源氏物語のおこり

 紺地牡丹唐草宝尽文金襴表紙に、見返しは金銀砂子散らし文、雁皮紙、一面九から十一行書で極書が二枚ある。

 近衛家息女慶福院(生没年不明)の奥書がこの写本の事情を書き残している。桐箱蓋表に「太閤秀吉公御筆」と墨書があるが、真筆と認めてよいとされる。

 『源氏物語』の成立事情や構成内容などを記している。源氏物語系図(藤原家隆筆本を本学所蔵)などの流行りにみられるように、この長編の履歴をひもとくことは当時から行われていた。この一書は、慶福院が秀吉(1536?-1598)の正室北政所の侍女「ちやあ」に贈ったものを秀吉が持ち出し手本として書写したものとして伝わっている。なお、このときの「ちやあ」は淀君(茶々)とも家康の側室「おちゃあ」(忠輝の生母)とも別人とされる。