人種差別禁止法

lag (1994:134) mot etnisk diskriminering.

国会の決定によってここに人種差別禁止法を定める。(1994年4月7日公布)

 

人種差別法の目的(lagens ändmal)

第1条 この法律の目的は、人種差別を抑止することにある。本法に人種差別とは、人種、肌の色、国籍または出身部族もしくは信教を理由にして、個人または特定のグループを他の人と異なった方法で不公平な取り扱いをすることをいう。

 

人種差別抑止オムブーヅマン(Ombudman mot etnisk diskriminering)

第2条 政府は、労働生活、その他の社会生活において人種差別が行われないよう監視するためオムブーヅマンを設置する。

 

第3条 オムブーヅマンは、勧告その他の方法をもって、差別を受けている者がその権利を回復するために必要な援助をしなければならない。オムブーヅマンは行政機関、企業、団体と提携して、また同時に世論の喚起、インフォメーションその他の方法をもって人種差別が行われないよう指導的役割を果たさなければならない。

 

第4条 オムブーヅマンは、特に、求職者に対する人種差別が行われないよう努めなければならない。オムブーヅマンは使用者及び関係労働団体と協力して、労働生活において異なる人種が良好な関係を保つことができるよう努力しなければならない。

求職者が不当な取り扱いを受けた場合、オムブーヅマンは第17条の規定によって訴えを提起することができる。

 

人種差別抑止委員会(Nämnd mot etnisk diskriminering)

第5条 政府は3人の委員によって構成される人種差別抑止委員会を設置する。委員会の委員長は法律専門家で、且つ裁判官経験のある者から選任される。

委員会の任務は、原則としてこの法律の実施に関する重要な問題に対して、オムブーヅマンに対して助言を行い、政府に対して法令の改正、人種差別を抑止するために必要な施策を提案することにある。委員会はまた、第7条に規定されている問題について審理を行うものとする。

 

オムブーヅマン及び委員会の事務手続き(Förfarande hos ombudmannen och nämnden)

第6条 オムブーヅマンから要請があった場合、使用者は、求職者または被用者との関係に関する会議に参加し、オムブーヅマン業務の執行に関して必要な資料を提出しなければならない。更にまた、オムブーヅマンが第10条の規定によって求職者または被用者の要求を援助する場合、使用者は必要な書類を提出しなければならない。オムブーヅマンは、使用者に対して、必要以上に過重な負担を課してはならない。特別の場合、使用者は資料の提出義務を免除される。

更にまたそれ以外の場合においても、オムブーヅマンから請求があった場合、使用者及びその他の者は会議に参加し、オムブーヅマンに必要な資料を提出しなければならない。

 

第7条 使用者が第6条に規定されているオムブーヅマンの勧告にしたがわなかった場合、オムブーヅマンは違反者に対して制裁金を賦課することができる。オムブーヅマンの制裁金賦課決定に異議ある者は人種差別抑止委員会に対して異議の申し立てを行うことができる。人種差別委員会の決定に対しては異議の申し立てを行うことができない。

制裁金賦課決定の訴えはオムブーヅマンから地方裁判所に対して行われる。

 

求職者及び被用者の不当な差別取り扱いの禁止(Förbud mot otillbörlig särbehandling av arbetssökande och arbetstagare)

第8条 使用者は、雇用に際し、求職者の人種、肌の色、国籍または出身部族または信教上の理由から、求職者を無視することによって、求職者を不当に差別する取り扱いをしてはならない。

 

第9条 使用者は、被用者の人種、肌の色、国籍または出身部族もしくは信教上の理由によって次のことを行ってはならない。

1.不当な雇用条件または労働条件を課すること

2.明らかに被用者にとって不当な方法をもって、仕事の指図、割り当てを行うこと

3.馘首、解雇または帰郷、その他それに類する行為を行うこと

 

採用、昇進基準の公開(Uppgift om meriter)

第10条 求職者が不採用になった場合、または被用者が昇進、研修への参加について不当な取り扱いを受けたと思われる場合、休職者または被用者は、採用、昇進または研修への参加が認められたであろう研修の種類、範囲、職業的経験、その他それに類する採用、昇進、研修参加についての基準を使用者に対して文書による回答を求めることができる。

 

無効及び損害賠償(Ogiltighet och skadestånd)

無効

第11条 差別取り扱いを定めた契約が、第8条または第9条に反する場合、無効とする。

 

第12条 被用者が使用者との雇用契約によって、第9条に定める方法で、差別扱いを受けている場合、被用者はその規定の変更または廃止を求めることができる。その規定が契約にとってそのまま適用される必要性をもっていない場合、その契約を部分的に変更し、もしくはその契約の全部を無効とすることができる。

使用者が契約の解除、その他の法律行為によって、第9条に定められている方法で被用者を差別した場合、被用者はその法律行為の取消を求めることができる。

但し、前項の規定は、第11条の規定が適用される場合には適用されない。

 

損害賠償(Skadestand)

第13条 求職者が第8条の規定に反して、使用者から差別待遇を受けた場合、求職者は使用者に対して損害の賠償を求めることができる。

同一事件において、複数の被差別者が同時に損害賠償の請求を行う場合、損害賠償額は被差別者の一人に対して決定されたものとして処理され、決定された損害賠償額は被差別者間で平等に配分される。

 

第14条 第9条の規定に反して、被用者が差別待遇を受けた場合、被差別者は、使用者に対して差別によって被った損害について賠償を求めることができる。

 

第15条 相当の理由ある場合、第13条、第14条に規定されている損害賠償請求権は減額または却下することができる。

 

差別訴訟(Rättegången i diskrimineringstvister)

適用規定(Tillämpliga regler)

第16条 第8条、第9条及び第11条乃至第15条の規定が適用される事件については、労働訴訟法(lagen (1974:371) om rättegången i arbetstvister)の規定が準用される。

その場合、求職者は被用者として、求人側は使用者として取り扱われる。

前項軒邸はまた、共同決定法(lagen (1976:580) om medbestämmande i arbetslivet)の団体交渉に関する規定が本法の紛争に適用される場合に準用される。

 

訴訟提起権(Rätten att föra talan)

第17条 第16条に規定されている紛争において、本人がそのことを認め、且つオムブーヅマンにおいて紛争に関する裁判所の判決が法の適用にとって重要な意味をもっていると認められる場合、またはその他、特別の事由がある場合、オムブーヅマンは被用者または求職者のために訴えを提起することができる。

オムブーヅマンにおいて相当と認められた場合、被差別者は同一訴訟において、他人のために、その代理人として訴訟を提起することができる。

第1項に規定されているオムブーヅマンの決定に対しては異議の申し立てを行うことができない。

第1項に規定されているオムブーヅマンによる訴えは、労働裁判所(Arbetsdomstolen)に提起される。

 

第18条 労働事件訴訟法第4章第5条の規定により、労働組合が組合員のために訴訟を提起する権限を有する場合、オムブーヅマンは労働組合がその権利を行使しない場合に限り、訴訟を提起することができる。

オムブーヅマンが訴訟を提起する場合、訴訟をおける本人の地位に関する本法の規定が適用される。

 

合同審理(Gemensam handläggning)

第19条 複数の求職者が同一使用者に対して損害賠償請求の訴えを提起し、且つ使用者において損害賠償金が第13条第2項の規定によって原告間で配分されることが予想できる場合、その訴訟は使用者の請求によって、同一裁判において審理することができる。

 

第20条 第19条に規定されている事件が異なる裁判所に係属し、且つその事件が労働裁判所に帰属すべき種類の事件の場合、その事件は労働裁判所において審理される。それ以外の場合、最初に事件を受理した地方裁判所、または訴えが複数の異なる裁判所に提起されている場合、使用者の指定する裁判所に事件を統合することができる。

 

第21条 事件が合同審理に付されるべき裁判所以外の裁判所に提起された場合、裁判所は、合同審理を行う裁判所に事件を移送することができる。

事件の移送決定に対しては異議の申し立てを行うことができない。

 

第22条 同一裁判所に複数の訴えが提起された場合、事件が別の法律の規定によって合同して審理することができないとき、第19条の規定が準用される。

 

第23条 第13条に規定されている損害賠償請求事件の審理は、使用者の請求によって、既に提起されている、または将来、提起されるであろう損害賠償請求事件と合同して審理される必要がある場合、その審理を延期することができる。

公的地位をもっている使用者によってなされた決定で、且つその決定が職務権限に基づいてなされた場合の第13条に規定されている損害賠償請求の訴えは、職務権限に関する問題の決定が確定するまで審理することができない。

 

時効等(preskription m.m.)

第24条 ある者が馘首または解雇を理由として訴えの提起を行う場合、雇用保護法(lagen (1982:80) om anstallningsskydd)第34条第2項及び第3項、第35条第2項、第3項、第37条、第38条第2項第2号、第39条乃至第42条及び第43条第1項第2号、第2項の規定が準用される。

 

第25条 第24条に規定されている訴えの場合を除いて、その他の訴えについては、共同決定法第66条第1項第1号に規定されている猶予期間を2ヶ月とする場合を除いて、共同決定法第64条乃至第66条及び第68条の規定が準用される。

但し、第13条に規定されている損害賠償請求の訴えは、採用決定が行われてから8ヶ月以内に訴えを提起しなければならない。労働組合がその期間中に損害賠償請求の訴えを提起しなかった場合、当該労働組合の組合員または組合員であった者は、8ヶ月の期間を経過した後、2ヶ月以内にその訴えを提起しなければならない。

 

第26条 公的地位をもっている使用者によってなされた任命に関する損害賠償請求の訴えについては、第25条に規定されている時効期間は、任命決定が確定したときから開始する。

 

第27条 オムブーヅマンによって提起された損害賠償請求の訴えは、被用者または求職者のために行われたものとみなされる。

 

本法の規定は1994年7月1日から施行する。本法の施行に伴って、旧人種差別禁止法はその効力を失う。

                             以 上

                     ( 菱木昭八朗訳1994.05.05)


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