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2018.08.21()
専修大学経済学部経済学部での学びINFORMATION

経済学部での学びー経済学部の学問:実証モデルの有用性と必要性

専修大学経済学部 矢野貴之

 2017年1月に米国が離脱するなど紆余曲折がありましたが、2018年3月に11ヵ国の閣僚が「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定」(以下、TPPと表記)の合意文書に署名しました。TPPが実際に発効することによって、加盟11ヵ国間では品目のほとんどで関税が撤廃されて、より自由な貿易が実現されることになります。

 このTPPですが、日本が協定の交渉に参加することへの賛成と反対で、国内でも意見が大きく分かれました。両派の意見の一部は、次の通りです。賛成派は、貿易の自由化によって、日本からの製造品などを中心とした輸出品の価格が下落するため、輸出の増加を通じて経済成長が期待できると主張しました。一方、貿易の自由化によって外国からの輸入品の価格が下落するため、安価な外国産の農産品の輸入が増えると考えられます。反対派は、日本の消費者が国産よりも安価な外国産の農産品を多く購入するようになることが予想されることなどから、日本国内の農業が大きな打撃を受けると主張しました。

 賛成派も反対派も、TPPに参加することによって財(モノ)の価格が下落すると考えている点は同じですが、その後の議論の展開が異なっています。では、賛成派と反対派のどちらが正しいのでしょうか。両派が主張していることはどちらも起こりうることです。その意味では、どちらも正しいと言えます。では、日本はTPPに参加したほうがいいのでしょうか、それとも参加しないほうがいいのでしょうか。

 この質問へ答えるにあたって1つの指針を与えてくれるのが、経済の実証モデルになります。TPPへの参加・不参加を判断するには、TPPへの参加によって、製造業、農業、製造業や農業以外の産業における生産はどうなると予想されるのか、国全体で所得はどうなると予想されるのか、また物価はどうなると予想されるのかなど、TPP参加が産業レベル・国レベルで与えるであろう影響の方向性と大きさを知る必要があります。消費者や企業の行動がTPPへ参加しても変わらない(つまり、貿易自由化による価格の変化に直面しても自らの行動パターンは変えない)という仮定の下にはなりますが、経済の実証モデルを用いると、TPPに参加した時と参加しない時の経済の状態を表すことができます。そして、それらを比較することで、TPPへの参加がもたらすであろう産業レベルかつ国全体での影響を数値で明らかにすることができるのです。

 表は、米国を含む12ヵ国でのTPPと米国を含まない11ヵ国でのTPPがもたらす主な国での所得変化(TPPに参加しない場合からの変化)の計算結果をまとめたものです。この計算には、世界を29地域に分割し、各地域の経済を19産業に分割した実証モデルを用いています。日本についてみますと、どちらのTPPでも国全体では所得は増加するという結果になっています。よって、全体としてTPPは日本にプラスの影響をもたらすことになります。この意味では、日本がTPPに参加することには意義があると言えます。一方、米国についてみると、12ヵ国版のTPPではプラスの影響があるものの、11ヵ国版のTPPでは所得変化率はゼロですが所得水準の変化ではマイナスとなっているので、米国全体ではTPPに参加しないことがマイナスに作用すると予想されることが分かります。

 経済政策は薬と似たところがあって、政策が期待する効果と期待していない副作用が生じることが多々あります。その経済政策を施行するのが望ましいと判断するには、期待した効果と副作用の両方を考慮し、期待した効果が副作用以上に発揮されることが少なくとも求められます。こうした問題に1つの答えを導くのが経済の実証モデルなのです。まさに、経済政策を考える上で欠かせないツールと言えるでしょう。

 この経済の実証モデルは、これまでの経済学の知見に基づいて構築されます。実証モデルにおける消費者や企業など経済主体の行動を描くには、経済理論の知識が必要になります。また、実際のデータを使って実証モデルを具体化するには、統計学や計量経済学の知識が求められます。さらに、解決が必要な課題を見つけ、実証モデルを使ってその課題と政策を分析し、分析結果に基づいて課題への処方箋を検討する能力も必要です。専修大学経済学部では、経済理論、分析手法、現実の社会・経済、演習など多彩な科目を設置してカリキュラムを組んでいます。開講されている科目を系統だって履修することで、「課題発見・分析・分析結果に基づく解決策の提示」の一連のプロセスを遂行する能力を修得することができるでしょう。

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参考文献
Petri, Peter A., Michael G. Plummer, Shujiro Urata and Fan Zhai. 2017. “Going It Alone in the Asia-Pacific: Regional Trade Agreements without the United States.” PIIE Working Paper 17-10 (October). Washington, DC: Peterson Institute for International Economics.


 

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