スウェーデン・パートナシップ登録法の改正

 

専修大学名誉教授 菱木昭八朗

 

 六月のはじめ、スウェーデンにおいてパートナシップ登録法の一部改正に関する法律案が国会を通過し、7月1日からその改正法が施行されている。ここに「パートナシップ登録法」[Lagen (1994:1117) om registrerat partnerskap]とは、俗に同性婚法とも呼ばれている法律であるが、性を同じくする者同士がパートナシップ登録法の規定にしたがってパートナシップ登録を行った場合、パートナシップ登録当事者に対して、子に対する監護権、養子縁組、人工授精または体外受精の場合を除いて、婚姻夫婦に認められている法的効果と全く同じ法的効果を与えることを目的とした法律である(パートナシップ登録法第3章第1条)。(註1)

 今回、法改正の対象となった部分は、スウェーデン国内においてパートナシップ登録を行おうとする者の連結素に関する規定であるが、これまでの規定では、スウェーデンにおいてパートナシップ登録を行おうとする場合、パートナシップ登録当事者のいずれか一方がスウェーデン国内に住所を有し、且つスウェーデン国籍をもっていることが必要とされていた。そのため、スウェーデンに生まれ、スウェーデンに長年、住んでいても、パートナシップ登録当事者のいずれか一方がスウェーデン国籍を有していない限り、スウェーデンにおいてパートナシップ登録を行うことができなかった。

 スウェーデン・パートナシップ登録法においてパートナシップ登録を行う場合のパートナシップ登録当事者の国籍を連結素としたのは、既に制定されていたデンマーク(1989年制定)、ノルウェー・パートナシップ登録法(1993年制定)に依拠したためであるが、しかし、1996年、アイスランドにおいてパートナシップ登録法の制定が行われるに及んで、登録国の国籍をパートナシップ登録の要件としておくことに対して、北欧諸国から北欧諸国間の互恵平等の原則に反するのではないかといった疑問が提出されるに至った。ここに北欧諸国間互恵平等の原則とは、北欧5カ国(デンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、スウェーデン)の国民が自国以外の北欧諸国いずれかの国に居住している場合、常に居住国において居住国の国民と同一の取り扱いを受けることができるとする原則である。そこで北欧諸国ではこのような問題を解決するため、1998年、政府担当者連絡調整会議を開催、問題の調整を計ると同時にまた各国政府も連絡調整会議の結果を踏まえて、それぞれのパートナシップ登録法の改正に着手した。その結果、デンマークでは昨年7月、そしてアイスランド、ノルウェーでは七月、自国以外のフィンランドを除く北欧諸国の国民、そしてそれ以外の国の国民については、本国法においてパートナシップ登録法が制定されている場合に限って、パートナシップ登録に際し、自国民と同様に取り扱うこととし、それ以外の国の国籍を有している者については、パートナシップ登録申請者のいずれか一方が登録国に2年以上、住所を有している場合、居住国におけるパートナシップ登録を認めるにした。

 スウェーデンの場合、1998年、北欧諸国間政府担当者連絡調整会議の結果を受けて、スウェーデン政府は法務省内にパートナシップ登録法改正問題委員会を設置、パートナシップ登録法の改正作業に着手した。そして1999年春、同委員会からから提出されたパートナシップ登録法改正答申「スウェーデン国内における外国人のパートナシップ登録の可能性」(Utlänska medborgares möjligheter att ingå partnerskap i Sverige. Ds 1999:14)を土台として、パートナシップ改正法案を作成。本年3月、国会に上程。6月の本会議においてその改正案が採択され、7月1日から施行される運びになった次第である。

 今回のスウェーデン・改正パートナシップ登録法は、北欧統一立法の原則から、その内容において、デンマーク、ノルウェー法の場合と同様、パートナシップ登録当事者のいずれか一方が二年以上、スウェーデン国内に住所を有している場合、国籍の如何に関係なく、スウェーデン国内においてパートナシップ登録を行うことを認め、デンマーク、ノルウェー、アイスランドそしてオランダ国籍をもっている者については、パートナシップ登録に関し、スウェーデン国籍をもっている者と同一に取り扱うことにした。尚、スウェーデン・改正パートナシップ登録法においてスウェーデン国民と同等の取り扱いを受ける国について、その国名を制限列挙的に定めたのは、スウェーデン国籍を有しない者がスウェーデン国内においてパートナシップ登録を行おうとする場合、パートナシップ登録執行官がパートナシップ登録申請当事者国の国内法におけるパートナシップ登録法の有無、そしてまたその内容をいちいちチェックする煩雑さと同時に国際私法上の観点からみたパートナシップ登録法の特殊性を配慮したためであるといわれている。未だ、ヨーロッパ諸国の中にはパートナシップ登録法の制定に懐疑的な国が存在しているからである。しかし、レミッス段階で、デンマーク、ノルウェー、アイスランド、そしてオランダ国籍を有する者以外の者について、パートナシップ登録の要件として、2年の居住条件を設けることはEU法に抵触するのではないかといった疑問も提出されたが、政府はパートナシップ登録の問題に関してEUにおいて未だ統一的見解が発表されていない現段階では、それぞれの国において2年という居住条件をパートナシップ登録の要件として定めることは必ずしもEU法に抵触することにはならないという説明している。尚、ここに住所とは、婚姻及び後見に関する国際関係に関する法律[Lag (1904:26 s.1) om vissa internationella rättsförhållanden rörande äktenskap och förmynderskap]に関する法律第七章第二条に規定されている住所の意味である。(2000.07.10記)

                                           以 上

(註1)スウェーデン・パートナシップ登録法については、菱木昭八朗「スウェーデンの同性婚法」(ジュリストNo.1056号。1994.11.05)参照 尚、スウェーデン・パートナシップ登録法の全文についてはhttp://www.iris.or.jp/~hishiki/を参照されたい。)

(註2) 住所の概念についてはSOU 1987:18 s.59参照

 

 改正スウェーデン・パートナシップ登録法第一章第二条

  次に掲げる場合、スウェーデン国内においてパートナシップ登録を行なうことができる。

   1 パートナシップ登録当事者のいずれか一方が二年以上スウェーデン国内に住所を有している場合 または

   2 パートナシップ登録当事者の一方がスウェーデン国籍を有し、且つスウェーデン国内に住所を有している場合

  デンマーク、アイスランド、オランダ及びノルウェー国籍を有する者については、スウェーデン国民と同様に取り扱われる。

   

  参考文献Ds 1999:14, Prop.1999:77.