提供が必要であるとの認識を述べた。
ワークショップの締めくくりとして、ワークショップに先駆けて行われた、本プロジェクトの運営委員会での討議結果を踏まえ、笹川平和財団会長の田中伸男氏から、女性の起業に関する日本-イラン両国の調査プロジェクトがさらに1年延長され、特にICTの活用と起業に焦点をあてて実施することが報告された。
関連情報
国際ワークショップ「女性起業家の挑戦と支援策-イランと日本」で研究成果報告
商学部 鹿住倫世
■女性起業家の実態と課題
2018年5月14日、イラン・テヘラン市にある国立図書館において、公益財団法人笹川平和財団とイラン副大統領府女性・家族省、イラン外務省の共催による、「女性起業家の挑戦と支援策-イランと日本」国際ワークショップが開催された。イランでは、2016年に制定された第6次5か年計画において、2020年までに指導的地位における女性の割合を30%に引き上げることを目標としている。この目標の実現により、イラン全国で女性の社会参加を促進することを目指している。笹川平和財団では、女性の社会参加の促進というテーマに賛同し、2016年から共同プロジェクトとして「女性のエンパワーメント」に取り組んでいる。2017年からは、「女性の起業支援」にテーマを絞り、日本・イラン両国の女性起業家の実態と課題、支援策のベストプラクティス等について調査分析を行い、相互に評価と政策提言を行うことになった。私は、女性起業家研究の専門家として昨年8月からこのプロジェクトに参画している。このたび、この研究成果の公表と周知を行うため、「女性起業家の挑戦と支援策-イランと日本」国際ワークショップが開催された。
冒頭、小林弘裕在イラン特命全権大使およびイラン外務省レザ・ナザラハリ二国間交渉局長からのご祝辞、また笹川平和財団茶野順子常務理事からの趣旨説明が行われた。続いて、イラン外務省のゴーラム・ホセイン・デグハニ法規・国際問題担当副大臣および、マスメ・エフテカール女性・家族問題担当副大統領からのキーノートスピーチをいただいた。
続いて、日本・イラン双方の女性起業家調査の結果報告が行われた。日本側の報告は鹿住が、イラン側の報告は、女性と若者の起業家活動開発財団のザヘラ・エムラニさんが行った。イランでは、女性起業家協会の会員約500名に対して調査を実施し、118件の回答を得ている。日本では、マクロミル社のウェブ調査により、女性創業経営者および自営業者309件の回答を収集した。
続いて、日本・イラン双方の女性起業家調査の結果報告が行われた。日本側の報告は鹿住が、イラン側の報告は、女性と若者の起業家活動開発財団のザヘラ・エムラニさんが行った。イランでは、女性起業家協会の会員約500名に対して調査を実施し、118件の回答を得ている。日本では、マクロミル社のウェブ調査により、女性創業経営者および自営業者309件の回答を収集した。

■日本 ー 「ワークライフバランスの実現」
まず、日本全体の起業に関する状況について、日本においては男女ともに起業活動が低調であるが、女性は男性よりさらに起業活動が不活発であること、経営者や自営業者に占める女性の割合は、正確な統計はないが概ね20%程度であることを説明した。次に調査結果の概要を報告した。調査に回答した女性起業家の平均年齢は約48歳で、54%が既婚、同居の子供がいる者は約半数であった。また最終学歴は短大・大学卒が47.6%を占め、同年代の女性より高学歴の傾向を示している。日本では女性の起業理由のトップが「ワークライフバランスの実現のため」であり、事業形態も89%が個人事業であった。他の調査結果を見ても、最近の起業は自宅をオフィスにして1人で個人事業を始めるケースが多く、今回の調査結果もその流れに沿ったものであった。なお、調査回答者の業種は、サービス業が55.7%、次いで小売業が11.7%と、サービス業が過半を占めている。
また、調査に回答した女性起業家は、「困難に対する忍耐力」や「成功に対する強い達成意欲」を持っていると自己評価しているが、「事業運営に対する自信」は相対的に低いことがわかった。起業に対して家族から何らかのサポートを受けている人は約20%にとどまっており、特に資金的支援や人脈の紹介といった支援をあまり受けていない。
女性の起業に対する社会的に認知についても、地域コミュニティには受け入れられているものの、日本の社会全般、あるいは金融機関や業界団体では、まだ受け入れられているとは言えない状況である。公的な起業支援策は数多く講じられているが、特に公的融資や出資などの支援制度は、女性起業家は数%しか活用していない。
■イラン - 「リスクをとってチャレンジしたい」
イラン側の調査結果で日本と大きく異なる点は、まず、女性起業家が非常に高学歴なこと(大卒31.4%、修士取得38.1%、博士取得12.7%)、個人事業よりも法人が多いこと、日本と同様にサービス業が41%と最も多いが、次いで製造業35%、IT分野が13%を占めていることなどが挙げられる。さらに、起業理由はイランでは「スキルや能力を身につけるため」が93%を占めており、次いで「リスクをとってチャレンジしたい」が80%弱を占めている点が大きく異なっている。事業経営全般に対する自信も高く、家族からも精神的なサポートを受けている者が多い。ロールモデルとなる先輩起業家が身近にいる人も、日本は10%程度なのに対し、イランでは34%に上っており、人脈形成や情報収集に役立っている。女性の起業に対する認知は、地域コミュニティでは十分に受け入れられているものの、業界団体などには相対的に受け入れられていないという結果であった。
また近年、日本政府や地方自治体で実施されている女性起業家支援策について、概要を紹介し、特に経済産業省が2016年から講じている「女性起業家等支援ネットワーク構築事業」について、スキームや支援プログラムの実例を示して詳しく説明した。
ワークショップでは、イランと日本で成功した女性起業家各1名に登壇していただき、ご自身の起業経験や事業内容について話していただいた。日本からは、小規模事業を起業した女性起業家向けのIT活用セミナーを年間200回開催し、web制作などを受託して在宅勤務のスタッフを活用して提供している、またたび企画株式会社の代表取締役池田範子さんが講演した。イラン側は、新しい米づくりの手法を農村に導入して農業経営分野で成功した女性起業家、シリン・パルシさんが講演した。
ワークショップでは、イランと日本で成功した女性起業家各1名に登壇していただき、ご自身の起業経験や事業内容について話していただいた。日本からは、小規模事業を起業した女性起業家向けのIT活用セミナーを年間200回開催し、web制作などを受託して在宅勤務のスタッフを活用して提供している、またたび企画株式会社の代表取締役池田範子さんが講演した。イラン側は、新しい米づくりの手法を農村に導入して農業経営分野で成功した女性起業家、シリン・パルシさんが講演した。
■女性が活躍する社会の実現へ
最後に、イランの社会・経済を研究している北海道大学の村上明子博士が、イランにおける女性の労働事情や、家族経営・インフォーマル経済が目立つイランの経済事情を踏まえ、両国の女性起業家の実情と課題を総括し、政策提言を行った。イランは人口構成が若く、若年労働者が多い。一方、経済状況は停滞し、若者の失業率が高いという状況にある。またイスラム教の伝統で女性は結婚すると家事や育児を担うという考え方が強く、女性の労働力率は全年齢で約16%、最も高い25-29歳でも25%程度にとどまっている。女性の失業率も20.7%と男性の約2倍と高い。一方、家族や親族が経営する事業におけるアンペイドワークや、内職的な仕事をしている人は多い。そのような状況で、高学歴の女性が活躍する場は公務員や非政府組織など限られており、起業によって女性が活躍する場や雇用が増大することに期待が高まっている。日本も、労働力人口が減少し、失業率が低下しているにもかかわらず、30-49歳の育児期にあたる女性の労働力率が低下する「M字カーブ」は続いており、出産により労働市場から退出する女性がまだ多いことが課題である。そこで、ワークライフバランスを実現しつつ、女性が社会とかかわりを持って活躍できる在宅起業は、女性が活躍する社会の実現において重要な役割を果たすと期待される。
しかし両国とも、女性の起業に対する社会全般の認知や金融機関や業界団体などによる認知は、コミュニティにおける認知に比べて相対的に低い。家族のサポートをさらに得るためにも、女性の起業について理解を深め、起業活動の励みになる賞金を支給するような、「女性起業家コンテスト」の開催をイラン側に提案した。また、イランでは数多くの公的支援策が提供されているが、それらをもっと効果的に女性起業家に提供するため、非政府組織と行政のコラボレーションが重要であることを示唆した。
最後に、日本側も含め、家事・育児等の家庭責任と起業活動の両立を図るため、一層のICTの活用が重要であり、さらに起業後の仕事の獲得や他の女性起業家との協働の仕組みの提供が必要であるとの認識を述べた。
ワークショップの締めくくりとして、ワークショップに先駆けて行われた、本プロジェクトの運営委員会での討議結果を踏まえ、笹川平和財団会長の田中伸男氏から、女性の起業に関する日本-イラン両国の調査プロジェクトがさらに1年延長され、特にICTの活用と起業に焦点をあてて実施することが報告された。
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