法学博士 日高 義博
専修大学は、1880年(明治13年)、アメリカ留学から帰国した相馬永胤、田尻稲次郎、目賀田種太郎、駒井重格の4人の若者により創立されました。4人の創立者たちは、明治維新後、アメリカのコロンビア大学、エール大学、ハーバード大学、ラトガース大学に長期にわたり留学し、帰国後、経済学や法律学を日本語で教授するため本学の前身となる「専修学校」を創立しました。いち早く近代法の考え方をわが国に根付かせようとした本学は、五大法律学校の一つとして重要な役割を担いました。わが国があらゆる分野において新時代を担う人材を求めた時代にあって、4人の若き創立者たちは、留学によって得た最新の知見を社会に還元し、近代法の黎明期にあった母国日本の発展に寄与しようとしたのです。いわば、専門教育によってわが国の人的基盤を整備し、市民社会の屋台骨を支える人材を育成するという「熱き思い」がありました。その後、わが国の近代史に光と陰が綾をなしているように、本学の歴史にも喜びと苦難の出来事が交錯し、難局にあっては、オール専修の英知を結集して、わが国の高等教育の歴史に専修大学の足跡を刻んでまいりました。
本学は、これまで関東大震災や戦禍などによって極めて困難な状況に直面しながらも、学窓の灯火を守り続けてきました。平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震は、予想をはるかに超える被害をもたらしました。専修大学にあっては生田3号館等が損傷し、新学期からの授業展開にも大きな支障が生じました。新学期の授業開始は、4月下旬となりました。激震地にあった石巻専修大学では一層困難な状況にありながら、被災者救援活動を続け、5月20日にようやく授業を開始することができました。地震、津波等による被害は日々拡大し、現在では、東日本大震災と呼ばれるに至っています。本学では被災した学生も多く、学費減免等の特別措置を講じましたが、数年にわたる支援が必要な状況にあります。
今日におけるこのような難局といえども、常に創立の原点に立ち返り、本学の進むべき指針を熟慮するならば、自ずと道は拓かれます。その指針として、本学は、「社会知性の開発」を21世紀ビジョンに据えています。社会知性というのは、「専門的な知識・技術とそれに基づく思考方法を核としながらも、深い人間理解と倫理観を持ち、地球的視野から独創的な発想により主体的に社会の諸課題の解決に取り組んでいける能力」のことです。価値体系が崩れ、倫理観が迷走している今日の社会において、この社会知性を開発することは、問題を発見しそれを解決するための能力を身につけるだけではなく、人間性豊かな倫理観のある有為な人材を育成することを大学教育の柱に据えることを意味します。このことは、創立者たちが専門教育によってわが国の人的基盤を築こうとした熱き思いを、現代社会において実現することであると考えます。
2010年4月に開設した新学部「人間科学部」、文学部「人文・ジャーナリズム学科」、それに大学院商学研究科の「会計学専攻」は、順調に教育・研究活動を推進しています。法学部の1年次生は、これまで生田キャンパスで勉学していましたが、来年2012年4月からは、神田キャンパスで勉学することになります。神田キャンパスにおいて、大学院法学研究科、法科大学院を含め、法学教育機能を集約することにより法学教育の充実が期待できます。
専修大学社会知性開発研究センターでは、現在、文部科学省「私立大学学術研究高度化推進事業(オープン・リサーチ・センター整備事業)」として『古代東アジア世界史と留学生』(東アジア世界史研究センター)、同省「私立大学戦略的研究基盤形成支援事業」として『持続的発展に向けての社会関係資本の多様な構築:東アジアのコミュニティ、セキュリティ、市民文化の観点から』(社会関係資本研究センター)と『融合的心理科学の創成:心の連続性を探る』(心理科学研究センター)、日本私立学校振興・共済事業団「学術研究振興資金」として『「ミシェル=ベルンシュタイン文庫」の史料学的研究』(フランス革命史料研究センター)等の研究活動を行っています。KSコミュニティ・ビジネス・アカデミーは、本年度から事業名を川崎市・専修大学共同市民ビジネス人材育成事業「KS(川崎・専修)ソーシャル・ビジネス・アカデミー」とし、川崎市と専修大学が官学共同で運営し、社会と時代の要請に応える川崎市民教育プログラムを提供します。また、キャリアデザインセンターでは、「社会と大学との間の学びサイクルの活性化」プログラムが、文部科学省「大学生の就業力育成支援事業」に採択され、キャリア教育の推進に取り組んでいます。
本学の歴史を顧みるならば、関東大震災での校舎の全壊、第二次世界大戦後の焼け野が原からの再起につづく、第3の転換期に立っていると言えます。これまで数々の難局を克服してきた本学の底力により、今回の大地震も乗り越え、オール専修の力を結集して日本社会の復興に寄与していきたいと思います。
今後も、「学生を基本に据えた大学づくり」を念頭におきながら、教育・研究環境のさらなる充実を図り、「社会知性の開発」を推し進めていく所存です。
平成23年7月13日
E-mail president@isc.senshu-u.ac.jp