専修大学大学院文学研究科心理学専攻は、国内でも有数の規模を誇り、基礎心理学と臨床心理学の教員が緊密に連携する教育体制を整えています。心のメカニズムを解明する「科学」としての側面と、困難に寄り添う「実践」としての側面。この両輪がどのように噛み合い、学生たちの未来を切り拓いていくのか。4名の教員が、本専攻での学びの醍醐味を語り合いました。
——最初に、先生方の専門分野とその重要性についてお聞かせください。
岡村:専修大学大学院の心理学専攻は、基礎系7名、臨床系7名という非常にバランスの取れた教員構成が特徴です。私の専門は「臨床神経心理学」で、脳の損傷がある方の機能を評価し、どのような支援が必要かを考えるリハビリテーションがメインの領域になります。高次脳機能障害など、記憶や注意に困難を抱える方々に対し、アセスメントを通じて具体的な支援のイメージを形づくる、非常に医療や福祉と密接な分野です。
国里:私は「計算論的精神医学」や「計算論的臨床心理学」が専門で、不安やうつの問題に取り組んでいます。心の悩みは曖昧で複雑ですが、あえて数理モデルを用いて単純化し、シミュレーションを行うことで、本人の主観的な体験がどういうものなのかを客観的・論理的に理解しようとする試みです。この領域を専門的に学べる研究室は国内でも稀少です。
澤:私は「学習心理学」と「動物心理学」が専門です。前者は経験によって行動がどう変わるかを研究しており、この知見は、広告・マーケティングといった経済的意思決定や、臨床現場での行動変容にも広く応用されています。後者では伝統的にラットやハトを対象としてきましたが、最近では犬や猫、馬や象など、多様な種を扱っています。
石金:私は「生理心理学」の立場から、心の生物学的基盤である脳を調べています。本学は、活動中の脳波を屋外でも測定できるモバイル脳波計や、多くのニューロン(神経細胞)の電気的活動を同時に記録する装置など、充実した設備を有しています。脳の情報処理がどのように心や行動に反映されるのかを解明することを目指しています。
——これら多様な心理学の領域は、大学院の教育でどのように融合しているのでしょうか。
国里:本専攻は、基礎と臨床の教員が協力して教育に携わっている点が最大の魅力です。例えば、臨床実践に重きを置きつつも、「自分の研究テーマを科学として正しく実証したい」という学生がいれば、基礎の先生に相談して学習心理学の手法を学ぶことができます。こうした領域横断的な交流は日常的に行われています。
石金:具体的な例を挙げると、ストレスを調べたい臨床系の院生が、私の指導で唾液中のアミラーゼや脳波、脈拍といった生理指標を測定し、修士論文にまとめています。主指導と副指導の教員2名体制で、臨床と基礎それぞれの視点からフィードバックが受けられる仕組みが整っています。
澤:研究室間の垣根が本当に低いですよね。副指導の制度も形だけではなく、臨床の学生が僕のところへ「行動変容の理論をどう活かすか」を相談に来ることも多い。一人の教員に閉じこもらない「風通しの良さ」は、ハラスメントの防止はもちろん、学生の心理的な安全性や、多角的な視点の育成につながっていると自負しています。
岡村:臨床系の実習も充実しています。大学付属の心理教育相談室では、不登校のお子さんから気分の落ち込みを抱える大人まで、幅広いケースを担当できます。私が担当している高齢の高次脳機能障害の方々のグループワークや認知リハビリテーションも実習の対象となっており、ここまで幅広い世代・症状に対応できる環境は珍しいのではないでしょうか。
——実際に、学生たちはどのような成長を遂げているのでしょうか。印象的なエピソードがあればお聞かせください。
石金:以前、学術論文を読み解くのにも苦労していた学生がいたのですが、地道な努力で自ら研究計画を立て、最新の解析手法を独学でマスターしてしまいました。他分野の分析法を取り入れることで新規性の高い成果を出し、最終的には国際誌に論文が受理されました。頼もしく成長した姿が忘れられません。
澤:素晴らしいですね。実験というのは1回で結果が出るものではなく、積み重ねが不可欠です。私の研究室から他大学の研究員になった人たちも、とにかく粘り強かった。本や論文で知識を蓄え、失敗してもそこから学び、一歩ずつ前に進んでいく。学会のシンポジウムで堂々と発表している姿を見ると、胸が熱くなります。
国里:私の専門である計算論的アプローチは、授業時間だけでは教えきれない部分も多いのですが、学生たちの自発的な好奇心には驚かされます。やりたいことが決まると、自分でプログラミングを学び、高度な解析をやってのける。学生から教わることも多いです。
岡村:学部時代は少し頼りなかった学生でも、病院や施設での仕事を通じて「自分の知識で人を支援できる」という面白さに目覚めると、見違えるように専門家としての自覚が芽生えます。本専攻では学術的な研究指導も徹底しているため、卒業後も職場の課題を研究としてまとめ、積極的に学会発表を続ける「現場のリーダー」になってくれる学生が多いですね。
——最近では、社会人として学び直しを希望する方も増えています。社会人経験は心理学の研究にどう活きるのでしょうか。
岡村:臨床現場では、社会人としての人生経験がそのまま「支援の厚み」になります。また、私たちは「心理職のためのリカレント教育プログラム」という履修証明プログラムも開講しています。すでに心理職として現場で働いている方が、基礎心理学や神経心理学を学び直し、自身の専門性を広げる場として活用してくださればうれしいですね。
石金:社会人の方は、限られた時間の中で効率的にプロジェクトを回す能力に長けていますよね。これは研究計画の立案や遂行において非常に有利な点です。また、「同僚の不調を支えたい」といった切実な問題意識から入学される方も多く、その経験を「検証可能な問い」へと昇華させる力は、社会に還元できる研究を生む大きな原動力になります。
澤:「学問は役に立つかどうか」だけが価値ではありませんが、学習心理学の知見は、職場のパフォーマンス改善や広告戦略など、ビジネスの現場に直結するものが多々あります。社会での「なぜ?」という疑問を、心理学というレンズを通してもっと深く考え直してみる。それは人生をより豊かで面白いものにしてくれるはずです。大学院という選択肢を、ぜひ検討してほしいですね。
国里:博士課程では、修士課程修了後の臨床実践の場で生じた「なぜこのアプローチが有効なのか」「この判断基準は正しいのか」といった疑問を、研究によって実証的に検討するお手伝いができます。現場の課題を定式化し、データで答えを導くプロセスは、どのようなキャリアに進むにせよ強力な武器になるはずです。
——最後に、専修大学大学院で心理学を学びたいと考えている方へメッセージをお願いします。
岡村:公認心理師や臨床心理士の活躍の場は、医療、教育、福祉だけでなく、産業や司法などの領域でも重要性が高まっています。専門的な支援を必要としている人は増え続けています。ぜひ、質の高い支援を提供できる専門家を目指して、本研究科の門を叩いてください。
国里:AIが普及する時代だからこそ、自ら問いを立て、その問いを明らかにするプロセスを設計できる人材が求められています。心理学で学ぶ「捉えどころのないものを計量化し、分析して結論を出す」という手続きは、社会のあらゆる困難に対する汎用的なアプローチになります。ぜひ一緒に学びましょう。
澤:心理学をみっちり学ぶと、人間や社会の見え方が自ずと変わってしまいます。それは、日常的な直感がいかに怪しいかに気づく過程でもあります。解像度が上がることが必ずしも幸福に直結するとは限りませんが(笑)、少なくともこれまでとは違う景色が見えるようになることは間違いありません。その変化を楽しめる方を待っています。
石金:私が期待するのは、自分の関心に軸足を置きつつ、データに基づいて論理的に結論を導ける力を養うことです。そして、その結論を「異なる背景を持つ他者」にも伝わる言葉で表現できる発信力を身につけてほしい。その力が、あなた自身のキャリアを切り拓き、また次の誰かの新しい発想を生む循環を作っていくのです。基礎と臨床の教員が横断的に研究と教育に取り組んでいる本大学院の心理学専攻でなら、きっとそれが叶うと思いますよ。
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