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2019.04.03()
専修大学CALL教室・外国語教育研究室TOPICS

外国語のススメ【第91回】ことばから文化を感じる

法学部准教授  八島 純

【第91回】ことばから文化を感じる

 英語の“I have a brother.”を日本語に訳す際に、「私には兄がいる」のか「私には弟がいる」のかがはっきりしなくて、もどかしく思ったことはないだろうか。このもどかしさの背後には英語圏と日本の文化の違いがあると考えられる。年齢という属性が重視される日本では、「兄」と「弟」が単語レベルで区別されるのに対し、英語圏では年齢の上下がそれほど重要視されないため、わざわざ別々の語彙が与えられていないのだろう。英語に「先輩」や「後輩」にぴったり対応する単語が存在しないのも同じ理由によると考えられる。
 
 他にも、日本語には「稲」「米」「ご飯」といった単語の区別があるが、英語ではriceの一語で済むといった違いがある。これは農耕文化の日本と狩猟文化の英語圏との食の違いに起因するのだろう。事実、英語は「米」に関しては細かい区別をしないが、「牛」に関しては、cow(雌牛)、bull(去勢していない雄牛)、ox(去勢した雄牛)、cattle(畜牛)、calf(仔牛)など、豊かな語彙をもつ。ちなみに、外来語として日本語の語彙の一部になっている「ビーフ」は牛肉全般を指すが、その語源である英語のbeefはveal(仔牛肉)と明確に区別される。兄弟や先輩・後輩の区別については無頓着であっても、牛の年齢の違いは気になるのかと思うといささか滑稽である。

 食文化の違いに関してもうひとつ。英語のcookは「料理する」と訳されることが多いが、cookと「料理する」には微妙な語義の違いがある。cookは火や熱を使用する調理に限られるので、調理の対象となるものが加熱を必要としない場合には用いることはできない。「料理する」も材料に手を加えて食べ物をこしらえる点では同じだが、必ずしも加熱調理に限られない。考えてみれば、和食は新鮮な食材そのものの味を活かした多様な調理法が特徴的で、加熱を一切行わないで生食をするものも多い。高級料亭であれ大衆的な居酒屋であれ、刺身や造りは最もポピュラーな献立であり、和食の花形的存在である。ユネスコ無形文化遺産にも登録されている和食。それが日本文化の重要な一部であることを、外国語に触れる中で改めて認識させられる。

写真:和食の代表・刺し身
(出典 Wikimedia Commons)
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