末廣 幹
SUEHIRO Miki
専門分野
★イギリス演劇(特にシェイクスピアと17世紀演劇)
私の出身は、兵庫県の神戸市です。1965年4月13日生まれで、今年40歳になりました。中学・高校は、同じ兵庫の姫路市の淳心学院という中高一貫の私立の男子校で学びました。ここは、カトリックのミッション・スクールで、ベルギー人の神父が、聖書を用いて、流暢な日本語で、宗教につ・「ての授業を行うような学校でした。私は、けっしてつねに真面目に授業を聴いていたわけではないのですが、早い時期から聖書に触れられたことは後にヨーロッパ文学を研究する上でよかったと思っています。高校卒業後、国際基督教大学(ICU)というこれまたミッション・スクールの人文科学科に入学しました。ちなみにこの年に上京してから、ずっと関東圏で暮らしておりますので、関西弁はすっかり抜けてしまいましたが、自分で盛り上げておいて合いの手の入れを入れるところ――いわゆる「のりつっこみ」――が関西人ぽいと学生にはよく指摘されます。大学に入学した当時は、じゅうぶんな語学力を身に付け、イギリスの作家ジョージ・オーウェルによるスペイン内戦のドキュメント『カタロニア戦記』で卒論を書き、卒業後は国際派ジャーナリスト(苦笑!)になるのを夢見ておりました。ところが、学部在学中に1年間の交換留学で訪れた、イギリスのケント大学カンタベリ校で学ぶうちに、英文学、とくにイギリス演劇の魅力にとりつかれ、帰国後、本格的に研究をする決心をしました。大学卒業後、筑波大学の大学院で17世紀イギリス演劇を研究した後、東京都立大学人文学部に就職し、10年間在職した後、2004年に専修大学に着任致しました。
★学問的な関心
ICUの学部時代には、英文学に限らずほかの分野の科目を履修できたので、哲学、西洋古典学や旧約聖書学の専門科目にも結構熱心に出席しました。一時期は西洋古典学を専攻し、ギリシア悲劇(私がもっとも魅了されている演劇のひとつは、いまでもソポクレスの『アンティゴネー』とエウリピデスの『バッコスの信女』です)で卒論を執筆したいと考え、ラテン語やギリシア語を熱心に勉強したこともありました。その後、交換留学で訪れたケント大学で英文学の面白さに目覚めたわけですが、そのきっかけとなったのは、イギリスで出逢った先生方が、シェイクスピアだけではなく、同時代の劇作家の作品に目を向けてくださったこと、そして、文学理論を用いてテクストを解釈するダイナミズムを教えてくださったことでした。初期近代のイギリスの演劇と言うと、どうしてもシェイクスピアの研究に偏りがちなのですが、学部の段階で同時代の劇作家にもシェイクスピアの芝居に負けず劣らず面白い作品を書いた作家たちがいるのだと認識できたことは恵まれていたと思います。また当時イギリスではちょうどマルクス主義批評の流れを汲む文化唯物論とい・、批評理論が盛り上がっている頃で、この文化唯物論という理論を通じて構造主義以降の文学理論を学ぶことができました。シェイクスピア以外の劇作家のテクスト研究と文学理論によるテクスト解釈が今に至るまで私の研究の二つの柱になっています。
大学院では、シェイクスピアの同時代人ベン・ジョンソンの喜劇と当時勃興しつつあった市場経済との関係について論じました。その後、私の研究は焦点が絞られるどころか、むしろ関心が拡散するばかりで、オスマン・トルコ帝国などの非ヨーロッパ世界との関係、当時の空間概念、とくに都市空間の認識の変化といったさまざまな切り口から初期近代のイギリス演劇を解釈しようと試みております。古代ローマの劇作家テレンティウスの有名な言葉に、「私は人間である。およそ人間に関することで、私に無関係なことはなにひとつない」というものがありますが、少なくとも17世紀のイギリス文化に関してはこのように胸を張って言えるように、最近は、王政復古期と呼ばれている17世紀後半も視野に入れて、また演劇に限らず、詩や散文も読みながら、文学とロンドンの都市文化との関係を研究しています。
主な業績
- ・共編著『国家身体はアンドロイドの夢を見るか――初期近代イギリス表象文化アーカイヴT』(ありな書房、2001年)
- ・論文「ヒュドラーとの闘争――『錬金術師』における交換と自己表象」、富山太佳夫編『ニューヒストリシズム』(研究社、1995年)所収。
- ・論文「イスラム恐怖を超えて――『オセロー』とトルコ化の不安のレトリック」、日本シェイクスピア協会編『シェイクスピア――世紀を超えて』(2002年、研究社)所収。
- ・論文「『コーヒーハウスの政治家』の誕生――王政復古期における公共圏の変貌」、佐々木和貴編『演劇都市はパンドラの匣を開けるか――初期近代イギリス表象文化アーカイヴU』(ありな書房、2002年)所収。
- ・論文「トレヴァ=ローパーと一七世紀文化の全般的危機」、岩井淳・大西晴樹編『イギリス革命論の軌跡――ヒルとトレヴァ=ローパー』(蒼天社、2005年)所収。
- ・雑誌『英語青年』(研究社)の「海外新潮」を隔月・A載(2004年)
- ・専・C・E蜉w研究者情報データベース(研究業績一覧付)
担当科目
- ●2011年度担当科目(学部のみ)
- ・Special English 1,2(1年)
- ・英米の演劇 I,II(3,4年)
- ・ゼミナール I,II(3年)
- ・ゼミナール III,IV(4年)
- ●2010年度担当科目(学部のみ)
- ・イギリス文学の世界 I,II(2,3年)
- ・英米文学特殊講義 V,VI(3,4年)
- ・ゼミナール I,II(3年)
- ・ゼミナール III,IV(4年)
教員からのメッセージ
★抱負〜英語英米文学科の一員として
最後に、専修大学の英語英米文学科の一員として抱負を述べさせていただきます。前任校であった都立大学には大学院を出てからそのまま就職したので、最初は失敗の連続だったのですが、10年間の試行錯誤の結果、初期近代イギリス演劇の面白さと文学理論の有効性をなんとか学生諸君に伝えられるようになりました。都立大学の英文専攻は一学年20数名だったので、一学年160名近くからなる専修大学の英語英米文学科に慣れるまでには時間がかかりました。ただ学生諸君の興味やニーズに柔軟に対応しながら、演劇と文学理論の魅力を伝えていければと思っています。
大学は冬の時代にあると言われ、とくに「文学の研究と教育には未来はない」などといった誤った認識がもっともらしく叫ばれていますが、文学を丹念に読み解いていくことで得られる、言葉のセンスや文化や社会を見つめる眼は、現代社会にとってますます重視されている資質です。時代に迎合するのではなく、長期的なヴィジョンをもって本当に大切なことを皆さんに伝えていくつもりですが、独りよがりにならぬよう、学生の皆さんとの〈対話〉をなによりも重視したいと思っています。
関連リンク