国富論

 本書は、それまで重商主義による流通過程、重農主義による農業生産が国民の富を求めたのに対して、労働こそが価値を生み出すものとし、利益を追求する自由な経済活動によっておのずから秩序が生まれ、国の富を増すという市場経済のメカニズムを解き明かし、経済学に新たな体系を創造した。スミスはグラスゴウ大学を辞めたのちヴォルテールやケネーらと会い、本書の構想を練りあげ、執筆に10年を費やしたといわれている。

 『国富論』はスミスの代表著作であり、最初の体系的経済学書といわれ経済学史上不滅の古典とされる。スミスは本書を著したことで「経済学の父」と称されている。

 この国富論のフランス語訳はハーグで出版される。残部は1789年アムステルダムで再発行されたことが知られている。フランス語訳はこの直後、ブラヴェによって1779年~1780年にJournal d‘agriculture誌に掲載され、3巻本として1781年にパリで刊行される。この残部も後年再発行されている。スミスの主著がフランスでも注目を集め相次いで翻訳版がでていたにもかかわらず、実際に多くの読者をはじめから得ていたわけではなかったことが伺われる。

 訳者は匿名になっているが、その訳はもっとも原文に忠実ともいわれている。本書の国内外での所蔵は極めて稀少。