夢ナビ2015講演
『ハリー・ポッター』に見るゴシック文化の影響と魔法の秘密
2015年7月11日(土)
並木信明(英語英米文学科 教授)
■講演動画
■講演概要
中世文化のゴシック文学と『ハリー・ポッター』
イギリスの作家J・K・ローリングによる世界的ベストセラーのファンタジー 小説『ハリー・ポッター』シリーズは、実は中世キリスト教のゴシック文化を 色濃く受け継いでいる作品です。城や石造りの館、古文書、まじないや迷信、 幽霊、秘密の部屋などといった要素は、怪奇趣味のゴシック文学に欠かせない ものです。また、そこにはギリシア・エジプトの神話や、特にキリスト教文化 の影響が浸透していて、読みながらそれらを探すことで、新しい発見がたくさ んあります。
キリスト教と魔女・魔法
中世キリスト教社会は、魔女を悪魔と関係づけて断罪しましたが、魔法界 と人間界が共存する『ハリー・ポッター』では、魔法使い・魔女は原則として 、良い魔術・白魔術を使います。また聖書の天使対悪魔の戦いを思わせるハリ ・[と黒魔術を使うヴォルデモートとの対決が物語の軸となっているほか、恐ろ しい竜や怪獣との戦い、予言と呪い、魂を奪われる恐怖など、聖書関連のテー マが頻出します。また・zグワーツ魔法魔術学校が、春のイースター、冬のクリ スマスの休暇など、一般の学校と同じキリスト教の行事暦に基づくのは、反キ リスト教的と見なされてきた魔法使い・魔女の学校としては不思議なことです 。
学園物語と魔法による解決の爽快感
その一方で興味深いのは、『ハリー・ポッター』シリーズには、登場人物た ちの相互関係が、非常にリアルに描かれているという点です。ダーズリー家で のハリーの不遇ぶりや、ホグワーツ魔法魔術学校でのいじめ、罰、競争、人間 関係など、ハリーの目の前にはありとあらゆる問題が立ちふさがりますが、そ うした問題をハリーは教師やOBそして友人の助けを借り、「魔法」を使って解 決します。読者はこの物語を読むことで、ハリーが抱える問題に共感し、魔法 による解決に爽快感を感じているのです。