雇用における性的傾向を理由とする差別禁止法

(Lag (1999:133) om förbud mot diskriminering i arbetslivet på grund av sexuell läggning.)

 

 法の目的(Lagens ändamål)

 第1条 本法の目的は、雇用における性的傾向を理由とするあらゆる差別を除去することにある。

 

 第2条 ここに性的傾向(sexuell läggning)とは、同性愛的(homosexuell)、両性愛的(bisexuell)および異性愛的傾向(heterosexuell läggning)のことをいう。

 

 差別禁止(Förbud mot diskriminering)

 直接的差別(Direkt diskriminering)

 第3条 使用者は、求職者または被用者の性的傾向を理由として、他の性的傾向をもっているいる者と差別的取り扱いをしてはならない。

 但し、その差別が観念的またはその他特別の利益、性的差別を除去するよりも明らかに重要な利益があると認められる場合、差別とはみなされない。

 

 間接的差別(Indirekt diskriminering)

 第4条 使用者は性的傾向を理由として、規則、基準が中立的な場合であっても、その取り扱い方によって、求職者または被用者が差別的扱いを受けないよう配慮しなければならない。但し、規則、基準または取り扱い方法が特別の目的をもっている場合で、且つその措置がその目的を達成するために相当であり、且つ必要である場合にはその限りでない。

 

 差別禁止が適用される場合(När förbuden gäller)

 第5条 次に各号に掲げる場合、第3条および第4条に規定されている差別禁止条項が適用される。

   1.使用者が採用問題において、求職者を採用面接または採用手続き中、別の措置     を講じた場合

   2.使用者が被用者の昇進の決定を行った場合または昇進のための教育研修に     被用者を選抜した場合

   3.使用者が賃金またはその他の雇用条件を適用する場合

   4.使用者が仕事を指導しまたは仕事の割り振りを行った場合

   5.解雇、馘首、一時帰休を決定したときまたは被用者に対して不利益な取り扱い     をした場合

 

 メリットに関する資料(Uppgift om meriter)

 第6条 採用されなかった求職者または昇進に洩れた被用者若しくは昇進のための教育研修の機会を与えられなかった被用者は、使用者に対して、優越的取り扱い受けた求職者または被用者がもっていた教育、職業経験およびその他のメリットについて、書面をもって解答を行うことを請求することができる。

 

 報復措置の禁止(Förbud mot repressalier)

 第7条 本法に規定されている差別の対象となった被用者が使用者を告発した場合、使用者はそのことに対して報復措置を講じてはならない。

 

 いじめの調査義務といじめ防止対策を講じる義務(Skyldighet att utreda och vidta åtgärder mot trakasserier)

 第8条 使用者において被用者が性的傾向によって他の被用者からいじめにあっていることを知った場合、使用者はいじめの状況を調査し、且ついじめを防止するために必要な措置を講じなければならない。

本法に性的傾向によるいじめとは、雇用生活において被用者の人格を傷つける行動および被用者の性的傾向と関連をもつている行動をいう。

 

 制裁(Påföljder)

 無効(Ogiltighet)

 第9条 契約において本法によって禁止されている差別を定めている場合または認めている場合、その契約は本法の規定に反する限度において無効とする。

 

 第10条 被用者が使用者のとの契約において、本法の規定によって禁止されている仕方で差別されている場合、その規則は被用者からそのことが求められた場合、修正されまたは無効とされる。その規定がその契約にとって重要な意味をもっている場合、そのことが変更されることなく維持される場合、その契約は別の見方においてまたはその全体において無効となる。

 被用者が本法に禁止されている仕方において、使用者が契約を解除しまたはそのような法律行為を行った場合、その法律為は、被用者から要求があった場合、無効とする。

第1項、第2項の規定は第9条の規定が適用される場合、適用されない。

 

 損害賠償請求(Skadestånd)

 第11条 第3条、第4条または第5条第1号または第2号の禁止事項に反する使用者の行為によって被差別者が損害を被った場合、使用者はその損害を賠償しなければならない。

 

 第12条 使用者が第3条、第4条または第5条第3号乃至第5号の規定に反して被用者に損害を与えた場合、使用者は被用者に対して損害を賠償しなければならない。

 

 第13条 被用者が第7条に規定されている報復を受けた場合、使用者はそのことによって被用者が被った損害および報復によって被用者が被った損害を賠償しなければならない。

 第14条 使用者が第8条に規定されている義務を履行しなかった場合、使用者は不履行によって生じた損害を賠償しなければならない。

 

 第15条 相当とみなされる場合、第11条乃至第14条に規定されている損害賠償の義務を軽減または免除することができる。

 

 監督(Tillsyn)

 性差別監視オムブーズマン

(Ombudsmannen mot diskriminering på grund av sexuell läggnig)

 第16条 本法の実施状況を監視するため性差別監視オムブーズマンを設置する。

性差別監視オムブーズマンは政府によって任命される。

 オムブーズマンは使用者が自主的に本法の規定を順守するよう指導監督を行わなければならない。

 

 資料提出義務(Uppgiftsskyldighet)

 第17条 使用者はオムブーズマンの勧告にもとづいて、第16条に規定されているオムブーズマンの監督に必要な事業所における状況報告を提出しなければならない。

 使用者は更にオムブーズマンが第6条の規定によって、求職者または被用者からの請求があった場合、必要な援助を行わなければならない。

 使用者は資料提出義務によって不必要な負担を負わされない。特別の理由がある場合、使用者は資料提出義務を免れることができる。

 

 制裁金(Vite)

 第18条 使用者が第17条の規定による勧告を受けた後、改善を行わなかった場合、オムブーズマンは制裁金を課することによって使用者にその義務の履行を強制することができる。

 

 異議の申し立て(Öveklagande m.m.)

 第19条 オムブーズマンの制裁金賦課決定に対して異議ある場合、使用者は差別禁止委員会に対して異議の申し立てを行うことができる。何人も委員会の決定に対しては異議の申し立てを行うことができない。制裁金の支払い請求の訴えはオムブーズマンによって地方裁判所に提起される。

 

 差別禁止委員会における審理手続き

 (Handläggningen hos Nämnden mot diskriminering)

 第20条 差別禁止委員会はその事件の性質から必要とみなされる範囲内において審理が行われるよう監視しなければならない。

 それが必要とされる場合、委員会は再調査を命ずることができる。不必要な調査は回避されなければならない。

 

 第21条 制裁金賦課決定は、委員会においてその必要がないとみなされる場合を除いて、口頭弁論を経て決定される。

 

 第22条 第21条の規定による審理に際しては、裁判所はオムブーズマンと使用者を裁判所に召喚しなければならない。

 委員会は使用者または使用者の代理人に対して制裁金の支払いを命ずることができる。調査のため必要とみなされる場合、委員会は第三者の出頭を命ずることができる。

 

 訴訟(Rättegången)

 適用法規 (Tillämpliga regler)

 第23条 第3条乃至第5条および第7条乃至第15条の適用される事件は労働訴訟手続き法の規定によって処理される。

 その際、求職者は被用者とみなされ、求人側は使用者とみなされる。

第2項の規定はまた共同決定法に規定されている紛争処理に関する規定が第3条乃至第5条および第7条乃至第15条に規定される紛争に適用される。

 

 訴権(Rätt att föra talan)

 第24条 第23条に規定する紛争において、被用者または求職者のために本人がそのことを認めた場合で、且つオムブーズマンが紛争の判決が法の適用にとった重要な意味をもっているとみなされた場合、または特別の事由があるとみなされた場合、オムブーズマンは訴えを提起することができる。オムブーズマンが相当と認めた場合、オムブーズマンは同一訴訟において個人の代理人として別に訴訟を提起することができる。

第1項に規定されるオムブーズマンの決定に対しては異議の申し立てを行うことができない。

 第1項に規定するオムブーズマンによる訴えは労働裁判所に提起しなければならない。

 

 第25条 労働組合が労働訴訟手続法第4章第5条の規定によって個人のために訴権を有している場合で、且つ労働組合がそれを行わない場合に限って訴えを提起することができる。

 訴訟における個人の立場について本法に規定されていることは、オムブーズマンが訴えを提起したときにも適用される。

 

 第26条 公的立場にある使用者によって定められている採用決定を理由として、第11条の規定による損害賠償請求の訴えは、採用決定が確定するまで審理の対象にならない。

 

 時効(Preskription)

 第27条 解雇または馘首を理由として被害者が訴えを提起する場合、雇用保護法第34条第2項、第3項、第35条第2項、第3項、第37条、第38条第2項2、第39条乃至第42条、第43条第1項2および第2項の規定が適用される。

 

 第28条 第27条に規定されている以外の訴えについては、共同決定法第64条乃至第66条、第68条の規定が猶予期間を2ヶ月とすることによって適用される。

 

 第29条 公的使用者によって行われた採用決定を理由とする損害賠償請求事件において第2条に規定する訴権消滅期間は採用決定が確定したときから計算される。

 

 第30条 オムブーズマンによって提起された訴えは、被用者または求職者本人によって提起されたものとみなされる。

              

 この法律は1999年5月1日から施行する。

                           以上( 菱木昭八朗訳)