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2015.09.01()
専修大学経済学部TOPICS経済学部での学び

経済学部の学問:環境を「保護」することが環境を壊す 経済学部教授 泉留維

経済学部教授 泉留維
 
みなさんの家の近くに、コナラなどの落葉広葉樹林を中心とした緑豊かな里山があるとします。ここの景観や自然環境を守るために皆さんならどうしたら良いと思いますか。人が立ち入って荒らさないように周りを柵で囲む、もしくはどんどん人に立ち入ってもらい利用してもらう、どちらでしょうか。答えは、後者となります。もちろん無条件で利用を促しては問題となりますが、一度でも人の手が入った自然は聖域のようにかたくなに保護すると、ササやタケが侵入し、見た目も悪くなり、生態系も単純化していきます。ただ、一昔前までは、里山から毎日の炊事や冬の暖房用の燃料、そして水田など肥料を採取するなどの利用が盛んに行われていましたが、それらはガスや化学肥料に取って代わられた今、里山にはどのような利用方法があるのでしょうか。
 
里山のような自然環境の保全において、これまで資源採取などの過剰利用をいかに防ぐかという視点で研究が進められてきましたが、近年、逆に過少利用をいかに防ぐかという視点の研究も増えてきています。資源採取ではない新たな利用として、里山のような人里に近い自然環境は、環境教育やレクリエーション目的での利用が希望されるようになっています。例えば、人々がウォーキングする道、フットパスを設置するようなレクリエーション目的としての利用を挙げることができます。自然環境を楽しむウォーカーが増えることで、周辺を下刈りするなどの整備が進められ、また自然に触れる機会が増えることで自然保全への関心を持つ人々が増えることも想定されます。では、フットパスとは具体的にどのようなものなのでしょうか。

環境を「保護」することが環境を壊す

イングランドのコッツウォルド・ウェイの標識 筆者撮影(2013‎年‎7‎月‎9‎日)
日本では、1990年代後半から2000年代にかけてフットパスを作ろうという動きが出てきました。域外からの訪問客を直接・間接に呼び込むことを想定していると同時に、「歩きながらの地域らしさの体感」を掲げ、当地に暮らす人々の生活と乖離せず、それらを包み込むものとして位置づけられています。筆者が調べた限りでは、少し前の2013年3月末時点で、全国に少なくとも70あり、総延長は2,961kmとなっています。フットパスの本場と言えるイングランドの総延長18万8,700km(2007年)には遠く及びませんが、この10数年での進捗は目を見張るものがあります。地域別にみると、圧倒的に多いのが北海道で、全体の65%以上となる47のフットパス、総延長は1,681kmとなっています。
北海道にあるフットパスの中でも、もっとも北海道らしいと言えるのは根室市にある根室フットパスでしょう。根室フットパスは、厚床パス、初田牛パス、別当賀パスの3コース(計42.5km)があり、それぞれJRの駅を起点に5戸の牧場を繋ぐことを意識して整備されています。それぞれコースには特徴があり、たとえば、厚床パスは、厚床駅から旧標津線の廃線路跡を歩いて行くところから始まります。その後、苗畑や旧陸軍放牧地の土塁を臨める国有林を通り抜けると、一面見渡す限りの採草地に出くわします(写真2)。そして、採草地の丘の上に立つと、地平線まで緑の海が広がり、声も出ないほどの開放感に浸れるのが特徴となっています。この圧倒的な開放感が厚床パスの最大の魅力であり、コースの半ばにある牧場主が経営するおしゃれなレストランで休憩するのが定番となっています。別当賀パスは、もっとも根釧地方の原生的風景を色濃く残しています。別当賀駅から、草原、天然林、そして湿原を縫うようにコースが設定され、途中には日本野鳥の会の野鳥保護区があります。そこにはタンチョウの営巣地があり、抱卵時期はルートが変更されたりもしています。また、コース内の沼のそばに野鳥観察小屋がもうけられています(写真3)。この小屋は地元のフットパス団体と筆者のゼミの学生が共同で作ったものです。コースの末端まで歩くと、太平洋が一面に見渡せる断崖絶壁に出ることができ、ここからは運が良ければ海辺に放牧馬が走る光景も見られます。

環境を「保護」することが環境を壊す02

採草地内を通り抜ける厚床パス 筆者撮影(2011‎年‎8‎月‎30‎日)

環境を「保護」することが環境を壊す03

野鳥観察小屋をつくる泉ゼミの学生 筆者撮影(‎2012‎年‎9‎月‎7‎日)
根室フットパスは、そこを「歩く」ことで、明治期の開拓や昭和期のパイロットファームの歴史、当地の生活・産業の成り立ちを知り、北海道の魅力を再発見することができます。すなわち、「車を降りてフットパスを歩く」ことで、北海道における人間と自然の関わりを見つめ直すという、新たなつながりを提示しようというものでもあります。このような人間と自然の関わりを見つめ直すという点は、根室フットパスだけでなく、他のフットパスにも多かれ少なかれ含まれるものであり、それは日本だけでなくイングランドのフットパスでも同じです。自然に親しむレクリエーション活動や里山へのアクセスは、自ずと自然環境への関心を持つ人々を増やし、また特に都市住民が人間と自然の持続的な関係に関する衰えた知覚を研ぐことにもなるでしょう。人間と自然とを切り離して、自然に誰も立ち入らせない形で自然環境を保護するのではなく、人間と自然が積極的に関わる中から、自然環境保全のあり方を導き出していくことが重要なのです。

上記で示した自然環境保全のあり方を含め、環境税や排出量取引などの環境政策、気候変動(地球温暖化)問題等に関わる国際的な環境ガバナンスといったことを専修大学経済学部では学ぶことができます。意外に思うかもしれませんが、様々な環境問題を扱う環境経済学・エコロジー経済学は、現代の経済学の重要な一分野となっています。
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