戦争と平和の法

 オランダの法学者フーゴ・グロティウスは30歳代半ばで政戦に巻き込まれ、終身禁固刑により幽閉されたが、脱獄を果たし1621年にパリに亡命する。やがてフランス国王ルイ13世の庇護のもとに本書を執筆する。内容はサブタイトルにあたる記述に「自然法と万民法と同様に公法に関する重要なる説明」とあるように、本書は国際法、公法、私法、教会法 など、法に関わる広い分野にわたり、自然法的基礎付けを与えた。このことにより、人はすべて社会において法の規制に属さないものはないという思想が確立する。後世「近代自然法学の父」あるいは「国際法の父」とも呼ばれる。

 タイトルページ中央の木版の絵模様はプリンターズマーク(印刷者や出版者が書籍に表示する一種の商標)と呼ばれるもので、出版者二コラ・ブオンの後に続く説明によると、中央に聖クラディウス、右上に森の人が描かれ、取り囲む文字(MECUM PORTO OMNIA MEA.)は「私の智力は私の最上の所有物」(キケロの著作『paradoxa』に出てくる語の引用といわれている)を言い表している。

 初版初刷はフランクフルト書籍見本市に出品のため1625年3月にきわめて小部数が刷られたと伝えられており、1625年6月の2刷がはじめての出版となる。その後著者自身が加筆修正し正誤表をつけて出版したのが本書の初版3刷である。タイトルページ最下行には「国王(当時のシャルル9世)の特認を得て」と印字されている。

 本書の反響がいかに大きかったかは、その後1631年、1632年、1642年、1646年に改訂版を出していることでも推測できる。

 この初版は500部ほど印刷されたと伝えられているが、現存するのは世界で20部にみたないといわれている。